トレーニング施設
地獄の怪鳥。簡潔にそう表現されたそのモンスターは、翼を広げると10mはありそうなサイズの巨大なカラスだった。
しかし、そのステータスは木阿弥の奈落の下層のモンスターと比べても遜色ないレベル。
モンスターを上から下に運べる賢さ。群れること。その条件に合致する中では最も戦闘力が高く、扱いやすそうだから俺はこいつらをざっと三百匹ほど召喚することにした。
召喚の際にすれば、一匹ずつではなく全ての個体にまとめて身代わりを含めた強化系耐性系再生などのスキル一式や上限まで昇華、レベルアップなどをまとめてできるシステムらしい。
この怪鳥だけじゃなくて、即戦力になるモンスターを召喚するのには良い方法かもしれない。
尤も、俺の理想とする俺がなにもしなくても強化される迷宮とは真逆なので考え処ではあるが。
そんなこんなで地獄の怪鳥を完全強化して二百匹。
三百匹なのに六十兆DPほどかかって、流石にビビったがやはり一京の前では(略
彼らを呼び出している間に、奈落の壁面に魔界樹をいくつも植えていく。
奈落の幅は広くそして、数千m以上そこは深い。ここと最上層は繋がっているはずなのに、光が全く差し込まないほどの深さ。
落ちた時の体感で適当に数千mと言ったが、もしかしたらもっとあるのかもしれない。
俺を除いて誰も到達したことがないので、計ったことはないから解らないが。
タキエルの助言通り、五百m弱を目安に魔界樹を何本も設置していく。
延々と設置していて思ったが、ここは全二十五階層分の深さしかないはずなのに――それぞれが百mあっても二千五百m
しかし、体感的にもっと高さがありそうな感じだった。
具体的には一万m以上。まるで、次元が歪んでいるような、奈落の違和感を実感させられる。
それでもこんな重力に逆らう植え方をしても安定感がある辺り、やはりDPは万能で魔界樹は素晴らしいと思った。
……まあ、こんなもんだろう。
怪鳥達には、モンスター達が来たら下まで運んでやるように。そしてそれ以外は全部殺すように命じてから、魔界樹の方へと飛び立たせた。
二百匹もいれば足りないって事もないだろう。
後は、各階層の王達にいつでも奈落の底に来れるシステムの全容と、定期的に怪鳥に餌をやってほしいという旨を伝えれば、まぁ良い感じになりそうだ。
と言うわけで、思い立ったが吉日、電話でおのおのに伝えておいた。
「さて、トレーニング施設を作るか! ……とは言え、どうすれば修練に向くようになるだろうか」
「そのためにあっしを呼んだんでしょう? 任せてくだせぇ。考えはありますから」
「それは助かる」
俺は、主に鬼人のそして時折タキエルの助言を元に偶に俺も発案して却下されたりされなかったりで、木阿弥の奈落をトレーニング施設に化けさせた。
◇
トレーニング施設は大きく分けて三つの修行要素を意識して作った。
一つは強敵。二つは環境。三つは極限。
一つ目の強敵はそのまま敵が強いことだ。これは主に木阿弥の奈落のモンスターのポップ陣を全て最大まで強化することで実行する。
そもそも木阿弥の奈落のモンスターはめちゃめちゃ強い。
どれくらい強いかと言えば、最下層にもなれば完全強化されていない王と互角に戦える猛者もわんさかいるくらいには強い。
流石に全モンスターを完全強化する――とまではいかないが、そのモンスターのポップ速度を最大限まで上げ、その代わりに木阿弥の奈落のモンスターには味方同士でも襲って良いと指示を出している。
当然モンスターでもモンスターを倒せば経験値は入るしレベルも上がる。
もしかしたらその過程でスキルも習得するかもしれない。
つまり生存競争を行わせることによって、より優秀なモンスターだけが残っていくシステムにする。迷宮を蟲毒化するのだ。
二つ目の環境は、そのままだがつまり厳しい環境でも戦っていかなければならないと言うことだ。
一階層は純粋に空気を薄くしてみたり、二階層は気圧をかなり高くしてみたり、三階層は死なない程度の毒ガスで満たしてみたり、四階層は温度を高くしてみたり、五階層は逆に寒くしてみたり、六階層は重力を高めてみたり、七階層は逆に無重力にしてみたり、八階層で魔素を極端に濃くしたり、九階層では次元の歪みを設置してみたり。
そんな感じの思いつく限りの厳しい環境を設置した上で坂や風砂嵐や日照りや雨などのギミックまで設置する。
それは最終階層を草原にしたように、またこういう厳しい環境も創れるのだ。
めちゃめちゃコストが掛かって――特に重力と次元をいじるのが高く付いて環境だけで百兆DPほど消費した。
まぁ、予算から見ても微々たる額なので良いが。
木阿弥の奈落に生息するモンスターはその階層のモンスターにはデフォルトでその環境への適性をつけておいた。しかし、この迷宮の全モンスターに適性をつけているわけではないので、ゆっくりと環境に慣らしつつ、しかし強力なモンスターと戦わねばならなくなる。
そして最後は極限。なんとこの木阿弥の奈落のトレーニング施設、侵入者が入ってくる可能性も想定しているので途中の救済措置なんて一切用意していない。
だから、ここから脱けたければ来た道を引き返すか、もしくは九階層の最深部まで言って転移陣でそれぞれの階層の入り口に転移するかしか方法がない。
つまり、この迷宮のモンスターを強化するために作ったこの施設でこの迷宮のモンスターが死ぬ可能性は大いにあるのだ。
と言うか生き残ったら大したものだろう。
完全強化した俺やタキエルは勿論、完全強化したモンスター達でも結構難易度が高そうだと鬼人は言っていた。
楽しそうに。
鬼である。鬼だ。
しかし、鬼人はなんだかんだ昇華をしまくった影響で疼いているらしく、テストがてらに今からこのトレーニング施設を巡ってみるらしい。
俺とタキエルは、鬼人に軽く引きながら最終階層に戻って鬼人が攻略する様子を見ていた。
結果として言えば、絶妙な難易度っぽく見えたけれど――鬼人でアレなら、確実にやり過ぎたと言うほかないだろう。
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