奈落の改造計画
「大丈夫だ。補佐のラプラス含めて有能そうなやつは既に強化してある。それに、お前はこの奈落の木阿弥の最後の砦だ。強化しないというわけにもいかない」
「そうですかい。迷宮主である貴方がそう望むのであればあっしは必ず強化されるんでしょうなぁ。しかしあんさん、強さは数字だけでは表せませんですぜ」
「だけど、ステータスの差はひっくり返せない。いや、時が進むにつれて技量だけでは絶対にひっくり返せなくなる」
「それは、どういうことですかい?」
絶対的なキャラスペックの差。この世界ならステータスの差。
訓練を積み確かに修行をしてきた達人なら、状況が揃えばスペックの差をも技量で覆すことができるのだろう。
さながら、ゲームの世界ランカーが素人相手にザコキャラで圧勝するエンターテインメントのように。
しかしだ。それは相手が『素人』だからという前提が成り立っている。
相手が同じ以上の技術があればステータスの差は致命的になるだろうし、そうでなくともステータスでその技量をゴリ押しできる程度の技量があるならゴリ押しされる。
スポーツだってそうだ。
新しい戦法や技術を生み出した時は、身体能力の差をも技術で覆すことができるだろう。いつかの東洋の魔女のように。
しかし、一度その技術が露呈してしまえば相手はその技術を研究し模倣する。
そうでなくとも、技術は常に研究され続けそれがすぐに拡散されるから、結局的に技術の部分は平等になっていくと思うのだ。
技術とは研鑽と訓練の成果以上に、情報媒体の側面が大きいと思うから。
故に時代が進むに連れ、その最低限のキャラスペックの差がどうしようもなくなっていく。
「――俺は、できれば未来永劫この迷宮を守って欲しいから、鬼人を越える技術の持ち主が来てもどうにかできるように、とりあえずキャラスペックだけは上げさせて欲しい」
「……ほぅ。面白い考えでございやす。本当なら意地でも拒絶してやろうと考えていやしたんですが、それなら強化して貰うのもやぶさかではございやせん」
「ただ、鬼人の言いたいことも解らないでもない。結局与えられただけの力は、身体に馴染まないって事は……俺自身自分を強化して解ったことでもあるし。そうだな。今思いついたけど、木阿弥の奈落をそのまんまトレーニング施設にでもするか」
「それは、更に面白えかんがえでございやす。あっし、あんさんのことを見誤っていたようですな。迷宮の暗闇にあっしの目もやられてしまっていたようでございやす」
まぁなにはともあれ。鬼人を完全強化した。
当然のようにスキルは完備だったが、この鬼人以外にも47レベルで驚いた。昇華もしていないらしい。
お陰で六十回の昇華上限に加え、大量の必要経験値もあってなんだかんだ百兆DP近く使ってしまった。
流石鬼人。強さにおいては最早この迷宮随一かもしれない。いや、間違いなく随一だろう。
俺、トレーニング施設作り終わったらこの人に弟子入りするんだ……。
そんな益体もない死亡フラグみたいなことを考えながら、
「そう言えば、トレーニング施設を作るにしても……どんなのが効果的なのかさっぱり解らん」
と言うことに気付いて、鬼人に付いてきて貰うことにして。
餅は餅屋に。戦闘関連のことは最強の男に聞くのが一番良いだろう。
そんなこんなで、奈落の木阿弥最終階層の下。木阿弥の奈落の表層にして、俺が奇跡的に生還したという思い出のあるこの場所にやってきた。
『ダイヤモンド・ヌゥ』
魔金剛の結晶が身体中に付着しているウミウシ――と言うかナメクジ。ナメクジならスネイルじゃないのか……と思ったけど、う~ん。
しかし、俺はきっとこのモンスターの上に偶然落ちれたから、今生きているのだろう。
あのぶよぶよボディに少なからず衝撃を緩衝されたのかもしれない事もそうだが、何よりもあの背中に浮かぶ魔金剛のコア。
落下によってアレを偶然砕くことによって俺は、ダイヤモンド・ヌゥを倒せて、今こうしてなんだかんだ生きているのだろう。
信じられない話だ。
多分、二度とあんな目にあって生きられる自信はないし、今奇跡的に生きれていることには感謝しなければならないが……とは言え、俺みたいな奇跡を他のやつに起こされても困るので、この奈落の落下地点一帯には立ち入らないようにモンスターに命令しておいた。
しかし、強化施設をここに設置するにしても奈落の木阿弥のモンスターが利用できなければ意味がない。
かといって、転移陣を各フロアに用意するのは、的に利用されたら非常に困るのでなるべく控えたい。
でもなぁ。ここにモンスターは簡単に来られるのに、侵入者は利用できないシステムって存在するのか?
鬼人に聞いてみるが、首を傾げられた。
あれ? 早速役に立っていない雰囲気だぞ? ……まぁ単に彼の専門外なのだろうが。
仕方ないのでDPを使ってタキエルを呼び出した。
「かくかくしかじかこういうわけがあって……」
「――なるほど。だったら、鳥とかに運んで貰えばどうですか?」
「鳥?」
「はい。こう、奈落の壁に数カ所魔界樹を設置して止まり木にして、モンスターの鳥を設置する。それだったら仲間には手を出さないでしょうし、侵入者が利用しようとしても怪鳥はむしろ侵入者を殺そうとする」
なるほど。その手はありなのか……。あるなぁ。
「いや、でも魔界樹を設置したらそれ伝手に降りてこられたりは……」
「だったら魔界樹ごとに450m以上離せば良いんじゃないですか。そもそも人間は450mだろうが5000mだろうが空気抵抗で落下時のダメージはほぼ同じになるはずですし」
確かにな。だからこそ、俺が生き残れたって言うのもあるが。
やってみる価値はあるだろう。俺はまた、自分がこうして生き残れているという奇跡を噛みしめながらタキエルの構想を形にしていく――。
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