第11話

 その夜、ベッドの上から二人で赤い灯を点す東京タワーを見つめた。

「色は、不思議。光の種類によって、見る人によって、感じるシキ、シキサイ?…は違う。虫が見ている色も、犬が見ている色も、みんな違う。今見えている色は、僕の脳が見ている色。先生が見ている色とは多分違う。だから、ホントの色はない、と思う」

 そう言いながら、両手で四角い窓を作り、手のファインダーで東京タワーを捉える。

 「でも、東京タワーは赤い、人間はみんなそう思う。赤は、生きている証し、だから、タワーも生きている。あれは、人みたい。だから好き。ええと、存在が有機的、スカイツリーはその反対」

「無機質?」

 時々、言葉が足りない彼の辞書の代わりをした。ここ数ヶ月で、驚くほど彼の日本語は上達している。特に、語彙が豊富になった。

「そう、無機質。生きているものには、血が流れている」

 そう言いながら、彼はちう、とわざと強く吸うように私の唇にキスした。

「ほら。赤くなる」

 確かめるように、唇に触れてくる。そして、今度はシーツに隠れている胸を露わにし、その先を抓むように愛撫した。蕾はすぐに堅くなって、彼の指先に反応し始める。

「血が集まって赤、になる」

 彼はゆっくりと、私の反応を楽しむように続ける。

「そして、ここも、」と私が抱えていた膝を押し開いて、濡れ始めたその中に指を差し入れる。彼の指はすんなりと入り、くちゅくちゅと水音が響いた。

「…あ、んん、あ…」

 息が上がり、再び体の中が火照り始める。無意識に出てしまう声に、顔を背けた。

「先生も生きている」

 劉天の唇が首筋に当たり、更に足を押し開いてベッドフレームに私を押さえつけ、彼が中に入ってきた。いきなり貫かれた快感に、体の芯から震えてしまう。枕に回した両手に力が入り、大きく喘いで仰け反った。オーガズムを迎えた私の中で、彼が動き出す。彼の動きに合わせて果てなく快感は続き、更に私を快楽の高みに押しやって、彼も達した。

 彼の重みを体で感じながら、はあ、はあと荒い息をつく。彼の息も上がっている。

 こんな風に、いったままセックスをしたことはない。いってからも、更にそれが続くような、快楽の果てに押しやられるような行為を、夫ともしたことはない。

 そっと顔を向けると、彼も私の方を見た。その頬に手を伸ばし、愛撫する。知らず、涙が枕に伝わった。彼が愛おしい。そう思うことを止められない。

「透子先生?」

 私は首を振り、何でもない、と答えた。

 彼が頭をもたげ、目頭にキスしてくる。彼の優しいキスを受けながら、この人を失うかもしれない、という恐怖がどこからともなくやってきて、彼に強く抱きついてしまう。そして、強く抱き返されることで安心感を覚えた。


 

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