第7話

 学校の近くにある立明大のすぐそばには、有名大学に相応しく受験期に受験生などが利用するホテルがある。そのホテルの一階にあるカフェで劉天は待っていた。

 ホテルのロビーに入って、まず受付をした。自分は泊まるつもりはないので、一人部屋にする。部屋を確保して、ほっと息をついた。私が受付をしている間後ろで待っていた劉天に振り返ると、ちょっとはにかんだ笑顔を見せた。私も小さく微笑み返す。

「お腹が空いたね。何か、食べる?」

 彼は肯き、何でもいいと言った。彼の好みが分からないので、とりあえず地下にあるパスタのレストランに入った。

「このホテル、来たことがあります」

 運ばれてきた前菜に手をつけながら、彼が言った。

「そう。受験の時?」

「いいえ」彼はフォークを使って、少し食べずらそうにしながら続ける。「初めて日本に来た時、お母さんと泊まりました。その後、お母さんが日本に来ると、ここに来ることがあります」

「ああ。学校に近いものね。じゃあ、マップの確認は要らなかったわね」

 私が言うと、劉天は「もっと一緒にいたい、そう思ったから、必要じゃなくてもいいです」そう言って俯く。つられて、私も下を向いた。頬が熱くなる。なんて、ストレートなんだろう。

 劉天はあまり食が進まないのか、お肉を少し食べただけで、ほとんどのものを残した。最後に来たコーヒーもあまり飲まない。気のせいか、口数も少なかった。

 緊張しているのかな。そう思って、あまり詮索はしなかった。

 食事を終え、予約した部屋に向かう。彼はそわそわしながら、後についてきた。案内役のボーイが行くと、何度か泊まったという劉天は、部屋に入り鍵をテーブルの上に置くと、部屋の様子も見ずにバスルームに入ったまましばらく出てこなかった。手持ちぶさたで、カーテンから覗く窓の外を見ながら彼を待った。

「すみません。緊張しています」

 バスルームから出てきた彼が言った。何だか立場が逆だな、と思いながら首を横に振る。彼は少し安心したように、そばに来た。ゆっくりと反応を伺うように、私の体に手を回す。心なしか、手が震えているようだ。私がじっとしていると、彼は頭を下げ、唇を合わせた。そのまま痺れるくらいの時間が過ぎる。

 彼は唇を離して、大きく息をついた。

「ごめんなさい。上手くできない」

 私から離れ、ドサリとベットに体を投げ出す。両手で顔を隠し、落ち込んでいる風にも見えた。彼のそばに座り、その手をどけてから、彼の顔を覗き込むように唇を近付ける。彼がいつもするように、ちう、と彼の唇を吸った。何度も啄むようなキスを繰り返す。彼の手が伸びてきて、私を抱きしめ、深まるように口を開けた。それに応えるように、私も唇を開く。彼が入ってきて、そのままは時が止まったかのようにキスを繰り返した。

 彼の舌と唇が、唇を離れ、首筋も愛撫する。首筋を上下しながら、耳たぶを食み、そこにも舌を這わせた。

「…は、あっ…」自分の唇から大きく喘ぐ声が出た。

 劉天は自分のシャツを剥ぎ、私のブラウスに手をかけた。上手くボタンが外せないようなので、自分でボタンを外す。彼がブラウスの前をはだけ、ブラジャーに手を伸ばした。ブラジャーの上から感触を確かめるように揉み上げる。

「温かい…」

 劉天は、布団の柔らかさを確かめるかのような仕草を何度も繰り返してから、私の谷間に顔を埋めた。鼻先と唇で肌をなぞってきた。

「ん…」たまらず、声が出てしまう。

 彼はその声に力を得たかのように、ブラジャーをたくし上げ、露わになった乳房を唇と指で愛撫し始めた。彼の慣れない、けれど気持ちを煽るような愛撫が続き、やがて私たちは一つになる時を迎えた。初めての彼に、ここに来る前に用意したゴムを装着し、私の場所を指で確かめさせる。ゴムを着けただけで、彼はいきそうになった。本当は、すぐにでも彼がほしかったけれど、そして、強く求めてほしかったけれど、自分を抑えるようにゆっくりと彼を自分の中に導いた。

 彼の先っぽがそこに入っただけで、狂おしくなる。

「はっ、んん…」大きく息を吐きながら、彼が入るのを手伝った。私の奥まで入りきると、彼も大きなため息をついた。そして、

「ごめんなさい。終わっちゃった」とすまなそうに私の肩に頭をつけた。

「…ああ、うん」

 私は肯いて、彼のゴムを取った。まだ、堅い彼のそれに触れてみる。両手でサワサワと触れていると、彼のそれがまた大きく堅くなり出した。

「また、してみる?」

「うん」

 彼がゴムを着けるのを待って、入り易くなるように腰を上げて迎え入れる。今度は劉天もすぐにはいかなかった。腰を打ち付け合いながら、お互いの唇を貪り、気が遠くなるほど求め合った。

 今まで気持ちを抑えていた分、二人の熱は高まる。彼の若さもあって、何度も求め合った。けれど、そのまま泊まるわけにはいかず、残業という名目でおかしくない時間にここを発たなくてはならない。夜の八時を過ぎ、後ろ髪を引かれるように、彼を置いてホテルをあとにした。

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