第17話

 翌日は、曇りだったけれど、雨は降らなかった。

 どんよりとした灰色の雲が足早に流れていく。風が爽やかで、幾分、空気中の湿気も和らいでいる気がする。馨は、念のために一応傘を持ち、「行ってきます」と挨拶をして、家を出た。

 門を出たところで、佇む人影に気付いた。向こうも馨に気が付いて、こちらに顔を向ける。

「おはよう」

 馨が言った。

 白い帆布の学生鞄を肩に提げた聖也が馨を待っていた。馨は、彼に近付き、向き合う位置で足を止める。

「…昨日は、ごめん。あと、届けてくれて、サンキュー」

 幾分馨から視線を外して、聖也が言った。馨はわざと彼の顔を覗き込むように見上げ、

「どういたしまして。帰ってこなかった理由、言いに来たの?」

少し意地悪な声を出した。

 聖也が困ったような顔で馨を見返す。

「…ごめん。最近、その、アレを食べた後、変なんだ。妙に落ち着かなくて…どうしても、帰れなかった…」

「ふうん」

 本当は、帰ってこなかった理由意外にも訊きたいことはあった。けれど、馨は訊くのを止め、彼を促して、一緒に歩き始めた。

「ありがとう。…ほんとは、何回言っても言い足りない」

 馨と足並みを揃えて歩きながら、聖也が彼女の耳元にささやいた。くすぐった気に肩を上げてから、もう片方の手で聖也を向こうへと押しやる。

「…そういうのは、他でやってって、言ってるでしょ?」

 聖也は笑って馨を見返し、「了解」と悪びれた風も見せずに言って見せた。

 馨は聖也のその笑顔を見ながら、

(これでいいや)

と、妙に納得して、再び肩を並べて歩き始めた。

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