第11話

 綾子たちはかなり手持ちぶさたな感じで、馨たちを待っていた。馨が行くと、やっと来たか、という風に彼女を見た。

「ごめん。結構、時間かかっちゃった。今、聖也たち男どもで、半押しに行ってるから」

 何となく彼女たちの顔を見たら、言い訳をしてしまった。馨の説明に、まだ待つのか、と彼女たちががっかりしたような顔をする。

「すぐ、来るよ」

 道路脇の白いガードレールに寄りかかって話し込んでいたらしい三人の隣に行って、馨も仲間入りする。綾子とゆかりが場所を空けてくれた。

「何か、座るような場所もなくてさ」

「ごめん。待ってるのも、結構辛いよね」

 馨が言うと、ゆかりは隣で大きくのびをして、

「なんか、アイス食べたくなったぁ」

と、大きな声を出した。

「確かに、そんな気分」

と、一緒に待っていた加藤の友人、茂彦も肩をすくめる。

「あとで、打ち上げと、いこ」

 綾子が言って、みんなで肯いた。そうこうするうちに、聖也たちが戻ってきて、馨たちは最後のラストスパートで、ゴールの校門を目指した。男子のみのチームならここからラストラン、という展開だろう。馨たちは男女混成のチームだったので、初めのうちは足早に向かう程度だったが、それも校門に近付き、他のチームの姿を見るや、男子が走り始めた。仕方なく、馨たちもそれに倣って走り始める。

 疲れている上の、ラストランは馨たちにとってかなり辛かった。普段鍛えていないことが悔やまれる。それでも男子に背中を押され、馨は加藤たちに手を取られて、ようやくゴールを切った。

「も、走れないっ」

 ゆかりがゴールのすぐそばで、しゃがみ込む。馨はその手を取って、給水所まで連れて行き、そこで用意された水を浴びるように飲んだ。

「頑張ったな」

 聖也もやってきて、隣で水を飲み始める。それを不思議なものを見るかのように、馨は見つめた。

「何?」

「いや、何でも」

 水は飲むんだ、というコメントは自分の胸にしまっておいた。お昼のお弁当の時にはかなり食が進まない風に見えたことを思い出しながら、それでも、馨は普通の友達同士のように、聖也と並んで一緒に水を飲んだ。聖也の友達の板波と中島が来て、聖也に水を掛ける。そのまま水の掛け合いが始まった。それを呆れたように見ていると、綾子や加藤もやって来て、完走を一緒に祝った。

「あとで、みんなでアイス食べに行こう」

 ゆかりがまた言っている。今日は帰りにアイスで打ち上げ、という運びになるらしい。馨は肯いて、まだ水を掛け合っている聖也たちの方へ視線を走らせた。

 聖也は変身して影を食べたことなど、まるで嘘だったかのように屈託なく、部活仲間とはしゃいでいる。そして、それを遠巻きに見ている女子たちの姿が目に入る。馨は複雑な気持ちでそれらを眺め、それから他の生徒たちが集まっている方へ向かって歩き出した。

 ゴール近くに群がっている学生の群れから少し離れたところで、馨もゴールを切る学生たちを応援する。もう、かなりのグループがゴールしていて、残るは三分の一程度の学生だ。結局、馨たちは半分よりは上、くらいの成績だったようだ。

 トップは、剣道部部長の田(た)芝(しば)率いる部活動チームだったらしい。田芝は、馨も知っていて、結構好感を持っている男の子だった。

「優勝は田芝チームかぁ。ま、完走しただけでも、あたしらはよくやったよね」

 傍らに来た、綾子が言う。

「そうだね」

 馨も肯いた。馨にとっては、田芝が一番なのは納得できることだった。自分たちが上位でないことも、聖也と自分しか知らない、途中のハプニングを考えれば納得できる。

「帰りは、アイスだって。聖也にも伝えといた」

 綾子が笑ってそう言い、馨もそれに応じて笑った。

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