第8話

 青々とした新緑が眩しい季節が訪れた。

 比較的気候も安定して、晴れた日が続いている。この季節になると、馨の通う中学校では、毎年学年別でオリエンテーリングを行う。今年は三年が最終日に当たり、その日が近付いてきていた。 

 三年生は最後とあって自由にグループを結成できた。優勝を狙う部活動グループと、その他の仲良しグループにほぼ大別されていた。広い学区の全てのポイントを歩くので、かなり体力がいるイベントだ。たいていは男女の混成グループが多かった。女子だけでポイントを制覇するのはかなりきついからだ。

 グループの登録段階で、親友の綾子が言った。

「ね、聖也と組もう。その方が早く終るって」

 女子の羨望の目が気になった馨は躊躇したが、綾子は譲らなかった。仕方なく、彼女に従って、聖也に打診してみる。思いがけず、色好い返事に馨はちょっとがっかりした。

「誘っておいて、その反応は何?」

 思わず、聖也本人にも咎められる。馨は気が重そうに、

「うん、そうなんだけど」と返事にならない返事を返した。

「それで、他には?」

「え?加藤あたりに誘われてるから、その辺かな?聖也の友達もいいよ?」

 聖也はちょっと返答に間を置いて、考える仕草をした。

「加藤はダメ。他には?」と、馨と一緒にいた綾子の方を向く。

「うーん、高岡とか?なんで、加藤はダメなの?結構、チャランポランそうだけど使えるよ?」

 綾子の言葉に、聖也は答えなかった。

「いいじゃん、加藤で。あとは聖也の友達とか、ともかく体力ありそうなのがいいんじゃない?」と馨も畳み掛けるように言う。

 聖也はやや不服そうな表情で肯いた。その他のメンバーはそれぞれ集めることで合意する。馨は、聖也と組む事で女子の非難を浴びることが憂鬱だったが、綾子にとってはむしろ気分が良いことらしかった。

「聖也が、加藤、嫌な訳が分かった」

と一人満足そうに笑みを漏らしている。

「聖也って、やっぱり、犬っぽいよね」

「?」 

 聖也と馨は意味が分からない、というようにお互いの顔を見つめる。聖也がちょっと肩をすくめてから、綾子に目を向けた。

「ともかく、助け合いの精神でポイントを稼ぐ方法で、早々切抜けようぜ」

「オッケー」

 馨と綾子は口を揃えて言い返し、聖也を後にした。

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