第十三幕 ②
「高遠侑歩さん、二番へどうぞ」
アナウンスが流れた。
「加藤、俺、行ってくるから、加藤はここで待ってて」
「え、俺も行っちゃ、だめ?」
「ちゃんと、あとで話すからさ」
渋々、加藤は承諾した。侑歩と母親だけで診療室に入る。
「やあ」
担当の高井が、入ってきた侑歩に笑顔を向けた。
「お母さんもお久しぶりですね」
言いながら、侑歩に座るように促す。
「じゃあ、まず、最近の様子を教えて」
侑歩は生理の様子や最近の体調について簡単に話す。高井は聞きながら、パソコンのキーを忙しく叩いた。生理について詳しく聞いていなかった母親は、熱心に侑歩の話を聞いていた。
「じゃあ、あれからそれほど体調は悪くないんだね?」
高井が安心したように言った。
「それじゃあ、今日の本題に行こうか」
そう言って、高井はパソコン画面を侑歩と母親にも見やすいように動かす。パソコンの画面には、先日取ったMRIの画像が映っていた。
「これは、この間の検査の画像ね。ここに、子宮と卵管、それと精巣が映ってる。見える?」
「はい」
高井は侑歩にも分かるように、ゆっくりと説明してくれた。
「えーと、侑君の子宮は前のものと比べると、未熟ながら発達しているし、この画像を見る限りこっちの卵巣も機能していると思う。卵管も塞がってないしね」
画像をなぞりながら高井が言う。説明しながら、別の角度から撮った画像や断面図なども見せてくれた。
侑歩は黙って話を聞いていた。
「それから、精巣は、未分化のままだね。埋没した睾丸も見当たらないし、男性器も未発達だ。精巣の方は、癌化する可能性が高いから、いずれ除去手術が必要になるかもしれない。つまり、」
高井は気遣うように侑歩を見た。
「つまり、体は女性に変化している、と言っていいかもしれない」
何となく覚悟はしていたが、侑歩は言葉が出なかった。男として育ってきたのに、体が女性化している、と言われても反応できない。隣で母親が目頭をハンカチで押さえていた。
「侑君は、性自認は男の子だよね?性指向も…つまり、そういう対象だけど、女の子だったよね?」
高井に確認されて、侑歩は頷いた。
「え、そうなの、侑歩?」
少し驚いたように、母が問う。侑歩は再び頷いた。
「少し、突っ込んで訊いてもいいかな?」
「何ですか?」
「うん、その、侑君は、女の子とそういうことしたいという、欲求はあるかな?」
侑歩はしばらく黙っていた。
「ごめんね、ちょっと言いづらいよね」
高井は侑歩から視線を逸らし、パソコンに目を向けた。
「俺、キスはしたいと思います。触りたい、とも。でも、体とかに触りたい、とは…」
「男の子にはどうかな?」
「別にキスしたいとは思わない。触るのは平気だけど、そういうことをしたいと思ったことはない、です」
そうか、と高井は言って、意を決したように母親と侑歩に向かい合った。
「結論を言いますね。侑君の性自認は男性、性指向もおそらく女性が対象、でも、体はどちらかというと、女性の徴候を示しています。これから、ホルモン補充療法を行っていく予定ですが、男性として生きるのか、女性を選ぶのか、本人の希望もよく聞いた上で、ご家族で話し合って、決めていただきたいと思います」
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