第十一幕 ②

 劇の舞台は中世ヨーロッパ。ある街に、二つの対立する勢力があった。名家で知られるジェローナ家とペンティリエ家、ジェローナ家の跡取り息子であるエリクシオと、ペンティリエ家の娘・フリーダは恋仲にあった。

 第一幕はエリクシオとフリーダが出合い、恋に落ちるシーンから始まり、互いのことが家にばれて、二つの家の争いが始まるシーンまで。そして、第二幕は、両家の争いから始まった。争いのシーンでは、エリクシオに扮した加藤とダンス部のメンバーが剣をふるいながら群舞を舞う、今回の一番のダンスシーンだ。

 ダンスの最中に現れたフリーダは、両家の争いを止めようと戦いの渦中に身を投げ出す。エリクシオ目掛けて、フリーダの兄・ロテオの剣が振り下ろされようとしたとき、間に入ったフリーダにその剣が当たった。

 そこで舞台は暗転し、群舞は消え、舞台の真ん中だけにライトが当たる。フリーダとエリクシオの二人だけのシーン。フリーダは命だけは取り留めた。

 けれど、結局フリーダとエリクシオは別れることになった。第三幕は、修道女となったフリーダが山奥の修道院で暮らしているシーンからだ。

 フリーダが菜園でのイチゴを摘んでいると、隣国の貴族の公子が現れ、美しいフリーダに一目惚れをする。公子は事あるごとに修道院を訪れ、フリーダに求婚した。ミラマール公子の度重なる求婚に窮したフリーダは、意を決して自分の体に残る傷を見せる。

 舞台では二人の姿は岩場に隠れ、見せているということだけが観客に分かるような演出になっていた。こういうところも、侑歩の優れた演出だ、と未来は思う。

 そして、その傷を見たミラマール公子が言う。

「どんな傷を負おうとも、貴女が汚れなく美しい魂の持ち主だということには変わりない。貴女は、私をたぶらかそうとする、娼婦ではないし、男でもないし、悪魔でもない。そんな傷があろうとも、貴女は人の姿を持つ、乙女ではないか」

 ここは長いセリフが続く。

「その傷がそんなにも忌まわしいというのなら、それは神があなたを見つけるためにつけた聖創(せいそう)と思おう。私があなたを見つけられるように、神があなたにその聖なる印をつけたのだ」

 フリーダは、ミラマール公子のその言葉に真の愛を感じ、彼を受け入れる。舞台の上で、花冠を載せられ、人々に囲まれながら微笑む二人。群舞の舞が二人を包み込み、幸せなラストを迎えた。

 すごくロマンチックで、惹き込まれる劇だった。

 未来は自分の今の状況も忘れ、舞台に心奪われた。周りの観客も大きな拍手を惜しみなく、彼らに贈る。

 一旦すべてのキャストが下がって、侑歩を伴ってもう一度舞台に姿を現した。拍手の音が更に大きくなる。

 整列したキャストは、侑歩を中心に観客に向かって深々とお辞儀をした。顔を上げた侑歩は照れたように笑い、加藤扮するエリクシオ、そしてロテオ、ミラマール公子、フリーダを演じた学生達に囲まれて、手を振った。

 未来の隣で奈緒も感激したように大きく手を振っている。未来は惜しみない拍手を送った。舞台の侑歩の視線が観客席を一巡して、未来に注がれる。その熱い視線に、未来は応えることもできず、ただただ手が赤くなっても大きな拍手を送るしかなかった。

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