第九幕 ①
演劇部の公演まであと半月に迫った。
市民会館を借りた結構大きな舞台だ。
ダンスサークルのメンバーを誘ってボリュームアップしたダンスシーンも形
になってきた。加藤の提案が功を奏したと言っていい。
侑歩の演技指導も熱を帯びてきた。つい、学校に許された部活時間を過ぎてしまう。
ダンスの指導は加藤に全面的に任せてあった。小学校からダンスを習い、今も週一の割合でダンスの教室に通っている加藤が適任だと思っている。そうすることで、侑歩は演技指導に集中することができた。
未来との関係は曖昧なままだ。
キスはするけど、恋人と言っていいか分からない。
「高遠君、もう時間」
二年女子の常田沙樹(ときださき)が言った。熱が入りすぎる侑歩と加藤のブレーキ役だ。タイムキーパーとしても優秀だった。
「ああ、ほんとだ」
侑歩は音楽室の時計を見て言った。
「加藤、終わりにするぞ」
侑歩が声を掛けると、加藤は了解というように頷いた。ダンスシーンについて、ダンスサークルのメンバーと詰めていたようだ。
「解散」の声を掛けると、部員はほっとした表情になった。それぞれに帰り支度をして、音楽室を出て行く。侑歩も音楽室に鍵を掛けて、加藤と歩き出す。
「今日、学校来るの、遅かったけど、病院?」
「うん、あれ、言ってなかった?」
聞いたかな、と加藤は首を傾げる。
「最近、別行動が多かったからな…侑歩は未来ちゃんばっかで」
加藤の言葉に、かっと侑歩の頬が染まる。加藤は複雑な表情を侑歩に向けた。
「今日は、検査だったんだ。次は親と来いって言われてる」
声のトーンをワントーン落して言う。
「だから、病院なら俺が行ってやるって言ってるじゃん」
侑歩の頭をポンポンと叩きながら加藤が言った。侑歩は自分の頭を庇いながら、側を離れる。
「加藤じゃ、保護者にならないだろ」
「じゃあ、姉ちゃんと俺」
侑歩は加藤の顔を見上げた。加藤は、家族のように、侑歩によくしてくれる。唯一の味方と言ってもいい。親は、性別がはっきりしない侑歩をどう扱っていいか分からず、距離を取ったままだ。
「ちゃんと、母さんに言うよ。亮ちゃんも来ていいって言ったら、来てもいいよ」
侑歩が言うと、加藤は了解、と敬礼の真似をした。
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