第六幕 ①

 翌日、侑歩は加藤の家から三〇分ほどのところにある、東経医大病院(とうけいいだいびょういん)にいた。

 いつも定期的に通っている泌尿器科に向かう。入り口の機械で受付を済ませ、三階の受付に向かおうとエレベーターに乗る。ドアが閉まる直前に、数人の男が乗り込んできた。その一人と目が合う。白い白衣を羽織った男は、侑歩を見ると、笑顔を向けてきた。

「侑君、久しぶり」

 ペコリと頭を上げて、白衣の男に挨拶をする。

「ご無沙汰してます」

「大きくなったねぇ、今、高校生かな?」

 白衣の男は、そう言って微笑んだ。見た目は、三〇代後半がいいところだ。

 高井匡隆(たかいまさたか)、性医療の専門家で、現在はこの病院の産婦人科科長を務めている。子供の頃、侑歩は産婦人科で彼に診てもらっていた。

「今日は外来?」

「はい、定期外来で」

 高井は持っていたカルテを隣の看護師に渡した。

「僕も、今日は泌尿器科に呼ばれているんだ。また、後でね」

 エレベーターが三階で点滅し、ドアが開いた。高井は看護師を連れ立って、先に降りていく。侑歩はもう一度頭を下げて彼を見送ってから、自分も降りた。颯爽と歩いて行くその後ろ姿を追いながら、同じ方向に歩いて行く。

 泌尿器科の受付で、受付を済ませ、前に並んだ椅子に腰掛けた。スマホを取り出し、加藤の姉と加藤にLINEを入れる。加藤はついてくると言ってきかなかったが、侑歩が丁寧に断った。

 加藤の扱いは、親が侑歩に距離を置いている分、侑歩的にはかなりうれしいものではあった。どこにも気持ちの拠り所がないよりはずっといい。それでも、侑歩の悩みが解消されるわけではなかった。

 自分にとって、異性とも呼べる未来に惹かれ始めた今になって、生理がやってきた。生理が来る、と言うことは自分の性は女性に傾き始めている、と言うことなのだろうか。

 考えると憂鬱になるので、鞄の中に入れた塾の課題を取り出した。しばらくは、課題をやることで気を紛らわせることにした。

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