第四幕 ③

 未来は、また、演劇部に顔を出すようになった。

 もうすぐ、演劇部の舞台公演がある。奈緒が言っていたように、本当に裏方が足りないようだった。

 未来は、部活動の最後までいられないことも多かったが、時間の許す限り大道具の舞台背景や衣装作りを手伝った。衣装作りは家に持ち帰ることもできたので、学校で手伝えない分は家で仕上げてきた。

 未来の制作した舞台衣装は演劇部でも評価が高く、だんだん未来本人も衣装作りにはまってきた。放課後に、家庭科室を独占して、演劇部のメンバー数人で集まって衣装を作る。

「これ、コスプレ衣装を作るのと同じだよね?」

 一緒に衣装を製作しながら、メンバー全員で盛り上がっていた。

「コスプレって、見たことないから、分かんない」

 未来が言うと、他の部員がスマホでコスプレの写真を見せてくれた。

「この衣装、侑歩君とか、似合いそうだよね」

 写真の女の子は銀髪のウィッグをつけ、お腹を出し、短いスカートを履いている。太股までのニーハイに白い紐ブーツ。

「ええ、高遠君が?これを?」

 未来が驚くと、他のメンバーは異口同音に賛成の意を表した。

「似合うって、絶対」

「線が細いし、腰も細いし、女の子が着るより、いけるって」

「彼、中性的じゃん」

 未来の中の侑歩は、線は細かったけれど、女の子っぽい感じはなかった。

 彼に見つめられ、ドキドキした記憶が蘇る。その時、

「やほっ」

ガラッと家庭科室の戸が開いて、加藤が顔を出した。

「これ、お嬢さん方に差し入れね。買い出しのついで」

 そう言いながら、袋に入れたペットボトルを持って入ってくる。その後ろに侑歩も続いた。ニコイチで行動しているので、当たり前といえば当たり前なのだけれど、侑歩の姿に、何となくドキドキしてしまう。

 こちらを見た侑歩と目が合って、未来は衣装に視線を落とした。

「あれ、未来ちゃん、時間、まだ大丈夫?」

 加藤が未来を見て、声を上げる。未来は慌ててスマホの時計を見た。既に五時を過ぎようとしている。

「あ、帰らなきゃ」

 最近衣装作りにはまって、帰りが遅くなりがちだった。慌てて立ち上がり、帰り支度を始めた。

「これ、持ち帰ってやってくるね」

 他の部員に言って、衣装を手提げに詰めて立ち上がった。

「もう、行く?」

「うん、またね」

 衣装作りの仲間に見送られて、そそくさと家庭科室を後にする。未来は侑歩と同じ空間にいるのが何となく照れくさかった。避ける訳ではないが、どう接しいいいか、困る。

「澤村」

 後ろから侑歩が追ってきた。

「これ、差し入れ、持ち帰って」

 ペットボトルを入れた袋を手に、足早にやってくる。そのまま、未来と並んで歩き始めた。

「別に、いいのに」

 未来が言うと、侑歩は笑った。その笑顔が破壊的で、未来は視線の置き場に困る。本人は無自覚なのだろう、と思った。

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