第一幕 ③

 二人は通りに近いところまで、公園内を移動した。通りが見えるベンチに腰を掛ける。

「高遠君、本当に大丈夫?」

 未来はカバンの中から、タオルを出して、彼に渡す。侑歩は黙って受け取って、顔の汗をぬぐった。

「助けてくれて、本当にありがとう」

 うん、と侑歩が頷く。

「案外強いんだね。ビックリしちゃった」

 ふふふ、と笑うと、侑歩がこちらを見た。笑いながら、ほろり、と頬を涙が伝わって、自分でも驚いてしまう。未来に向ける侑歩の目が、狼狽えたように泳いだ。

「ごめん‥」

 そう言って、涙を止めようとするが止まらなかった。あとからあとから溢れてくる。涙を拭おうとする手が震える。震えてうまく涙を拭えなかった。

「これ、」

 侑歩が見かねたように、さっき手渡したタオルで、目元をポンポンと拭いてくれた。

「‥ありがと」

 侑歩が震える手に自分の手を添えた。泣きながら、彼の手を見つめる。瞬きをすると、大粒の涙がまた頬を滑るように落ちていった。



 侑歩は未来の涙が落ちていく様を目で追った。静かに、ぽろぽろと手元に落ちていく。さめざめと泣くその姿を、可愛いと思った。長いまつげから落ちる涙が、きれいで愛おしい。

 顔にかかる柔らかい髪。ゆるくふわりとカールしながら肩に落ちている。小さな口元が震えている。

 小さくて、頼りなげな女の子。

 侑歩は吸い寄せられるように、彼女の顔に顔を近づけていた。未来と目が合う。うるんだ瞳が、自分を見つめる。ドクン、と心臓が声を上げた。

「高遠君、」

 その声を聞いた途端、侑歩は頬に溜まった涙の水滴に唇を寄せていた―――と思ったのもつかの間、未来に押し戻される。

「ご、ごめん」

「あ、あの、もうじき、家の人が来るから、私、行くね。ありがとう、本当に。タオルは使って」

 未来はそそくさと立ち上がって、通りの方に歩いていく。その後姿を見守りながら、侑歩は自分の唇に手を当てた。柔らかい、未来の感触がそこには残っていた。


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