第一幕 ②
未来は、不安な気持ちで侑歩が出て行った方を見ていた。
(このまま、高遠君に何かあったら、どうしよう。あの人達に捕まったら・・・。)
暗がりに一人でじっとしていると、更に不安が押し寄せる。
未来は制服のポケットを無意識にまさぐった。スマホが手に触れる。スマホを取り出し、指紋認証でロックを外した。さっきは男達に囲まれてスマホを取り出せなかったけれど、今なら連絡ができる。
未来がLINEを開いて連絡しようとした時、聞き覚えのある男達の怒声が聞こえてきた。はっとして声のした方へ振り返り、反射的に立ち上がった。それから慌てて座り直し、そろそろと四つん這いのまま自販機の後ろを抜けだす。ツツジの木の陰に隠れて通りを見渡した。
通りの向こうに、白い陰が浮き上がる。金髪の男だ。後の男は黒っぽい服で、闇に目立たない。侑歩も黒っぽいカーディガンに灰色のズボンだったから、ここからではよく分からなかった。けれど、もめているのだ、と言うことは雰囲気で分かる。
クラスの男子の中でも華奢な体つきの高遠侑歩が、三人の男達に敵うとも思えない。未来は手にしていたスマホで、110番に電話をした。
「はい、どうしました?」
電話先に出た警察官に場所と状況を伝える。近くの交番からすぐに警官が来てくれると言った。そうしている間にも、闇に目が慣れた未来の目に、男達が侑歩に殴りかかっていくのが見えた。
未来が声を上げる間もなく、侑歩はごく僅かな動作で男達の攻撃を躱し、相手の動きを逆手にとってわざと懐に入り、受け身を取るような仕草で次々に倒していく。未来が呆気にとられていると、侑歩は未来が隠れている方に走り寄ってきて、反対の方向に抜けて行った。男の一人がその後ろ姿を追いかけていく。
未来は堪らず立ち上がった。
「もうすぐ警察が来るから!呼んだからね!」
スマホを手に、そう叫ぶ。
追っていた男が未来の方を向き、もう一度侑歩の方を見返して、観念したように踵を返した。うずくまっている仲間を助け起こし、この場から去るように促す。
その時、タイミング良く警官が現れ、手にしていたライトで男達と未来を照らし出した。
慌てて男達が走り出す。
「お巡りさん、その人たちです!」
未来はできるだけ大きな声で言い、男達を指さした。警官は頷いて、逃げる彼らを追いかける。その後にも別の警官が続いた。
「君、大丈夫?」
後から自転車でやってきた中年の警官が未来に声をかけた。
「はい、ありがとうございます。友達が彼らを巻こうとして、こっちに走っていったんですけど・・」
未来は言いながら、侑歩の姿を探した。
「一緒に探そうか?」
警官が親切に言った。未来も頷く。
二人で、遊歩の消えた方に歩いていくと、ベンチの後ろに隠れるようにしてうずくまる彼を見つけた。未来が駆け寄る。
「高遠君、大丈夫?」
侑歩は顔を上げ、苦しそうに荒い呼吸をした。
「大丈夫かい?」
警官も自転車を止めて、侑歩を助け起こした。
カーディガンの裾が泥で汚れ、中の白いシャツも乱れている。未来は彼に近付いて、両手で裾の泥を払った。
「ありがとう、助けてくれて‥」
「二人とも大丈夫かな。制服、ということは高校生だよね?一応、名前と高校名を教えてくれる?」
「清陵(せいりょう)高校二年の澤村未来(さわむらみらい)です。それと、クラスメートの高遠侑歩(たかとおゆうほ)君」
「どんな字を書くのかな?」
未来は問われるままに、名前の漢字を教えた。それを中年の警官がメモ帳に書きとる。二人の帰路を訪ね、家族が来てくれることを未来が告げると、警官は安心したように自転車で去っていった。
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