双頭の夢〜二つ頭の見る夢は〜

青い星

第一幕 ①

 高遠侑歩(たかとおゆうほ)は、塾の帰りにコンビニで時間を潰していた。

この時間帯には、くたびれたサラリーマンや夜食を求める大学生などがコンビニを利用している。時々、塾帰りの小学生もいた。

 侑歩は雑誌コーナーで雑誌を吟味しながら、それとなく外を見やる。

 駅から家路に急ぐ人々が通り過ぎていく。侑歩は視線を本に戻しかけて、はっと外を見やった。制服を着た女の子とそれを囲むように二、三人の男がまとわりついて歩いて行く。

 女の子の横顔に見覚えがあった。同じクラスの澤村未来(さわむらみらい)。おとなしく、クラスでは目立たない女子だ。侑歩が所属している演劇部の助っ人でもある。

 彼女を囲んで、素行の悪そうな感じの男達が並んで歩く。

 なんとなく気になって、通り過ぎる彼らを見ていた。未来は下を向いたまま、足早に彼らを振り切るように歩いて行く。男がやいやい言っているのが、見ていても分かる。その中の一人が未来の腕を取った。彼女が嫌がっているのは、一目瞭然だった。

 通りにはサラリーマンや学生風の男達もいたが、誰もが見て見ぬ振りをしている。

 侑歩は取るものも取りあえず、コンビニを飛び出した。

 男達に腕を取られ、未来は道を外れて木立に囲まれた公園の方へと連れられていく。やばい、と思い、侑歩は駆け出した。

「おいっ」

 数歩先に未来の姿を捉えて、侑歩は叫んだ。男達が振り返る。同じように振り返った未来が、泣きそうな目で侑歩を見上げた。

「何だよ、テメーは」

 男の一人が凄む。

「離せよ、嫌がってるだろ」

 侑歩が言うと、髪を金に染めた男が、

「何、かっこつけてんだ、このヤロー」

と声を上げながら、近付いてくる。男は侑歩の顔を見ると、

「あれ、あんた、この子のお友達?」

と素っ頓狂な声を上げた。

「あんたも来る?」

 にやけた顔で侑歩を見下ろしてくる。金髪男が笑いながら、侑歩の腕を取ろうと手を伸ばしてきた。

「高遠君!」

 未来が声を上げ、侑歩の方へ来ようとする。残った男達がその腕を掴んで押さえ込んだ。

 はは、と金髪の男が笑う。侑歩は差し出された腕を掴むと、自分の方に引き寄せ、男の脇に入って腕をねじり上げ、背中から落とした。金髪の男が路上に背中を押しつけられたまま、呻き声を上げる。

 一瞬、その場の誰もが何が起こったか理解できずに立ち竦んだ。

 その一瞬を逃さずに侑歩は未来に走り寄り、呆然としている男達から彼女を奪って駆け出した。

「走って!」

 未来の腕を取ったまま公園に入り込み、暗い公園の道を走った。怒声と共に、男達も追いかけてくる。

 侑歩は走りながら、隠れる場所を探した。暗がりをうまく利用して巻こうと思ったが、単に男達との距離を稼いだにすぎず、隣を走る未来は明らかに疲労している。

 カーブと木立に男たちの視界が遮られたのを利用して、侑歩は近くの藪に逃げ込み、そこに数台立ち並んだ自販機の後ろに未来を押し込んだ。

 ハアハア、と荒い息をつく未来の口元を押さえ、しゃがみ込む。

 男達がドタドタと近付いてくる音が聞こえ、口々に何か言いながら走り去っていくのを、そのままの態勢でやり過ごした。

「・・行ったか?」

 侑歩は、男達が去った方向へ耳を澄ませ、気配を探る。

 一、二、三・・・一分以上経ったところで、侑歩は未来から手を離し、立ち上がった。一緒に立ち上がろうとする未来を手で制す。

「様子を見てくる、待ってて」

 侑歩はそう言って、自販機の陰から身を屈めたまま通りへと出て行った。

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