第20話

様々の長さに切りそろえられた材料が荷車に積まれていく

「どこからこんなに集めてきたんですか?」

牧童に聞く

「あっちのは祭りの櫓、あれは畜舎に敷いてあった板、あれは倉庫を壊したのだ」

「倉庫を壊しちゃったんですか?」

「橋の方が大事だろ。屋敷の石も持っていくよ。」


「それ何ですか?」

「前の王様が暴れまわっただろう?前の道を塞いだり屋敷を守る車止めだな」

「そんな物があったんですね」

「まぁ必要に成るようだったら、また作るさ、今は橋だ」


もう荷車満載で出発してる馬車も居る。空のやつは、途中で木を伐採していくそうだ。

まだコッチでは木材の加工をしている人もいる

オレはそっちを見に行く。


板に切り欠きの加工をしてる人に声を掛ける。

「これはどういうふうに使うんですか?」

この切り欠きの大きさがどうの、角度がどうの、と説明してくれているが

さっぱりわからないので聞き流す。


荒縄をなう女性、それを巻いている人、わらを揃えたり切ったりしてる人

石を積んでいる人降ろす人。

積みすぎ。


ぐおぅぐおぅと馬が鳴いている。

牧場の馬を采配しているようだ。


「おい、馬。オレたちもそろそろ川へ行ってみよう」

馬車に繋いでいると、鍋や袋を担いだ女達が荷車に乗ってくる

「お兄さん、荷物は乗ったから行っとくれ」

途中でシアンさんを見つけた。


「ヘイ!タケシー」

親指を立てている。


タクシーじゃなくて乗り合いバスだ。


今から川に向かっても到着するのは夜中になるだろう。

「どこかで野営しないと夜になっちゃいますね」

「何言ってるんだい、夜になっても行くよ。

「女だけで野営なんかするもんかい」

「兄ちゃん何かしようと思ってるんじゃないだろうね」

女達に笑いが広がる。


「この馬は立派な馬だねぇ、男前でさ、この馬だったらもっと速くなるんじゃないのかい?」

「ウチの馬たちもこの馬にメロメロだったものねぇ」

褒められて馬車の速度が上がる。女達は嬌声を上げた。


「コイツは街の馬なんですけど、もしかしてココで育った馬じゃないんですか?」

「うーん。馬の顔の区別は難しいけど、こんな立派なのは見たこと無いねぇ」

「この馬は牧場のじゃないよ、ホラ」

一人の女が馬の股間を指し、もうひとりが「あー」と頷く。


おれには何のことだかわからないが、牧場はこの馬の故郷じゃなかったんだろう

隣に座るシアンさんも、じーっと馬を見つめている。

馬を見つめるシアンさんをオレは見つめる。

オレの視線に気づいたシアンさんは、スッと居住まいを正し

「もう、馬の扱いは慣れたようね、今日はこのまま川まで行きましょう」


シアンさんはカッコよく足を組んだが、落ちそうになってすぐ戻した。



何台かの荷を追い抜き、オレたちは川のそばの広場に到着した。

男たちが焚き火を囲んでいる。

女達が到着すると、男たちの視線が一斉に集まる。


女達は手際よく荷を解き、そこらにきれいに並べると

男たちの輪に加わり、もう何か食べていた。



いくつかの芋団子を貰い、2人で分け、口にする。

焚き火で温められた芋団子は、煙で燻された味がして絶品に思う。

なぜか懐かしく感じ、いつもよりゆっくり咀嚼した。


馬を探すと、広場の奥の背の高い草むらの中に、寝床を作って丸くなってる。

その懐に子犬のように入り込み、抱き合った。

暖かくて落ち着く。



夢を見た。

腰巻姿の若い娘が砂浜で、太もものあたりまで海に浸かり、

足でハマグリを獲っている、

脇にザルを抱え、趾で掴んだハマグリをもう片方の手で拾う。

腰巻きの奥が覗きそうだが、夢の中では見えないのがお約束。


村では石臼で麦を挽いている。

石臼にあぐらをかいた股ぐらは、以下略。

故郷では見たことのない黒い小麦粉。

鶏や犬がいる。子どもたちが大人の手伝いをしている。


「ただいま」草葺の家に入ると、明るい顔で女性が出迎えてくれた

髪の毛はてっぺんで丸められ髷を結っている。

大きな耳飾りの付いた耳は長く尖って、抱擁するうちに赤く染まる。

背中に周る手に力が入り、心地よい痛みを感じ、

目が覚めた。


「シアンさん・・・・」



ガラゴロと広場で車輪の音がする。

今は夜更けなのか日の出前なのか。

オレの下半身は朝を告げていた。

振り向くと馬はもう起きていた


「今日はしごとだ、何もしないよ」

がっかりした顔をされた。


馬よ。しっかり寝られたか?心なし目がくぼんで見える。


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