第14話
おい。馬よ 洗ってやってるだけで、そんなに騒ぐなよ。
馬車に家畜を洗うようなブラシはなかった。
馬車なんだから馬の世話をする最低限の道具は揃ってなきゃおかしいだろ。
自動車の車載工具みたいなものだ
仕方ないから桶で水をかけてやってから、手でこすると。
悶えるは、捩れるは、変な声だすはで大騒ぎ。
見かねたシアンさんが、川辺に生えた葦の葉でたわしのようなものを作ってくれた。
捩って荒縄のようにしたのを束ねただけだが、なかなか使い勝手がいい。
排泄物がこびりついてるところは、手のひらじゃ触りたくない。
シアンさんお手製たわしで擦るが、やっぱりその辺のゾーンは敏感でらっしゃるのか。
嫌がる素振りをする。
「キレイになったな」
照れたように顔を背ける馬。だから、なんだよその反応は!
シアンさん。ちょっと離れた所で洗濯してる。
シアンさんが言うには、洗濯に適した石が有るらしい。
石にこすりつけたり、叩きつけたりするのがこっちのやり方。
布地を傷めず、汚れが落ちやすい石が有るらしい。
オレが手伝おうと、見様見真似で近くの適当な石にこすりつけたら
すげー怒られた。
洗剤は使わない。
洗剤が存在しない訳ではなく、そういう洗濯はプロの仕事だそうだ。
今回は。そんなにひどい汚れはないから、水洗いだけでいい
小さい物は河原の石の上、大きめのものは馬車の張ったロープにかけて乾かす
毛布の洗濯は重労働だ。
でも虫が湧きやすいから、たまには洗う。
気にしない人は気にしないそうだ。
そんなこんなで今日の一日は過ぎていく。
まぁ気分転換には良い機会だった。
いきなり知らない世界に放り込まれてパニックに成らない人はいないだろう。
シアンさんや馬やそれからこの世界の皆のおかげだ。
風が気持ちいい。
おい、馬。そんなにくっついて来るな、干している毛布に頭突っ込むな。
「シアンさん。この川を下って行くと水の国?」
「そうよ、水の国の大きな湖に出るわ」
「朝、船が下っていったよ。ああして下っていけば馬車より早いかもね」
「船?」
「此処に着いてすぐ。橋の上から見たよ」
「そう。・・・・・・船は水の家の許しが必要よ」
「「じゃぁ水の国の人?」
「それは間違いないと思うけど」
「けど?・・・・」
「そろそろ乾いたわね、取ってくるわ」
川原に降りて行くシアンさん
「毛布も乾いたかな?」
今日は動かないから丸めなくていいかな、
木箱ベッドに毛布を敷いておく。
「風が湿ってきたわね」
「そう言われてみれば」
「ほら、あっちの山の方の雲、ひと雨有りそうよ」
「あ、それじゃ荷物積み込まなきゃ」
「フフ、前に教えたじゃない。幌は二重になってるから、広げれば雨よけになるわ」
布屋根を拡げて夕食の準備だ。
馬は雨の中でいいのかな?と、思ったら居ない。橋の下に移動したようだ。
今日の夕食は、潰した団子を焼いたのと豆のスープ。
それに炒った豆が一皿と緑のペースト。
「ハイ。これ」
手渡されたコップの中身は酒だった。
「へー、こんな酒が有るんだ。」
白いお酒。どぶろく??結構きつい。
「お酒も見たこと無い?」
「いや、こっちにもこういう酒があるんだ、って思ってね、なんのお酒?」
「馬乳酒よ、土の国のお酒」
馬乳酒って聞くと遊牧民の酒のイメージだな。
「家畜を連れて移動をしながら生活してる人って居る?」
「え?なにそれ。私達がそうじゃない」
遠くでゴロゴロと雷の音がする。
「雷?オレが川魚獲ったせいかな??」
「昼間、川の中で馬とイチャイチャしてたでしょ。あれで川の主が怒ったのかもよ」
なんのことだかわからない。
大粒の水滴が布製のタープを叩く。
「馬は大丈夫かな?」
「自分で動くから大丈夫よ、こっちに来るかも知れないから、食べ終わったら場所だけ開けておきましょう」
ゆっくり味わうような食事でもなし、ガツガツと口に放り込んで酒で流し込む。
椅子を立って川の方を眺めていると
「あ、馬。こっちに来たよ」
シアンさんも食事を終えて、2人で片付ける。
全部木箱に入れるが馬車には積まない
空けたスペースに馬が丸くなった
葦のたわしで背中の水を落としてやった。
「寒くないかな?」
「タケシったら」
シオンさんが笑う
「馬は大丈夫よ、逆に人が温めてもらって寝る事もあるわ」
あーコイツさんが一緒に寝てたのはそういうことか。
馬よ。変な勘ぐりをしてごめん。
馬が片目だけ開ける。
「今日は馬と一緒に寝てみる?」
「いや、遠慮しておく」
両目が開くがすぐ閉じた。
「そうね、それだと私が寒くなっちゃいそうだし」
雨の中でもはっきり聞き取れた。急にサバサバ女になったな。
何が有ったんだろうね。
やることもない。
2人で木箱に座り、コップの酒をちびりちびりとやる。
つまみは炒り豆だ。
馬車の中からゴブリン顔のヒーラーが出てきてシアンさんの膝で丸くなる。
「今朝、勝手に道路で餌を食べてたよ。変なもの食べてお腹壊したりしないのか?」
「それはないわね、逆よ」
「逆?」
「ヒーラーはね、この患者が気分悪くなってるとか今お腹が痛いよ、とか変なもの食べたみたい、とかここの骨が折れてるよとか、それをナースにイメージで伝えてくれるの」
「イメージで?どうやるの?」
「それが解るようになるのもナースの修行ね、私はまだぼんやりしたイメージしか解らない」
「すごいね、そんなのがわかっちゃうんだ」
「とっても珍しい動物よ、土の国の山奥に居るって言われてるんだけど、こんな所でつかまるなんて」
シアンさんはヒーラーの頭を優しく撫でる
「修行したナースにはとっても役に立つ動物なんだけど、そうじゃない人にとってはただの不吉な悪魔・・・」
「魔物?!!」
「死にそうになってる動物に着いていく性質が有るの、だから死を呼ぶって嫌われてる」
「獣の死体に寄ってくる虫が食料か」
「本当はちがうの、死体の虫ばっかり食べてるわけじゃない」
「そういう誤解はよくあることだな」
気の毒ないきものだ。人間の勝手な理屈で嫌われて殺されて、山奥に逃げ込んだのか?
「山奥は焼かれなかったのかな?」
「ん?」
シアンさんがかわいいお目々で首をかしげる。
「ほら土の国は一度雷と火で丸焼けにされて水で流されちゃったんだろ?」
「流されたとはいってないわよ」
とっくに日は暮れていて、雨の夜の暗闇のなか、地面に置かれたランタンの揺れる光に
シアンさんのやさしい顔と、ゴブリン顔で目を閉じるかわいいヒーラー。
癒やされるわーーーー
おい、馬。こんなときに屁をこくな
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