第12話
馬車の速度が徐々に遅くなってきた。出るときは普通だったのに
休憩はたっぷり与えてると思うんだけどなぁ
「タケシさん」
どうした?久々のさん付け。
「何ですか?」
「ちょっと微妙な時間になってきましたね、隊はもう野営の準備してると思うんです」
そんな時間だねぇ
「跡から割り込んでいくのも行儀良く有りませんし、あまり端っこだと隊長が気を使われると思うんですよ、それにさっきの人たちの近くになりそうで・・・・」
「うん。こっちも気を使いそうだな」
「離れた所で野営しませんか」
何を企んでいるかわかるぞシアンさん。
コイツ野郎に盗み聞きされたのを気にしてるんだろう
オレも吝かではない。
「トレーニングは出来るだけ毎日欠かさずやりたいんですよね。一日休むと取り返すのに三日掛かるらしいですし」
「そ、そんな・・・」
湯気吹いてますよ。
硬直してるシアンさんに運転は無理と判断した
オレが代わりに馬車を操る
「おい、馬。野営だ、適当な所に馬車を入れろ」
馬は頷き、少し進んだ所で脇の小路に馬車を引き入れた。
親指を立てて突き出した。
「まだ団子が残っちゃってるので、今日は団子スープです。豆も少し入れますね」
問題ない。
「ところで水は残っていますか?」
馬車の横に吊るした木桶を見るが、あまり残っていない。
「水場は有るかな?」
馬に聞いてみるけど、そこまで万能じゃないよね。
木桶を手に下げる、道に戻って少し歩けば水が見つかるかな
前方から何か近づいてくる。
ウマだ。
パカラパカラと軽快にやって来たのは隊長さんだ。
「やぁお疲れさん。こんなところで野営するの?」
馬上から声をかけられた
「もう皆さん準備がお済みになってるでしょう、後から割り込んでホコリを立てるのも悪いと思いまして」
「まぁそうなんだけど、柴刈りのおばさんに聞いてね、そんなことじゃないかと」
ウマの尻に下げたバグパイプみたいな革袋、水だ。
「助かります、今丁度水場を探していたんですよ。本当にありがとうございます」
「隊は大勢だから広い場所じゃないと野営出来ないけど、こっちのほうが虫が少なくて快適そうだよ」
「ちょっと寂しい気もしますけど、ほら此処まで聞こえる。みんなで楽しく騒ぐのもやってみたいです」
「あー。そういう機会はきっと来るよ。その時は技をちょっと教えてくれないかな、
落としたい女がいるんだ。馬じゃなくて人間のだよ」
「ハハハ。女を落とす技なんて、オレが教えてほしいです」
隊長は耳を済ませるよな仕草をすると
「今日は離れて居たほうがいいかもしれないね、君等食料も充分だし、あの馬だし、離れてても問題ないよ、じゃ、私は戻る。ゆっくり休んで」
「はい。ありがとうございました」
水袋を担ぎ、手には木桶を下げ馬車に戻る。
鍋に水を入れ、馬の水桶にも入れると、もうほとんど残らない。
「隊長さん?」
「そう、水場を探して歩いていたら、水袋を持って来てくれたんだ」
「いい隊長さんよね」
「立派な人だよ。この恩をどうやって返せばいいかと悩むよ」
「まだちょっと遠いけど、水の国は彼の故郷ね」
「隣国とは聞きましたけど、水の国の人ですか」
「今は元王国騎士の家名持ち」
「でもシアンさんは水の国は高慢な人ばかりって言ってたじゃないですか、
そんなふうには見えませんよ、いい人も居るじゃないですか」
「家を捨てたって聞いたわ、もう水の家人じゃない・・」
シアンさんは嫌ってるけど、オレは温泉の魅力に抗えるわけがないじゃないか。
隊長が水の国で残るなら、オレにもチャンスがあるかも知れない
「隊長は水の国に帰って、また仕官出来ると思う?」
「それは実力次第ね。そういう国だから」
団子スープを平らげて、いまはお茶を飲んでいる。
「水の国にはさぁ、こう袖を通して、前で合わせてく、るぶしまで有る・・・」
身振り手振りで浴衣を説明する、あれが有ると無いとじゃ気分が大違いだ
「そんなの教会でしか着ないわよ」
有るんだ、というか教主様もシアンさんも着てたっけ、それはローブ
そうじゃなくて、んもう
「ちょっとぐらい違ったってローブにしか見えないならローブよ」
「そうですね。すいません」
色っぽい浴衣美人は諦めよう
立ち上がったついでにシアンさんの後にまわり、肩を揉む。
「ひやん!!ちょいきなりこんな所で・・ダメですよタケシさん」
丸まって寝ていた馬が首だけを起こしてこっちを凝視している
「べ、ベッドでお願い、お願いだから・・・」
そういうことじゃないんだけど
ま、そこまで言われたら行くしか無いでしょ
馬。ちゃんと寝ろよ。
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