第10話
おい馬。お前も早く仲間に追いつきたいだろう。
林の中を馬車は進む。
シアンさんとの会話も進まないし、代わり映えしない景色も飽きてきた。
日は中天に差し掛かり、林の中でも明るい。木々の間を抜けてくる風は
心地いいのだが・・・・「臭い」
隊の馬たちが置いていったお土産が点々と続いている。
牛舎の臭いとも違う、競馬場とも違う。
「この臭いにもそのうち慣れるさ」
思ったことが、つい口から出てしまった。
「臭い?」
「ほら、道に落ちてるアレ、まだ慣れなくて」
馬は鼻先に有った塊に顔を近づけ、嫌な顔をした。
蝿のような虫が一斉に広がった。
「乾けば、気にならなくなるけど、いかんせん、まだ新しいからね。
それほど隊と離れていないって事だから」
そう云う事も解るんだ。いわれてみて気づく。
車輪の通った轍には甲虫が潰れて死んでいる
少し前方の塊には鳥が群がっている。
集まる虫をついばんでるんだな。
「命の輪ですね」
命の創神と引っ掛けて振ってみたけど、興味無さそうだ
失敗。
ウンコで会話をつなぐのは困難なようだ。
フンッ
馬が鼻を鳴らした。
腹も減って来たけど、食事の話を振るにはタイミングが悪い。
無言で馬車は進む。
そうなると馬の方に気が向く。シオンさんと会話をしたいと思うが
やっぱり馬の話をしてしまう
「野生の馬って居るんですか?」
「・・・・?」
解らないって顔でクリクリかわいい目を向けてきた。
「ほら、家畜化される前の馬がどこかに残ってたりするのかなって」
「家畜は命の国で世界樹から生まれたの」
「それ神話でしょ?」
「ええ。そうよ。 けど馬は決して逃げ出さないし、野生なんていないわよ」
「馬に似た動物は居ないんですか?」
「ウマはウマよ。飼われてるのしか知らないわ。強いていうなら
生き方が似ているのは、人ね」
うん。こんな人間臭い動物は地球にはいない。
「おまえ、前世は人だったのかもよ」
「フフそう云う寓話も無くはないのよ、裏若い女性が馬に劣情を懐いて引き裂かれちゃう話とか、逆に馬が人を相手に失恋をして逆恨みする話とか」
笑いながら怖い話をするシアンさん。
「教主様は言い伝えとか、そういう話を集めてて、一杯知ってたわ。」
「へぇ」
「馬は人の心を読むから、近づきすぎるのも良くない。でも大事にしなきゃいけない
怒らせたり、いじめたりするのは絶対ダメって教主様に言われたわ」
「やさしくすれば、友達になれるかもな」
「結構執念深いのよ」
「!」
おい、馬。オレとお前は友達になれるかな?
尻尾が高く上がり、ブラックホールが広がった。
道の脇の花畑に馬車を寄せる。
雑木林がそこだけ刈られて細めの灌木がまばらに生えている
「逃亡開拓者が居た村ね」
聞いたことのない言葉がまた一つ。
「ほら、奥に崩れた石組みが見えるでしょ、居なくなってから結構過ぎてるわね」
「あー、人が住んでた跡?」
「家を逃げ出した人が、こういう持ち主の居ない土地に、勝手に畑を作って住み着いていたの。王国だから出来るけど、他の国では重罪よ。」
「でもほら、前の農家の人みたいに、働かされるだけで出世出来なくて、そういうのがいやになったら、一人で自由になりたいって思うんじゃないか?」
「食べて行くのは出来るけど、世間はそんなに甘くない」
「うわ、結構闇が深い話みたいだね」
「でも私達も似たようなこと、やろうとしてるのよね・・・」
「がんばるしかないな、一人じゃない。なんとかなるよ」
根拠のないことを言ってみる。
草を喰んでいた馬がこっちを見ている。キリッとした目をしているぞ。
「逃げてきて、開拓したけどまた逃げた。だから逃亡開拓者、自由人と呼ぶ人もいるけど・・」
「いいさ、やってみてどうしてもダメだったら、逃げればいい。そういう生き方も有るだろ
シアンさんは付いてくる?」
「ハイこれ」
シアンさんは焼いた団子と水を差し出した。
「これだけ有れば生きていけるわ」
「オレ一人じゃ絶対ムリそうだけど、ハハ」
シアンさんが優しく微笑んだ。それに馬も。
なぁ馬。おまえは絶対一人でやっていけそうじゃないか・・・
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