第9話

馬よ、隊に追いつけば、また出会いが有るさ。

怒ったようなフリをしてるけど、歩きながら脇目で牧場のメスを盗み見してるのをオレは知ってるぞ。ちゃんと前を見て歩け。


「お!裸の馬だ!」

「・・・・・・」

クソッ反応しないか、言葉が解るわけじゃないのか

「馬はみんな裸でしょ?」

シアンさんが冷たい目で言った。


「さっきさ、馬がどんどん増えるって言ってただろ?増え過ぎたらどうするんだ?」

「増え過ぎる前に売るわよ。商売なんだから」

「食べるのか?」

「王国の人は食べないわね、それから土の国も馬は食べない」

「他の国じゃ食べるの?」

「まぁ食べることは食べるけど、食肉は鳥が人気ね」

「鳥のからあげ食いたいな」

「この先ずーっと行くと水の国に入るから、魚も鳥も食べられるわ、馬も・・ね」


道は牧場を過ぎ、両脇には雑木林が増えてきた

「ずいぶん遅れてるみたいだね」

「大丈夫」

言い切るのは何か確信する所が有るのだろう、心配してもしょうがない。


「水の国ってどんなところ?」

「きれいな湖と砂浜、美味しい料理に温泉もあるわ。もっと先には海が有るけど、私達はそっちには行かない」

「美味しい料理に温泉かぁ、砂浜も有るんだ。楽しみだな」

「商家が多いのよ。避難民は商家の家人だった人が多いでしょ?だから皆そっちに向かってる」


「温泉が有るんだったら、オレの職も活かせるな」

「どういう事?温泉は裸になるけど、そんないかがわしい商売はないわよ」

キッとオレを睨みつけてくるシオンさん。

「ご、誤解だよ。そう言うのじゃない」


馬。がっかりするんじゃない。


「温泉はリラックス出来て疲れを癒やしに来る客が居るじゃないか」

「そうだけど・・・」

「オレの癒やしの手技は温泉とすごく相性がいい」


「解るけど・・・水の家の家人は高慢な人が多いの。人を人と見ない事もあるわ」

「オレの今の力じゃ、そう言う人を相手に商売は難しいって言うんだろ?」

「・・・・・・」

「今のオレじゃどこへ行っても難しいのは知ってるよ。だから勉強して・・・」

そっぽを向いて聞かないふりをしているシアンさんに

「早く自立してシアンさんを養える様にならなきゃ・・・」

向こうを向いていても湯気が立ってるのがわかります。温泉はまだ先です。


「行ってみなければわからないことも有ります。私だって行った事無いけど・・・

 とにかく、まだ先の話だわ」

あまり乗り気にはならないらしい。オレには魅力的に思えるんだが


「温泉の商売の話は一旦置いといて、水の国の話を教えてよ」



「世界樹は一番初めに海を作ったの、これは知ってる?」

「前に聞いたよ」

「だから水の創神が一番格上とされてるの。土の国との争いでも雷と火は水の国に味方したでしょ、そして土の国は水浸しにされる」

「作物を育てるには水が必要だものな、逆らうのが悪いとは思う」

「その作物の生命は世界樹が生み出した。命の国で。」

「うん」

「水の創家は海で勝手に命を生み出してるって教主様が」


「シアンさんは命のナースだもんな」

「別に私が文句つける筋合いはないけど、すっきりしないわ」

おいおい、神様にクレーム?穏やかじゃないな。

「水の国は命への尊敬が足りない気がする。命が軽い・・・」


「水の国へは行きたくない?」

「水の国を通らなければ、その先にいけないわ。隊の皆は水の国に希望を持ってるから付いていく。だけど私は水の国で家人になる気はない」

「わかった、覚えておく」



覚えておくとは言ったものの、今度はこっちが釈然としない。

水は生命に絶対不可欠だろ、海は命の母じゃん

自分が信じる命の神より格上だから気に入らないのか?

温泉の商売の話だってそうだ

訳がわからない、この世界の常識に染まれる気がしなくなってきた。


なぁ馬よ、この世界に愛の神様って居るのか?

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