第8話
「少し急がないとね、それでさっきから馬車が速くなってるんだね」
御者の焦る気持ちが馬に伝わってるわけか
「そういうわけでもないと思うわ」
おい馬、何で焦ってるんだよ。
フンフンと鼻息も荒くなってる気がする。
「匂いね」
「匂い?」
「ほら、あれ。」
向こうに見える緑の丘を指差した。
「何だろう・・あれは牧草かな?」
「そうよ」
「あーうまい牧草がいっぱい生えてるから」
「フフ、勝手によその牧場の草を食べさせたら怒られるんじゃないかしら?」
「イナゴには関係ないだろ」
「イナゴ達に食べつくされた後かも知れないわね、でも馬が興奮してる訳はちがうわよ」
馬車が進むと黒っぽい塊が見えてきた。
「あーーあれかぁ。おい、馬!仲間がいるぞ。馬だ馬。馬がいっぱいだ」
「この馬もここの牧場で生まれたのかも知れないわね」
「ふるさとかぁ。さっきの屋敷で声をかけておけば良かったなぁ」
「やさしいわね、でも大丈夫みたいよ、あそこに水飲み場みたいのが見える」
「ちょっと休んで、お茶でも飲もうよ」
「タケシがそう言うなら」
道の脇がコの字に引っ込んでいて結構広い。石造りの水桶も長く作られてる。
これなら一度にたくさんの馬が休憩できる。
隊の皆もここで休憩したのかな?
「旅人にやさしいね。すごいよ、これは」
「旅人じゃなくて、兵隊の騎馬や軍馬の為だと思うわ」
「あっ、そういうこと・・・」
馬車に繋いだまま馬に水を飲ませ、馬車の後でお茶をいただく。
コンロに触る隙きを与えられなかった・・・
牧場の馬が一頭寄ってきた
鼻先に角が生えてるやつ
遠くの方には本当のウマが走ってるね
内側から同じ桶に口を突っ込んで水を飲み始めた
「ねぇシオンさん。ウチの馬はオス?」
「オスね」
「あっちのは?」
「あれはメスっぽいわね」
やるなぁ、興奮してた訳はこういう事か
メスの首元に角を押し付けてグイグイ押したりこすったり
今度は腰か、メスの眼がトロンとして来たぞ。
グイグイグーイ。グイグイグーイ。
「お前、そのリズムどこで覚えた」
牧童がやって来た。
ウチの馬の角に触り合図を送ると、メスの腰をポンポン、顎や角を優しく撫でる
「悪いな」そう声を掛けると、メスはおとなしく仲間の元に帰っていく。
ウチの馬はちょっと眼が怒ってる。
「旅の人?」
「ええ。ちょっと前に避難民の隊が通ったでしょう。俺たちだけ遅れちゃったんですよ」
「通ったっていうか、こことか門の前とかで野営して、朝暗いうちに出発したよ」
「そんなに早く・・」
こりゃこんな所で道草食ってたら追いつかないぞ
「馬をたくさん連れてたんでね、明るくなって牧場の馬が起きて来たら着いて行っちゃうから気が気じゃなくて、早めに追い出したんだ」
「そりゃ大変でしたね。たくさんの馬を管理するのは苦労しますよね」
「コイツらは勝手に餌を食ってるし、寝たければ小屋に帰ってくるし、放りっぱなしだよ、
どんどん増えるから数もよくわからないんだよね」
頭いいもんな、それにスケベか、何となくは知ってたけど。
「他にどんな家畜が居るんですか?」
「ほら、アッチにウマが走ってるだろ、それにあれはウマ。ここからは見えないけどウマもいるよ」
「ソレハスゴイデスネ・・」
「鳥は居ないんですか?」
「鳥も飼ってるけどね、空のやつが係だから牧場にはいないね」
「空のやつって、あんまり仲良くないんですか?」
冗談ぽく聞いてみる
「あいつら鳥の面倒しか見ないから、フラフラ遊んでて、どこに居るかわかんなくなるんだよ。まったくしょうがない奴らだ」
おまえだってウマしか見て無いじゃないか、という言葉を飲み込んで
「もう行かなくちゃ、追いつけなくなっちゃうから」
「お、じゃぁな。旅の安寧を」
「ありがとうございました」
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