第3話
教会は周りの建物より少し高いくらいで、立ち並ぶ建物を見分けがつかない外観だった。
中は広間で何本かの柱のほかはがらんどうで半分くらい避難民で埋っている。
隊長の案内で教主様の部屋に通された。
隊長が去り、一人部屋のソファーに待たされていると
黒いローブの女が食事を運んできた。
団子がいくつかとスープ、何かのペースト。
美味そうではないが、ボリュームは有る。
料理について聞いてみようかと思ったけど、どうせ俺には理解が出来ないだろう。
「あの、シスターの方ですか?」
黒ローブは軽く唇を開くが、無言で眉をひそめてササッと引っ込んでしまった。
「・・・・・・・」
入れ替わりに部屋に入ってきたのが、やはり黒ローブの男性。
年の頃なら40代と言ったところだろうか、痩せ型で凛とした雰囲気を持つ人だ。
「大変お待たせいたしました、おや?あまり召し上がっておられませんね、お口に合いませんでしたか」
「いえ、なんだろ、あんまり腹が減ってる感じがなくて・・・」
「そうですか」
あれから何時間立つのだろう、時間の感覚がわからない。
とうに腹が減ってもいい頃なんじゃないかと言う気はするのだが。
教主は懐からランチョンマット大の紙を取り出すと、団子とペーストを包んでくれた。
「食欲がお戻りになりましたら召し上がってください」
「ありがとうございます」
「新女王にお会いになられたそうですね。」
ぐいっと身を乗り出し睨みつけるように聞いてくる。
「えぇまぁ。その方が新女王様なのかは私にはわからないんですが、隊長はそう言ってましたね、教主様ならわかりますか?」
「失礼しました。私はここの研究者です。私のことを教主などと呼ぶものも居ますが、そんな大したものじゃないですよ。」
「研究者ですか?」
「あなたは後宮で生まれ育ったと、お聞きました。やんごとなき方が住まわれている場所でしょう。そこで何が行われていようと、明け透けにする必要はありませんし、興味もありません」
後宮じゃなくて地球なんだけど、やっぱり理解して貰うのは無理なのか・・・
「オレが居たのは後宮じゃなくて地球です。どういうわけか突然赤い光に包まれてあの部屋に連れてこられて、訳がわからない。」
「呼び出したのは新女王でしょうね、あなたは何で呼ばれたのかわかりますか?」
「そんな事知りませんよ、儀式のようなものに付き合わされて、その後一人取り残されたんだ」
「その辺の話をくわしく教えて下さい。」
杖の入った箱のこと、ティアラやマント、机の蓋や椅子の下の隠し通路。
覚えていることを話すと教主は身体を固くしたように見えた。
「王権授受の儀ですね、正式なものとは思えませんが、王杖を手にした事で引き継ぎは出来たということですね」
「女王はどこに逃げたんでしょう・・・・」
「王杖は世界樹の枝で作られています。その力を借りれば逃げ延びることは出来るでしょう。どこにいるかはわかりませんが、神の力を持つ杖ですから」
「魔力みたいなものですか?」
神の力を持つ王杖、魔獣、結界、そして何よりも転移。この世界は魔法の世界だ
もしオレにチートが授かってるならこの世界で無双できるんじゃないの?
「魔力ですか?あなたは魔力を知っているのですか?」
「あ、いえ。もしかしたらそうなのかな?って・・」
「杖の力は世界樹の神力であり、神力の杖を持てるのは7創家のみ。本来ならそうです。」
教主は愕然とするも胸の動悸押さえながらゆっくり語りだした。それは聞いてはまらない言葉だったからだ。
「世界樹はこの世界をお作りになる時、まず海を作り、大地を作り、空を作り、風を起こしました。光と闇を作り、命を作り、そして七創神と共に大地に降り立ったそうです」
すべては世界樹によって作られたと言うのがこの世界の神話。
「七創神は7創家を作り七つの国を治めた。この国の館と呼ばれているところは神学塔でした。神学塔は7創家の国とは独立した権限を持ち指導者を育て法を定め教えを広める場所です。そして多くの学者もここで様々な研究をして神学を追求していたのです」
坊主の説教のような話は右から左へすり抜けていく。
「私もそこの研究者の一人でした。魔力というものが存在することを知るのはわずか。その中の一人です」
この国が滅びるかどうか、今が瀬戸際の時だろう。
この男はその鍵を握っている。教主はそう確信した。
「ある時、世界樹から神杖を授かり王を称したものが、新たな国を興しました。
世界樹の枝は七創家のみが持ち、その引き継ぎも秘密とされています。
七創家からの引き継ぎの他に神杖を持つことは出来ないはずなのですが、有る一人の研究者の発見がその理を破る事になったのです」
「あなたはこの国にとって、いやこの世界にとって、大変重要な存在であるようです。ですがその事は決して漏らしてはなりません。」
火事場泥の容疑者から一気に格上げされちゃったよ。牢屋に打ち込まれなくて良かった。
犯罪奴隷落ちとか悲惨だしな、奴隷とかないよなぁ、
「あの、この国には奴隷はありませんよね・・・」
「この国に限ってはですが・・・王が勝手に法律を作りまくりましたからね、この国は何から何まで特別なんですよ。まぁ館の中のことは知りませんがね」
後宮の性奴隷だったお前が言うことか?と、ネジの外れたようなこの男の無知さに頭を抱えた
(外の光を見ることもなく、後宮の欲望にまみれた狭いへやに囲われ、女達の情欲を受け切る器には常識や理性が入る空きが無いのかもしれない。そう作られたのだ、そうでなければ・・・・・無垢なその眼が哀れなことよ。)
闇の深さに思わず天を仰ぎ見る。
勘違いなのだが
「あなたは鳥籠から飛び出した小鳥です。私の胸に飛び込んできた事は何かの縁でしょうあなたの助けになることは何でもしたいと思いますが、時間が有りません。」
オレはこの世界じゃ異物、非常時にややこしい面倒くさいのを相手にしてる時間はないだろう。
「オレは自分で餌を取ることも出来ない飛べない小鳥、このままでは生きていくことが出来ません。何か少しでも知恵をお借りすることは出来ませんか・・」
「此処に集まって来ている人たちは“家”を失った人たちです。それぞれ新しい家を探すたびに出なければなりません。残っている兵士や門番たちが今、旅の支度をしてくれています。道中彼らが皆を守ってくれるでしょう」
「旅ですか、」
「皆一緒に出発しますよ、それぞれ職に合った家を見つけて落ち着くことが出来ればいいのですが」
「付いていってもいいですか?」
「とにかく、少しお休みになったほうが良いでしょう。お疲れになっているはずです
明日からは辛い道中です」
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