剣を持つ事の意味
「じゃあ、僕の場合はターコイズが使える精霊魔法が僕の使える精霊魔法になるんですね」
詳しい説明を聞いて、ティミーが自分の目の前に座ったターコイズのシルフを見ながらそう呟く。
「そうだね。ティミーは火と土にはあまり反応が無かったんだけど、水と風には高い反応があったんだよね。それから光にも。まあ、これは竜の主になった直後に調べたものだから、今調べたら、多分もう少し適正値は上がってると思うよ。明日、俺とユージンが一緒に精霊魔法訓練所へ行くから、まずはケレス学院長に挨拶して、それから改めて精霊魔法の適正試験を受けてもらうことになると思うよ。今後の適正値は、そっちが基準になると思うね」
明日は精霊魔法訓練所へ行くのだと聞き、真剣な顔で頷くティミーの背中を叩いたロベリオは、机に置かれた分厚い資料をめくる。
「次に、ここに書かれているのが、俺達竜騎士に与えられているさまざまな特権だよ」
レイも自分の資料をめくって指示された箇所を開く。
「さっきも言ったけど、俺達竜騎士はこの国を守る精霊竜の伴侶として扱われている。だから、地位としては陛下とアルス皇子殿下などの直系の皇族に次ぐ位置とされている。これは、正式な晩餐会の席順を見れば分かるけど、俺達は皇族のすぐ横の席に並んで座るんだ。なので位置としては、両公爵よりも高い位置になる」
初めてここへ来た時のレイと違い、貴族間の身分については当然知っているティミーが、その言葉に驚いて目を見開く。
「ええ、待ってください。じゃあ、じゃあ僕が見習いとして正式に紹介されたら……ゲルハルト公爵閣下やディレント公爵閣下よりも高い位置に座る事になるんですか! そんなの、そんなの無茶です!」
悲鳴のようなティミーの叫び声に、揃って苦笑いしたロベリオとユージンが大きく頷く。
「その気持ちはもの凄く良くわかる、心の底から理解出来るけど、実際にそうなんだよ。公爵閣下もその辺りは心得ていてくださるから、正式な場では俺達を立ててくださる」
「もちろん、ご挨拶をする時なんかは、絶対に失礼のないようにね。あくまでも年長者として敬うように」
ユージンの言葉にもの凄い勢いで大きく頷くティミーを見て、レイはオリヴェル王子をお招きした際の晩餐会に出席した時の席順を思い出して、ちょっと遠い目になっていたのだった。
「まあ一番最初に特権を実感するのは、やっぱり奥殿へ行った際に剣を装着したまま部屋に入れる事だな」
「そうだね。佩刀したまま皇族に謁見出来るっていうのは、比較的よく知られている竜騎士の特権の一つだね」
ティミーは無言で自分の腰に装着したままになっている、頂いたばかりの短剣を見つめた。
「そうそう、今はそのまま入ったけど、普通は部屋の入り口に剣を置く場所があるから、その場合は礼儀として剣はそこに預けるよ。奥殿へ行った際にも、実際には俺達でも部屋に入ったところで剣は置くけどね」
立ち上がったタドラが、部屋の隅に置いたままになっていた剣を置く台を持ってくる。
「ほら、ここに順番に立てかけられるようになってる。部屋によっては執事が受け取ってくれる場合もあるからね」
その辺りは、ティミーも実際に見て知っているのでこれも真剣な顔で頷く。
「それからもう一つ、大事な事を教えておくよ。これは竜騎士である以前に、剣を持つ者として絶対に知っておかなければならない事だからね」
真剣なロベリオの言葉に、ティミーは改めて居住まいを正す。レイも隣で背筋を伸ばして座り直した。
ロベリオが教えてくれたのは、以前にレイも聞いた、剣を持つ者の心得とも言える事だった。
「迂闊に他人に剣を渡さない。また同じく、人の剣に迂闊に触れない。剣の先を人に向けない。鞘に収めていても、それは剣を向けるのと同じ意味を持つ。また剣を他人に渡す事の意味を知った上で、それでも渡せるのなら、それはその相手を心から信頼している証にもなる」
言われた事を、ティミーは真剣な顔で復唱している。
「逆に、抜き身の剣の柄を相手に向けて差し出すっていうのは、剣の誓いの時にするように、相手に対して忠誠を誓う、あるいは命を預けるって意味になるから普段は冗談でも絶対にしないようにね」
それは知っていたので、ティミーはそれはそれは真剣な顔で頷いた。
「あ、あの、でも……」
しかしその後、不意に慌てたように口籠るティミーに、ロベリオ達が驚いて顔を見合わせる。
「おう、どうした。何か質問や疑問があれば遠慮なく聞いてくれていいぞ」
「あの、僕、ライナーやハーネイン達と一緒に、叙任式や閲兵式を見学した後に、おもちゃの剣で……剣の誓いの真似事を何度もした事が何度もありますけど、その……これは大丈夫ですか?」
遠慮がちなその言葉に、何事かと身構えていたロベリオ達が揃って笑い出す。
「何かと思えばそんな事だったか。心配ないって、それは大丈夫だよ。って言うか、オルダムの子供で剣の誓いの真似事をした事が無い子供って、まずいないんじゃあないか?」
「そうだよね。多分、いてもごく少数だと思うな」
「確かに。僕も神殿で神官見習いだった頃に、同僚の友達とこっそり笏を使って剣の誓いを真似た事が何度もあるよ」
笑ったロベリオの言葉に、ユージンとタドラも同意するように何度も頷きながらそう言って笑っていた。
「ええ、僕はそもそも剣の誓いなんて言葉すら知りませんでしたよ」
口を尖らせるレイを見て、ロベリオ達がまた笑う。
「だから、オルダムにいる子供って言っただろう? 貴族の子供達は、当然小さな時からご両親に連れられて閲兵式や叙任式を見学するからね。特に叙任式での剣の誓いは、男女を問わず子供達に大人気なんだよ。それにオルダムの街でも、閲兵式や叙任式がある時には街の神殿や軍の詰所なんかでお祝いのお酒が振る舞われたり子供達にお菓子が配られたりするからね。それは子供達の楽しみになってるんだよ」
「すると当然、子供達はお菓子をくれた兵士に尋ねるわけだ。閲兵式って何をするの? 叙任式って何をするの? ってな」
「すると、兵士達が大喜びで閲兵式で剣を陛下に捧げるやり方や、叙任式の際の剣の誓いの説明をするわけだ」
三人が交互にしてくれる説明に納得したレイが、笑顔で頷く。
「な、分かっただろう? 当然、お菓子を貰って家に帰った子供達は、いつかは自分もそんな風になりたいって、そう思って、そこらにある棒切れや道具の柄を使って、剣の誓いや剣を捧げる真似事をするわけだよ」
目を輝かせて頷く見習い二人を見て、ロベリオ達も揃って面白そうに笑っていたのだった。
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