本部の見学
「それじゃあ行こうか」
城へ戻る大人組とルークを見送ったロベリオが笑顔でそう言って、同じく並んで大人組を見送っていたティミーの頭を手を伸ばして撫でる。
「おお、これは確かに撫で心地の良い髪の毛だな。へえ、レイルズとは全く違う髪質なんだ」
頭を撫でられて嬉しそうに笑うティミーの頬をロベリオが突っつく。
「ここは少し前のレイルズみたいに柔らかいな。ううん、まだまだ子供って感じだ」
その言葉を聞いて、レイが嬉々として寄って来て横からティミーの頬を突っつく。
「うわあ、本当だ。ぷくぷくだ」
「レイルズ様だって、ぷくぷくですよ!」
そう叫んだティミーが、負けじと手を伸ばして下からレイの頬を突っつこうとする。
しかし残念ながらかなりの身長差があったために伸ばした手は頬どころかレイの顎にも届かない。
悔しそうに飛び跳ねるティミーを見て若竜三人組が笑う。
「よし、援軍だ!」
笑ってそう言ったロベリオが、ティミーの後ろから彼の脇の下に手を入れて軽々と小さな身体を抱え上げた。
「増援感謝します〜!」
大喜びのティミーがそう言いながらレイの頬を突っつく。
「それなら僕はこっちを攻撃するぞ〜!」
笑ったレイは、頬を大人しく突っつかれてからいきなりしゃがみ、腕を差し出してティミーを抱え上げていたロベリオの脇腹をくすぐった。
「うわあ、こっちを攻撃するとは卑怯だぞ!」
慌ててティミーを下ろしたロベリオが悲鳴を上げて下がる。それを見たユージンとタドラが吹き出すのは同時だった。
「将を討とうとするなら、まずは守りと増援を絶って個別に撃破するのが兵法の基本だからね。って授業で習ったから実践してみました〜〜!」
そう言って得意気に胸を張るレイの言葉に、若竜三人組はまたしても揃って吹き出したのだった。
「こっち側が竜騎士隊付きの兵士達の宿舎、兵舎って呼ばれてる。二階が第二部隊と第四部隊の兵士達の部屋。三階がここ、俺達の部屋がある階だ。四階は、竜騎士隊の女性の為の部屋になってて、今はジャスミンの部屋があるよ」
「じゃあ、女神の神殿に勤めてるニーカもここへ引っ越して来るんですか?」
ティミーが四階へ続く階段を見ながらそう尋ねる。
「将来的にはそうなるだろうけど、まあ、まだしばらくは向こうにいる事になったみたいだね。まだ当分は女神の神殿が彼女の勤め先になるわけで、ここから毎日女神の神殿に通うとなると、その方が目立つだろう?」
「だから、近いうちに護衛の人を付ける事になったみたいだね」
「ああ、確かにそうですね。残念、彼女ともゆっくりお話をしてみたかったのに」
少し残念そうなティミーの言葉にロベリオが笑って首を振る。
「彼女は週に二回か三回、本部にあるエイベル様の像を掃除するために神殿からここまで来てくれているんだ。少しくらいならその時に話せるよ。俺達も彼女が本部に来た時に手が空いていれば、いつも行って一緒に話をしたり、時には休憩室に誘ってお茶を飲んだりもするよ。最近やっと、本部の休憩室に呼んでも緊張して動けないなんて事がなくなってきたところだよ」
「ちなみに、レイルズの彼女も一緒に掃除に来るからね」
「そこは別に言わなくてもいいでしょう!」
横で一緒に聞いていたレイが、真っ赤になって焦ったようにユージンの腕を掴む。
「あれあれ、そんなに赤い顔をしてどうしたんだい? 熱でもあるのか?」
態とらしく心配そうにそう言われて、口を尖らせたレイがそっぽを向く。
「知りません!」
「ぜひ紹介してくださいね!」
嬉しそうなティミーの言葉に、まだ真っ赤になりつつもレイも笑顔で頷くのだった。
「こっちの建物が、竜騎士隊の本部がある建物。俺達はこれをそのまま本部って呼んでる」
兵舎から竜騎士隊の本部がある建物へと続く渡り廊下を歩きながら、ロベリオが詳しい説明をしている。
「兵舎の建物には訓練場と倉庫、図書室、休憩室なんかがある。だけど兵舎の一階は基本的に俺達は行かない。こっちは基本一般兵士用なんだ」
「本部の一階にあるのが、俺達が朝練の時なんかに使う訓練所、それから食堂、俺達の装備を作る作業場もここにあるよ。あとは装備用の倉庫だね」
「モルトナとロッカの所にも後で行くからね」
ロベリオとユージンが交互に説明してくれるのを聞きながら、ティミーは目を輝かせて頷きつつ辺りをキョロキョロと嬉しそうに見ていた。
「二階は、事務所や総務部、大小の会議室、軍部ギルドの事務所もここにある」
「資料室や書庫、俺達がいつも使ってる竜騎士隊専用の休憩室があるのもここだね」
以前、レイが初めてここに来た時のように、若竜三人組が交互に説明をしながら本部の中を案内して回る。
レイは、初めて来た時総務や軍部ギルドと言われても、何の事だかさっぱりわからずただ聞いて頷いているしかなかったが、さすがにティミーにはある程度の知識があるようで、時折ロベリオ達に質問を挟みつつ順番に見学して挨拶をして回って行った。
本部の事務所には、ロベリオの机の隣に新しくティミーの為の机が用意されていて、ティミーは自分の席を見て大喜びしていた。
「まだ何も無い机の上だけど、きっとすぐに資料で埋まるだろうな。事務仕事に関しては期待してるからよろしくな」
ロベリオの言葉に、ティミーが笑顔で頷く。
「お任せください。お手伝い出来るように頑張って色々覚えますね」
「おう、期待してるよ」
笑ったロベリオやユージンと手を叩き合い、一同は一階にあるモルトナとロッカの工房にも顔を出して挨拶をして回った。
モルトナの革工房では、用意してあったティミーのための小さな剣帯の試着を行ったりもした。
「まあ、まずは短剣で、剣を下げる感覚を覚えてもらうところからだね」
やや緊張した面持ちで、出来上がった真新しい剣帯を受け取るティミーを見てロベリオがそう言い、工房に先に来て待っていたロートスが、先ほど陛下から贈られたあの短剣をロベリオに渡した。
「ほら、まずは剣帯を装着してごらん」
先ほど教えてもらった通りに、ティミーは真剣な表情で一人で剣帯を装着してベルトを締めた。
「これでいいですか?」
軽く肩を回してからロベリオの前に立つ。
「よし、じゃあ次はこれを自分で装着してごらん」
そっと差し出された短剣をティミーは無言で見つめた後、小さく唾を飲み込んでから両手で剣を受け取った。
教えてもらいながら少し苦労しつつも無事に剣帯に剣を装着する。
「これでいいですか?」
先ほどと同じ質問に、ロベリオ達は満足気に頷きつつ、揃って笑顔で拍手をしてくれた。見ていたレイも、笑顔で一緒に拍手をしたのだった。
そこには、まだ小柄で幼いながらも凛々しい決意を秘めた新たな竜騎士見習いが立っていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます