ティミーの到着

「そろそろ来るかな?」

 早めの昼食を終え、休憩室に集合していた竜騎士達は、聞こえてきた一点鐘の鐘の音に揃って立ち上がった。

『お待たせ』

『もう少しで到着するよ』

 ちょうどその時、机の上に現れたロベリオが寄越した伝言のシルフがそう言ってから手を振っていなくなる。それを見送って頷き、一同は揃って足早に出迎えの為に本部の建物の正面にある大きな扉に向かった。



「ああ、見えて来たよ」

 嬉しそうなレイの声に、皆も笑顔になる。

 竜騎士見習いの赤い制服を着たティミーは、ロベリオと並んで堂々と胸を張ってラプトルに乗っている。

 だが、剣帯はまだ身に付けておらず丸腰だ。

「到着〜〜!」

 レイの嬉しそうな声に、正面玄関の手前で止まったロベリオも笑顔で頷き軽々とラプトルから降りた。

「ほら、ティミーも降りて」

 緊張して鞍上でカチカチになっているティミーに笑ってそう言って膝のあたりを軽く叩いてやる。

「は、はい!」

 慌てたようにそう答えて、大きなラプトルの背からこちらも軽々と飛び降りた。

「ティミーレイク・ユーロウ。ただいま到着いたしました。未熟者ゆえ分からない事だらけです。どうか、ご指導いただきますよう、よろしくお願い致します」

 片膝をつき、握った両手を額に当てたティミーは、その場で深々と頭を下げて挨拶をした。

「ようこそティミー。どうぞ立って。我々竜騎士隊一同は、心から君の到着を歓迎するよ。これからはここが君の家となる。しっかりと学び立派な竜騎士となってください。協力は惜しみませんよ」

「はい、頑張りますのでよろしくお願いします!」

 アルス皇子の言葉に、そう言って笑顔で立ち上がるティミーはまだ緊張はしているようだがとても良い笑顔だった。




 そのままレイルズ達は一旦本部の休憩室へ行き、ティミーはロベリオと一緒に兵舎の彼のために用意された部屋に向かった。

「ティミー、ここでこれから先君の第一従卒として働くロートスを紹介するよ。優しいけど怒らせたら怖いから要注意だぞ」

 最後は小さな声で耳打ちされ、驚きに目を見張る。

「ロートスと申します。今まではロベリオ様の第二従卒として務めておりました。ティミー様の第一従卒となるようご指名をいただきました。どうぞよろしくお願いいたします。分からない事がありましたら、なんでも遠慮なくお尋ねください。疑問に思った事は決してそのままになさいませぬようお願いいたします」

「ティミーレイク・ユーロウです。どうぞよろしく。ええと、何とお呼びすればいいですか?」

 軍人の家系ではないティミーに、従卒と言われてもどういった事をしてくれる人なのかがよく分からない。

「どうぞそのまま、ロートスとお呼びください」

 ここでレイなら自分よりも歳上のなんでも知っている人を呼び捨てにするなんて出来ないと言うところだが、伯爵家の一人息子として育った彼は、当然のように笑顔で頷く。

「分かりました。ではロートス、何も知らない僕にいっぱいいろんな事を教えてください」

「もちろんです。日々の日常的なお世話は私とマーカスで手分けして致します。ですがマーカスは基本的に竜騎士隊の本部から出る事はありませんので、城へ行く際には私が付き添いをいたします。また、実際の出撃や巡行の際などには、各地にいる第二従卒が中心となってお世話させていただきます」

 説明を受けて目を瞬いて首を傾げる。彼は軍服を着ているが、執事とどこが違うのだろう?

「そっか、ティミーは軍人の家系じゃないから、従卒って言われてもあまりよく分からないんだ」

 ロベリオの言葉に小さく頷く。

「彼らは、執事と同じで主に俺達の日常の身の回りの世話をしてくれる。慣れるまではある程度の予定の管理なんかもやってくれるからね。ちなみに彼らは全員が軍人だよ。執事と大きく違うのはそこだね。だから戦闘員とみなされるから、最前線の国境の砦にも俺達の従卒は行けるんだよ。執事は非戦闘員だから、砦には連れて行けないからね」

 納得して改めてロートスを見て笑顔になる。

 その後、彼の案内で部屋の中を見て周り、先に届けた自分の私物が綺麗に整えられているのを見て笑顔になった。





「ところでレイルズ、ちょっといいか?」

 一方、全員揃って休憩室に着いたところでルークに肩を叩かれる。

「はい、どうしたんですか?」

「お前、ティミーに何か贈り物って用意してるか?」

 その言葉に、レイは一瞬目を瞬き慌てたようにルークの腕にすがった。

「ああ、そうですよね。贈り物をするなら先に用意しておかないと! うわあ、どうしよう。今から頼んだら、商会の人っていつ来てくれるかな?」

 慌てて左右を見回し、全員が呆れた顔で自分を見ているのに気づいてさらに慌てる。

「まあ落ち着け。ほら深呼吸〜」

 笑ったルークに背中を叩かれ、何度か深呼吸をして落ち着いたレイは、改めてルークを見た。

「ねえ、どうしたらいいですか? 僕、何にも用意していないです」

 半泣きになってるレイを見て、ルークが苦笑いして背中を叩く。

「まあ、そんな事もあろうかと優しい先輩達が色々多めに用意してあるから、お前がいいと思うのを選べ。後で伝票はラスティに回しておくからな」

 驚くレイの背中をもう一度叩いたルークは、無理矢理彼の向きを変えて休憩室の奥へ向けた。

 そこは降誕祭の時にツリーを飾る場所で、普段は空いたワゴンを置くくらいで何も置かれていない。

 しかし、そこには幾つもの包みやきれいにリボンがかけられた木箱が並んでいた。

「今からこれをティミーの部屋に皆で持って行くんだけどさ。誰かさんは完全に贈り物の存在を忘れているみたいだったから、優しい先輩達が気を利かせて色々と多めに用意してやったんだ。感謝しろよ」

「ああ、ありがとうございます! 心の底から感謝します!」

 本気でそう叫ぶレイを、皆、苦笑いして見ていたのだった。



『よかったな。手回しの良い優しい先輩達で』

 呆れたように笑いながら現れたブルーのシルフに、レイは照れたように笑いつつも嬉しそうに何度も頷いていたのだった。

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