ティミーへの贈り物
「えっと、僕はどれを選ばせてもらったらいいんでしょうか?」
並んだ大小の箱や包みを見て、レイは困ったようにルークを振り返った。
「こっちは大人組の贈り物だから駄目だよ。ここからこっち。レイルズなら、これがいいんじゃないかと俺は思っているんだけどな」
ルークの言葉に、彼が示したしっかりと梱包された木箱を見る。
中身は完全に見えないようになっているが、なんだかこの木箱は見覚えがある気がする。少し考えて不意に思い出してルークを振り返る。
「ねえ、ルーク! これってもしかして!」
「おう、やっぱり気が付いたか。ちょうど一つだけ出来上がったばかりの在庫があったからさ。シャムに頼んで一緒に持って来てもらったんだ」
「僕、これにします!」
目を輝かせるレイに、ルークだけでなく若竜三人組が揃って笑う。
「ああ、やっぱりレイルズはそっちに行ったか。残念、じゃあこっちはまた別の機会にだな」
ロベリオ達が、端に置いてあった幾つかの包みや小さめの木箱を見て、そんなことを言いながら笑っている。
「えっと、もしかしてそっちも贈り物候補ですか?」
「おう、こっちの包みはミスリルのナイフと鞘。こっちは部屋に置く装飾用の花瓶。有名な工房の新作らしいよ。こっちは本と文房具関係。それから後は、部屋で使う室内履きや膝掛けなんかもあるな。まあこういうのは数があっても邪魔にならないから、贈り物としては外れがない」
笑ったロベリオの言葉に、レイも納得して頷く。これは今後の参考にさせてもらおう。
「そっちの本は何があるんですか?」
嬉々として積み上がった本を覗き込む。
「ティミーは政治経済学部の特待生だろう。だからここにあるのは、ちょっと滅多に手に入らないような政治経済学関係の専門書だよ。これはまだまだこれから先、彼なら将来に渡って使える本だろうからさ。今回は誰も選ばなかったから、次の降誕祭の時の贈り物候補になるかな」
「じゃあ、僕、その本を予約しておいてもいいですか?」
真顔のレイの言葉に、ルークは笑ってじゃあ取置きを頼んでおいてやると請け負ってくれたのだった。
執事が本を含めていくつかの包みや木箱を台車に乗せて下げるのを見送り、自分が選んだ大きめの木箱をそっと撫でる。
「えっと、これを持ってティミーの部屋に行くんですよね? 台車で運べばいいかな?」
さっきそう言っていたので自分の分は自分で運ぶ気満々でそう言ったのだが、当然のように執事達とラスティ達が来て、あっという間にそれぞれの贈り物を手分けして運び出してしまった。
「ご苦労様。じゃあ俺達も行こうか」
自分も荷物運びを手伝おうと思い、ラスティに声を掛けかけて思いとどまる。
「そっか、これは彼らのお仕事なんだね」
小さくそう呟き、木箱を抱えたラスティの後を追った。
「ラスティ、運んでくれてありがとうね。重くない?」
声をかけられて驚いて振り返ったラスティは笑顔になる。
「はい、それほど重い物ではありませんから大丈夫ですよ。一人で運べない重さの場合は、階段も移動出来る専用の荷運び用の台車がありますから、どうぞお気になさらず」
「そうなんだね。でも無理はしないでね」
歩きながら小さな声でそう言い、ラスティの背中を軽く叩いてルークの横へ戻る。
彼のちょっとした気遣いが嬉しくて思わず笑顔になるラスティだった。
「あれ、皆様おそろいでどうなさったんですか?」
今から休憩室へ行くつもりだったティミーは、ノックの後に皆が部屋に入ってくるのを見て驚いて座っていたソファーから立ち上がった。
「我々からの贈り物を届けにきたよ」
ルークの言葉と共に、机の上や足元に次々と置かれる木箱や包みを見てティミーが居住まいを正す。
きれいに並べ終えると、執事達は一礼して下り部屋の隅に控える。
「これは……もしかして剣ですか!」
一番真ん中に置かれた細長い包みを見てティミーが目を見開く。
「開けてごらん。これは陛下からの贈り物だよ」
アルス皇子の言葉に驚いて皇子を見上げたティミーは、彼が笑顔で頷いてくれたのを見て頷き、唾を飲み込んで深呼吸をしてからゆっくりと包みを縛っていた紐を解いた。
柔らかな布の袋に入っていたのは、ここへ来る時にレイがギードから貰ったくらいの長さのミスリルの見事な細工の施された短剣で、柄の先端部分にはティミーの竜の守護石であるターコイズが嵌め込まれていた。先端部分にミスリルが当てられた革の鞘にも、全面にわたって細やかな蔓草模様が描かれている。
「これって、これってターコイズですね!」
ティミーの言葉に、アルス皇子も笑顔になる。
ごくわずかに金の縁取りが施された綺麗な真ん丸に削られたターコイズは、静かで優しい吸い込まれそうなやや緑がかった水色をしている。
「へえ、綺麗な石だね」
覗き込んだレイの言葉に、ティミーはこれ以上ない笑顔になる。
「母上が下さったこのペンダントもターコイズなんですよ。僕は指がまだ細くて短いから、精霊達が入る石のついた指輪よりは、こっちの方が良いって、そう言ってこれを贈ってくださったんです」
ティミーはそう言って、胸元からこれも綺麗な半円形に磨かれたターコイズのペンダントを取り出して見せた。
ミスリル細工の蔓草が平たく円盤状に絡まり合い、真ん中の半円形になったターコイズを守る様に包み込んでいる。
「へえ、これはまた見事な細工だね」
ルークがそう言ってティミーの手元を覗き込む。
「確かにティミーの手はまだ小さいからな。無理に成長期の手に合わない指輪を嵌めるよりは、ペンダントやブローチなどで精霊の入る石を身につける方が良いだろうな」
ルークの言葉を聞いたレイは、いつも身につけている母さんの形見の木彫りのペンダントを、そっと服の上から撫でたのだった。
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