ガイとの語らい

「ブルー、アルカディアの民のガイって人を呼んでくれる」

 レイの言葉に頷いたブルーのシルフは、真剣な顔で頷くと上空を見上げた。

 その瞬間、部屋に強固な結界が張られる。

 しばらくすると、目の前に明らかに古代種のシルフと思われる大きなシルフが現れて座った。先頭がそのシルフで、後ろに並んだのはいつものシルフ達だ。

『おはようさん』

『どうした?』

 名乗りもせずにそう言った一番前のシルフに、レイは笑顔で一礼した。

「おはようございます。えっと、レイルズです」

 わざわざ名乗ったレイに、ガイの使いのシルフが笑う。

『おう古竜の主殿』

『要件を聞こうか』

 前置きはいらないらしい。

 いきなり本題に切り込まれたレイは、小さく頷きソファーに座ったまま背筋を伸ばした。

「あのね、実は光の精霊達に見せてもらったの……それでね……」



 つっかえつっかえしながら時折ブルーが詳しい説明をして、レイは前回と今回の自分が見た過去見の夢の話をした。

 普通の人なら、何を寝ぼけた事をと一蹴されただろう。しかしガイは、その話を聞いても茶化したりからかうような様子は一切見せず、時折相槌を打つだけでずっとレイの気が済むまで黙って話を聞いてくれた。



 また泣き出してしまったレイが黙ってしまうと、ガイの使いのシルフはこれ以上ないくらいの大きなため息を吐いて頭を抱えた。

『ウィスプの奴ら』

『いきなり子供になんてもんを見せるんだよ』

『ちょっとは考えろよな』

 すると、まるでそれが聞こえたかのように、レイのペンダントが跳ねて五人の光の精霊達が飛び出してきた。


『我らは見せるべきだと考えた』

あるじ殿はご両親のことを知りたがっておられた』

『故にお見せしたまで』

『其方に責められる筋合いはない』


 ちょっと拗ねたようなその声にレイが無言で慌てていると、ガイの使いのシルフは苦笑いして首を振った。

『だからそれならご両親の事だけでよかろう?』

『よりにもよってアルカーシュの最後の日を見せるなんて』

『ちょっと悪趣味じゃねえか?』

 一面血の海になったあの光景を思い出して、ようやく涙が途切れたレイの瞳にまた涙があふれる。

『ああもう分かったから泣くなって』

 ガイの使いのシルフがふわりと浮き上がって泣いているレイの肩に座り、そっと濡れた頬にキスを贈る。

『主殿の涙はきっと彼らの元に届いてるよ』

『彼らの為に泣いてくれてありがとうな』

 優しいその言葉に、また涙が溢れる。

『変えられぬ過去を知り』

『主殿がこんなふうに悲しむのが分かってて』

『それでも見せたのは間違っていないってか?』

 苦笑いしつつも責めるかのような口調のガイのシルフの言葉に、光の精霊達は顔を見合わせて揃って大きく頷いた。

 そしていきなり堰を切ったように話し始めた。


『あれが暴挙の全て』

『今現在タガルノに巣食う闇の根源が』

『地下で目覚めようと胎動を始めている』

『タガルノの一部の者達はそれに同調しようとしている』

『だが奴の目覚めには強力な贄を必要としている』

『そのために目を付けられたのが巫女姫様』

『あれほどの力を持つ人の子は我らとてもついぞ見かけぬ』

『まつろわぬ民達の誰よりも強い力を持つ』

『主殿のご友人や想い人の軽く数十倍はあろう』

『なれど巫女姫様は精霊王の元へ旅立たれてしまった』

『故に我らは心配なのだ』

『奴が次に狙うとしたら』

『それは主殿を置いて他には無い』

『古竜の主よりも強き者はこの世にはおらぬ故』

『今は決して伴侶である古竜の側を離れてはならぬ』

『今は決して聖なる結界に守られたこの国から出てはならぬ』

『それを知らしめる為に我らはあれを主殿に見せた』

『そして万一にもあってはならぬ暴挙の再現への警告の為』


 呆気に取られるガイの使いのシルフに向かって光の精霊達は揃って胸を張った。


『我らが守る』

『巫女姫様の愛し子を』

『我らが守る』

『唯一の古竜の主殿を』

『我らが守る』

『巫女姫様が愛したこの世界を』

『我らが守る』

『精霊王より託されし聖なる結界に守られたこの世界を』


 厳かにそう宣言する光の精霊達にガイの使いのシルフは、深々と一礼した。

『精霊王に感謝と祝福を』

『我らは共に精霊王のしもべであり精霊達の友達ともがらである』

『俺の貴方達への軽率な言葉に心からの謝罪を』


 そのガイの使いのシルフの様子に、光の精霊達は目を細めて顔を見合わせた。


『アルカディアの民達には定められし役割がある』

『我らとは違う』

『なれど大切な役目』

『考えが違うのは当然の事』

『なれど目指す先は同じ』

『精霊王に感謝と祝福を』

『我らがともがら』



 完全に会話に入れず置いて行かれたレイが、困ったようにブルーのシルフを見る。

「えっと、喧嘩したんじゃあないよね?」

『それは違うぞ。考え方が少し違っていただけだ』

『双方ともにそれを理解して謝罪した。これで相互不理解は解決だ』

 面白がるようなブルーの説明に、レイは小さく頷きガイの使いのシルフに改めて向き直った。

「あのね、それともう一つ気になる事があるんだ。タガルノの事は僕は全く知らないから。教えて欲しいんです」

 レイの言葉にガイの使いのシルフが頷く。

『俺に答えられる事ならな』

 ブルーと同じ返事に小さく笑って頷く。

「あのね、最初に僕が見た過去見で、父さんと母さんを追って来た一団を指示していた司令官みたいな人がね、アルカーシュの最後の時にもいたんだ。巫女姫を探せって言って怒り狂ってた。アルカーシュの神官様にも酷い事をしてた。だけど何処にもいないのを知って、あれから戻ってないのかって言ったんだよ。それって、タガルノの人が父さんと母さんが駆け落ちしたのを知って追いかけて、その、母さんがアルカーシュに戻らないと駄目なように母さんを守ってた父さんを手にかけたって事だよね」

 戸惑いつつもはっきりとそう言ったレイに、ガイのシルフが息を呑むのが分かった。

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