夕食会とお酒の話

 夕食会はとても楽しい時間になった。

 次々に用意される料理に舌鼓を打ちつつ、ルーク達から、彼らが竜と出会った時の話や見習い時代に失敗した話、それから苦労した話などを聞いた。

 二人とも夢中になって聞き役にまわり、時に遠慮のない質問をして彼らを机に突っ伏させたりもした。

 話題は尽きず、デザート平らげた後は部屋を変えてルーク達はお酒を、ティミーにはリンゴ酒が出された。

 ソファーに座って好きな貴腐ワインをもらったレイは、驚いてそんなティミーを見た。

「えっと、それもお酒だけど大丈夫?」

「レイルズ様、リンゴ酒は僕でも飲めますよ。これは特に発酵が浅いので、はっきり言ってジュースと変わりませんよ」

 目を瞬くレイを見て、笑ったティミーが執事を振り返る。

 心得た執事が別のワイングラスをレイに渡し、りんご酒を注いでくれた。

「ああ、本当だ。これは確かにほぼジュースだね」

 一口飲んだレイが、そう言って笑う。

「リンゴ酒は、子供でも飲める貴重なお酒なんです。僕も、誕生日や降誕祭の時なんかには、飲ませてもらっていますよ。でも、例えばブランデーは同じリンゴを原料にしていても僕には絶対に飲めませんね」

「へえ、リンゴを原料にしたお酒には、そんな強いのもあるんだ」

 入れてもらったリンゴ酒を飲み干してから、驚いたようにそう呟いて空になったグラスを見る。なんとなく、お酒の原料は、葡萄だとばかり思っていたのだ。

「あれ、飲んだ事無いかい?」

 二人の会話が聞こえていた隣に座ったルークの言葉に、レイが振り返る。

「初めて聞きました」

「ここにはある?」

 即答するレイに笑って肩を竦めたルークは、近くにいた執事に小さな声で尋ねる。

「少々お待ちください」

 一礼した執事が下がり、すぐに一本のボトルを持って来てくれた。

「グラスミア産のアルベール工房のブランデーでございます」

 手書きのやや黄ばんだラベルを見せる執事に、ルークが目を見開く。

「おお、これはまた凄いのが出たぞ。四十年ものだ。よろしいんですか?」

 思った以上に凄いのが出て来て驚くルークに、執事は笑顔で頷いた。

「はい、こちらの離宮に保管されている全てのお酒は陛下から直々に許可をいただいており、機会を見てレイルズ様に飲ませて差し上げるよう仰せつかっております」

「愛されてるねえ」

 小さく笑ったルークは、ソファーにもたれかかっていた体を起こしてレイの背中を叩いた。

「これが噂の長期熟成されたリンゴの酒だよ。ブランデーって呼ばれている蒸留酒だ。さすがに、これは俺も数回しか飲んだ事が無い逸品だからな。ううん役得だ」

 ルークの言葉に若竜三人組が目を輝かせて振り返る。

「グラスミア産のアルベール工房のブランデーの四十年ものだって?」

「ええ、それは凄い」

「僕はそれは飲んだ事無い」

 目を輝かせる三人に笑って頷きルークが合図をすると、一礼した執事がボトルの封を切って、別に用意された氷を落としたグラスにゆっくりとブランデーを注いだ。

「どうぞ」

 ティミー以外には、片手持てるやや大きめのグラスが渡され、ティミーには水で薄めたブランデーを入れたごく小さなグラスが渡された。

「これも経験でございます。どうぞ一口だけでも。ですが、無理だと思われたらお飲みにならずとも結構でございます」

 嬉しそうに笑って頷くと、改めて乾杯をするレイ達と一緒にティミーも持っていたグラスを掲げた。

「精霊王に感謝と祝福を」




「うわあ、やっぱり全然違うな。これは美味しい」

「確かに。ううん。今夜はここに来て良かった」

「本当だね。これは美味しい」

 若竜三人組はそれぞれゆっくりと飲みながら嬉しそうに話をしている。ルークも、手にしたグラスの氷をゆっくりと回しながら嬉しそうに飲んでいる。

 しかし、レイは一口飲んだだけで無言になった。

「うわあ、これはキツい。僕にはちょっと無理です」

 しばらくの沈黙の後、そう言ってグラスを置いてからソファーに倒れ込む。

 ティミーも、ほんの一口舐めただけで黙って首を振ってグラスを置いてリンゴ酒のグラスを手にした。

「おやおや、お子ちゃまなレイルズ君には、この美味しさは理解してもらえなかったか」

 からかうようなルークの言葉に、顔を上げたレイは悲しそうに首を振った。

「違います。口当たりは良いし、香りも最高に素晴らしいです。間違いなく美味しいんだって事は分かります。でも、酒精が強すぎます。今これを飲んだらきっと朝まで動けません。今夜のティミーとの楽しい時間をお酒のせいで無駄にするなんて、絶対に駄目です!」

 大真面目に断言するレイを見て、ルークだけでなく、若竜三人組とティミーまでが揃って吹き出し大笑いになったのだった。

「確かにその通りだな。じゃあお酒に弱いレイルズ君は、ティミーと一緒にリンゴ酒でも飲んでいたまえ」

 ルークにそう言われて舌を出したレイは、ティミーと顔を見合わせて笑い合った。

 その後は、軽めの貴腐ワインをもらって飲みながらお酒の産地や種類についてルークや若竜三人組に教えてもらい、時に執事も交えながら詳しい話を聞いて過ごした。



「さて、もう良い時間だし、一旦解散するか」

 グラスのお酒を飲み干したルークの言葉に、レイとティミーも返事をして立ち上がる。

 幸い二人とも全く酔っておらず、少し眠いくらいで元気一杯だ。

 一旦それぞれの執事に伴われて部屋に戻り、軽く湯を使って着替えをした。

 レイも、ラスティと一緒にいつも使っている広い部屋へ行き、まずは湯を使った。

 そして、浴室から部屋に戻ったレイが見たのは、追加で用意された大きなソファーと数台のワゴンに用意された様々なお菓子やナッツ類、それから冷たく冷やされた飲み物の入ったピッチャーやボトルの数々だった。

 目を輝かせるレイを見て、ラスティはにっこりと笑った。

「ティミー様に、どうぞ夜遊びの楽しさを教えて差し上げてくださいませ」

 満面の笑みで頷いたレイは、ノックの音がして慌てて振り返る。

 執事が開けてくれた扉の向こうには、枕を抱えたルーク達に伴われて入ってきた、これも大きな枕を抱えたティミーが立っていて、レイは大喜びで彼らを迎え入れたのだった。



 窓枠に座ったそれぞれの使いのシルフ達や勝手に集まって来たシルフ達は、これから始まる楽しい夜遊びの時間に、期待に胸を膨らませて彼らを見つめていたのだった。

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