今日の予定

「ありがとうございました!」

 最後にもう一度ヴィゴと手合わせしてもらい、先程のレイの攻撃のどこが良くてどこが悪かったのかを実際にもう一度再現しながら詳しく教えてもらった。

 目を輝かせて必死になって聞くレイを見て、教えながらもヴィゴもとても楽しそうにしていた。

「それにしてもよくここまで伸びたもんだな。では今度は、以前言っていたように格闘訓練の相手をしてもらうとしようか」

 ふわふわの赤毛を撫でながらそう言われて、レイは悲鳴を上げてルークの後ろに隠れた。

「無茶言わないでください。とっ捕まって締め落とされる未来しか見えません!」

「大丈夫だ。捕まえても締め落とすところまではせんよ」

「それ、全然大丈夫じゃないです!」

 ルークの後ろに隠れながらのレイの悲鳴のような叫びに、横で聞いていたタドラとカウリは遠慮なく大笑いしていたのだった。




 一旦部屋に戻って軽く湯を使って汗を流した後、出された着替えはいつもの竜騎士見習いの制服ではなく、遠征用の制服だった。

「あれ、いつもの制服じゃないんだね?」

 袖を通しながら不思議そうにしている。

「はい、今日はこれを着るようにとの指示がありました。今日の予定はルーク様から後ほど説明があると思いますので詳しく聞いてくださいね」

 ラスティにそう言われて、素直に頷いたレイは身支度を整えてから皆で一緒に直堂へ向かった。タドラ以外は全員が遠征用の制服を着ているので、どこかへ出掛けるのは確実のようだ。

「あれ、タドラはいつもの制服なんだね」

 一人だけいつもの白い制服を着たタドラを見て、レイが不思議そうにそう尋ねる。

「うん、今日は僕はジャスミンと一緒に神殿に行かなきゃ駄目なんだ。だから食事の後は、僕だけ別行動だよ」

「そうなんですね、ご苦労様です」

 ジャスミンも頑張っているのだと聞き、嬉しくなるレイだった。



「さっきはかなり豪快に吹っ飛ばされてたけど、大丈夫だったか?」

 同じく竜騎士見習いの遠征用の制服を着たカウリの少し心配そうな言葉に、レイは笑って首を振った。

「防具をしっかり身に付けていたから大丈夫だったよ」

「相変わらず元気だねえ」

 呆れた様子ながらも、カウリはレイのふかふかな赤毛を突っついて笑っていた。

 それぞれに自分の分を食事を確保して席に着く。しっかりとお祈りをしてから食べ始めた。



「そういえば今日は何をするんですか。これを着ているって事は、何処かへ出掛けるんですよね?」

 そろそろ竜の面会が近い。今年はさすがに二等兵として現場には立てないだろうが、逆に面会期間中の竜騎士達が何をしているのかが気になっていたので、てっきりそれの説明があるのだと思っていたのだ。だけどどうやら今日は何処かに出かけるらしくて、レイはもうさっきから行き先が気になって仕方がなかった。

「ああ、今日はお前が喜びそうな予定があるよ」

 笑ったルークの言葉に、パンをちぎりかけていた手を止める。

「ええ、もったいぶらずに教えてください。今日は何があるんですか?」

「俺とレイルズ、それからカウリとヴィゴの四人で竜の保養所へ行くぞ。それで、今回の面会に参加する竜達を連れて戻って来るんだ」

 目を輝かせるレイを見て、皆笑顔になる。

「今回は、ブラックスターとユナカイト、それからゼオライトも連れてくるからな」

 ヴィゴの言葉に、レイはもうこれ以上ないくらいの笑顔になる。

「それから、向こうではターコイズの具合も聞いて来ないとな。忙しいから、食べたらすぐに出るぞ」

 ルークにそう言われて、パンを口に入れたレイは嬉しそうに何度も頷いていた。

「すごいね。三日続けて一緒に飛べるね」

 お皿の横に座っていたブルーのシルフにそう言って笑いかけたレイは、大きく切った燻製肉を豪快に一口で食べて満足そうに咀嚼していた。

「おお、一口でいったぞ。間違って喉に詰まらせるなよ」

 その豪快な食べっぷりに呆れたようなカウリの言葉にも、平然と笑っているレイだった。

 ブルーのシルフは、そんなレイの様子を愛おしくてたまらないと言わんばかりの眼差しで、ずっと見つめているのだった。




 しっかりデザートまでいただきカナエ草のお薬を忘れずに飲み、残りのカナエ草のお茶も飲み干してから一旦本部に戻った。

 ルーク達が幾つかの書類にサインをするのを待ってから一緒に中庭に出ると、そこには四頭の竜達がそれぞれに準備を整えて待っていてくれた。

 この顔ぶれだと、ブルーも一緒に中庭に降りられる。

 遠征用の荷物を渡されてそれを抱えたレイは、ブルーの大きな頭を撫でてキスを贈ってから腕から背中によじ登り、荷物をしっかりとベルトの金具に引っ掛けてから鞍に座った。

「楽しみだね。今日は竜の保養所まで行くんだって」

「ああ、今日はずっと一緒だな」

 嬉しそうに喉を鳴らすブルーの首をそっと撫でてやり、嬉しそうに笑った。

「じゃあ行くぞ」

 耳元で聞こえたルークの声に、元気に返事をしたレイはブルーの首をそっと叩いた。

「じゃあ行こうよブルー」

「うむ、出かけるには良い日和だ」

 嬉しそうにそう言ったブルーは、ルークの乗るオパールに続いて、大きく一度翼を広げて羽ばたいたあと、そのままゆっくりと上昇していった。



 城からの大歓声と整列した第二部隊の兵士達に見送られて、四頭の竜達はヴィゴの乗るガーネットを先頭に、ルークの乗るオパール、カウリの乗るカルサイトがその後ろに並び、そしてしんがりにブルーが付く。

 綺麗に編隊を組んだ四頭の竜達は、一旦オルダムの上空を旋回してから北のロディナへ向かって一気に飛び去って行った。



 ブルーの背の上のレイは、久し振りの遠出にすっかりご機嫌で笑み崩れるのをどうしても止められないのだった。

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