ヴィゴとの手合わせ
「よろしくお願いします!」
「よし来い!」
まずはヴィゴが構えてくれたので、レイが嬉々としてヴィゴの正面に立つ。
奇数なのを見て来てくれたキルートがルークと、カウリとタドラがそれぞれまずは一対一で打ち合う。
「お願いします!」
もう一度大きな声で叫んだレイが、勢いよく正面から打ちかかる。
当然のように受け止めてくれたところで、更に重ねて打ち込む。
「良いぞ、どんどん来い!」
獰猛な笑顔のヴィゴにそう言われて、レイは目を輝かせて返事をした。
右から、左から、更に下から掬い上げて横から打ち込む。しかしそのどれもが当然のように止められてしまい、しかもどんどん前に出られて思わず下がってしまう。
「下がるな!」
辺りに響き渡るような大声で怒鳴られて、飛び上がって慌てて打ち込みに行く。
「甘い!」
しかし中途半端な一撃に対し即座に力一杯打ち返され、勢い余って吹っ飛ばされてしまった。
見ていたマークとキムが、思わず駆け寄りそうになったくらいのものすごい勢いだった。
「痛た……」
しかしすぐに起き上がったレイは、転がっていた棒を手にしてすぐに走って元の位置に戻った。
「申し訳ありませんでした! もう一本お願いします!」
正眼に構えてそう叫ぶ。
「おう、しっかり打って来い!」
大声をあげて正面から打ちに行ったが、受け止められる寸前に手首を返してカウリのように棒を絡め取りに行く。
「良いぞ!」
何故だか嬉しそうなヴィゴにそう言われた直後、その絡め取りに行った腕ごと逆に絡め取られて投げ飛ばされてしまった。
「ふぎゃ〜〜〜!」
情けない悲鳴を上げて吹っ飛ばされ、咄嗟に受け身を取って転がる。そのままゴロゴロと転がって壁に当たってようやく止まった。
「うう、絶対いけると思ったのに〜〜!」
転がったまま悔しがるレイに、ヴィゴは笑っている。
「あいつ、やるなあ」
「本当だね。あの絶対諦めない頑張りは、すごいといつも思うよ」
手を止めたカウリとタドラが、揃って感心したようにうんうんと頷き合うのを見て、ヴィゴが振り返ってにんまりと笑う。
「次は誰がやる?」
「お願いします!」
二人同時に叫んで、そのまま並んで身構える。
「おう、構わんぞ。一緒に来い!」
二人同時に打ちかかられて、嬉しそうなヴィゴが大声をあげて思い切り棒を振るって二人を遠慮なく吹っ飛ばした。
「なんだかヴィゴが楽しそうだ」
「ですね。あんなに楽しそうなヴィゴ様は久し振りに見ますね」
同じく手を止めたルークとキルートが、二対一で打ち合っているヴィゴとカウリとタドラをのんびりと眺めていた。
「うう、全然相手にもならなかったです」
ようやく起き上がったレイが、棒を手に悔しそうにそう言いながら二人の所へ来る。
「いや、なかなか頑張ってたと思うぞ。なんたってヴィゴが楽しそうにしていたからな」
「ええ、そうですか?」
驚いて笑ったルークを見上げる。
「最後、吹っ飛ばされたけど悪くない作戦だったぞ。後で俺も入るから四対一だけどやってみるか?」
これまたにんまりと笑ったルークの言葉に、一瞬目を瞬かせたレイは少し考えてからルークを見た。
「つまり、四対一ならさっきの絡め取りも通用する?」
「可能性はある、しかも一度防がれた技をすぐにまた使ってくるとは思ってないだろうから、そこを突くのさ。俺達がフォローに回ってやるから、お前は隙を見て特攻をかけろ」
首がもげそうな勢いで頷くレイを見て、キルートは堪えきれずに吹き出してしまい、声を殺して棒に縋って笑っていた。
一方、一対二であるにもかかわらず一方的に攻められるばかりのタドラとカウリはまたしても吹っ飛ばされて揃って転がされた。
「ああ、もう! おい、何呑気に見学してるんだよ。せめて一撃かますんじゃあなかったのかよ!」
腹筋だけで勢いよく起き上がったカウリの叫びに、ルークが吹き出す。
「僕ももう一度お願いします!」
そう叫んで、まずはレイが乱入する。
「俺も混ぜてください!」
ルークがそう叫んで、一対一で打ち合うレイとヴィゴの横から打ち込みに行った。そこから更に起き上がったタドラとカウリも乱入して、形としては乱取りだが実質四対一の戦いになる。
主にルークがヴィゴの正面から相手をして三人が死角から打ち込みに行くのだが、残念ながら小手先の誤魔化しはヴィゴには全く通用しない。
次々と弾き飛ばされてはまた起き上がってまた打ち込みに行くが、嬉々として打ち返すヴィゴには全くと言っていい程に隙がない。
しかし何度目かの打ち合いの後、ルークが弾き飛ばされて転がった時にレイが即座に正面に回って突撃した。
当然受け止めるつもりで正面に上げられたヴィゴの棒を、レイは斜め横から思い切り絡め取りに行ったのだ。
「絡め取りだと!」
「うおおお〜〜〜!」
驚くヴィゴの声と、レイの気合の入った声が重なる!
「詰めが甘い!」
しかし絶対に取ったと思ったのも束の間、そう叫んだヴィゴに腕を掴まれて引き寄せられ、あの丸太のような腕に完全に抱え込まれてしまった。
「く、苦しいれす……」
完全に首を決められていて身動きが取れない。
締め上げられたレイの腕から棒が転がり落ちる音が響き、腕を軽く叩いて降参の意思を示す。
それを合図にしたかのように、締め上げていた腕を緩めてくれた。
そのまま地面に足をついたが、堪えきれずにその場に崩れ落ちる。
「おい、大丈夫か!」
ルークの叫ぶ声を聞きながら、レイはそのまま仰向けに倒れた。
一気に汗が吹き出し、心臓の音が早鐘のように鳴り響いている。
転がったまま、必死になって口を開けて息をした。
「今のはなかなか良かったぞ。だが視線のせいで何処を攻めるか丸分かりだったのが残念だな。次はもう少し上手く誤魔化す方法を考えろ」
笑ったヴィゴにそう言われて、転がったままレイは悔しそうに叫んだ。
「ああ、もう! 今度こそ絶対取れたと思ったのに!」
床を叩いて、駄々をこねる子供のように全身で悔しがるレイの叫びに、呆気に取られて一連の戦いを見守っていた見学の兵士達は、堪えきれずに笑い出し、訓練所は大笑いになったのだった。
『ふむ、なかなかに健闘はしたが、残念ながらガーネットの主に通用するにはまだまだだな』
笑ったブルーのシルフの言葉に、一緒に見学していたニコスのシルフ達も笑っている。
『頑張り屋の主様』
『だけどまだまだだね』
『だね〜』
『でもきっといつか!』
声を揃えて楽しそうに棒を振る仕草をしながらそう言うニコスのシルフ達に、ブルーのシルフも嬉しそうに頷いた。
『そうだな。きっといつか一撃入れてくれる日が来るだろうさ。レイの頑張りが実を結ぶまで、我らはのんびり見守るとしようか。これに関しては、我らに出来るのは応援する事くらいだからな』
揃って嬉しそうにウンウンと頷くニコスのシルフ達を見て笑ったブルーのシルフは、ふわりと浮き上がってまだ転がったままの愛しい主の元へ向かった。
『残念だったな』
目の前に現れたブルーのシルフの言葉に、転がったままのレイは悔しそうにしながら起き上がった。
「絶対いけたと思ったんだけどなあ、やっぱりヴィゴは凄いや」
『大丈夫か?どこか痛めたりしてはおらんか?』
心配そうに覗き込むブルーのシルフにレイは笑ってキスを贈った。
「大丈夫だよ。締められたけど落とされるまではされてないからね」
まだ息は荒かったが、なんとか自力で立ち上がったレイを見て、心配しつつも遠巻きに見学していた兵士達は、それを見て大きくどよめいたのだった。
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