彼らの評価
「はあ、緊張してきた」
早めの夕食を終え、急いで第一級礼装に着替えたマークとキムは、お互いの背中を見あって皺を伸ばしてからミスリルの剣を剣帯に装着した。
「喉がカラカラだよ。だけどまあ、二度目だから前回ほどは緊張してないぞ」
空元気のマークの言葉に、キムが乾いた笑いをこぼす。
「言ってろ、大広間に入っても今と同じ言葉を言えたら褒めてやるよ」
「嘘です。めちゃめちゃ緊張してます!」
叫んだマークの言葉に、顔を合わせた二人は同時に吹き出した。
「とにかく行こう。ここでうだうだ言ってても仕方がないって」
「だな。とにかく頑張ろうぜ」
「おう、よろしくな相棒!」
無理やりひねり出した笑顔で互いの拳をぶつけ合った二人は、もう一度ため息を吐いてから揃って覚悟を決めてディアーノ少佐の執務室へ向かった。
一方、ブルーと共に先に城に戻ったレイは中庭に竜達を置いて、そのまま一旦城にある竜騎士隊専用の控え室へ向かった。
「お疲れ様。見事だったな」
アルス皇子の言葉に、レイとルークは揃って直立して敬礼した。
「精霊魔法の再合成について、彼らから話を聞きたいと言っている人がどれだけいる事か。前回の歓迎式典の時もそうだったけれど、マーク軍曹とキム軍曹は多分今回もワインを飲む間も無いだろうね」
「そうなんですね」
自分の事を褒められているようで嬉しくなるレイだった。
その後は、別室にて行われた懇親会に参加した。
レイとルークは当然のように軍人達から質問攻めに合い、レイは嬉々としてマークやキム達が行っている精霊魔法の合成と再合成が、いかに難しく安定しないかの詳しい説明をしていた。
集まる人は途切れず、おかげでレイの苦手な血統主義の方々とは、ごく簡単な挨拶だけで済んだのだった。
カウリも当然のようにレイの隣で一緒にマークやキムの話をしていたので、今回は彼も、いつもの彼女達からの集中攻撃を躱す事が出来ていたみたいだった。
そして、レイがマークやキムが褒められる度に嬉しそうに彼らは僕の自慢の友人達なんです。大切な友人達なんです。と言って笑っているのを、優しい眼差しで見つめていたのだった。
懇親会では軽食が用意されていて、レイもいろんな方々とお話をしながらしっかりと自分の食べる分は確保していた。
『しっかり食べているか?』
「あ、ブルー。うん、しっかり頂いてるよ」
口の中のものを飲み込んでから、レイは右肩に座ったブルーのシルフにキスを贈った。
「マークとキムは、夜会には参加するんだよね? また去年みたいに中庭に来るのかな?」
こっそり抜け出して会いに行けるかと密かに気にしていたのだが、何と大広間で行われる夜会に招待されているのだとブルーのシルフに教えてもらい、嬉しさのあまりもう少しで声を上げるところだった。
「良かった、じゃあ僕も少しは話が出来そうだね」
『まあ、おそらく大人数に取り囲まれて身動き出来なくなりそうだから、其方が守ってやらねばな』
完全に面白がっている口調だったが、レイは嬉しそうに何度も頷いている。
「もちろん。僕もまだこんな場に慣れたとは言えないけどさ。それでもマークやキムを少しくらいは助けてあげられるようになったもんね。大変だったけど、頑張っていっぱいお勉強したり教えてもらたりして良かったなって素直に思えるよ」
無邪気なその言葉に、ブルーのシルフは優しい笑みでそっと愛しい主の滑らかな頬に想いを込めたキスを贈ったのだった。
こうして懇親会に続いて始まった大広間での夜会だったが、マークとキムはディアーノ少佐に連れられ会場に到着早々、思っていた以上の人達に取り囲まれてしまい、全く身動きの取れない状態となり、またしても竜騎士隊の皆が到着するまでの間は両公爵とアルジェント卿のお世話になったのだった。
閲兵式には、普段は地方の領地にいる地方貴族の当主も多くがオルダム入りしている。その為、マークやキムの合成魔法を初めて見る人も多く、特に軍関係者の間では、この日の夜会は彼らの話題で持ちきりになっていたのだった。
「それにしても見事だった。キム軍曹、マーク軍曹。二人ともまた腕を上げたようだな。離宮で見せてもらった時よりも、さらに安定して発動出来る様になったではないか」
陛下からの直々の言葉に、マークとキムはその場で直立して敬礼した。
両公爵やアルジェント卿、そして竜騎士隊の皆に付き添われて、マークとキムは夜会で陛下から直々のお褒めの言葉を賜り、今回の合成魔法の再合成の詳しく説明をすると言う名誉にあやかった。
離宮でも直接お言葉を賜っているが、それとは意味が違う。
公式の場で、しかもこれだけの大勢の人達の目の前での陛下からの直々の賞賛は、マークとキムへの評価だけでなく、合成魔法とその再合成に関する研究を陛下がいかに重要と考えているかの現れでもあるのだ。
緊張で真っ赤になりつつも、時折ルークやレイに助けられながら、陛下に今回の合成魔法とその再合成の説明を終えた二人は、緊張し過ぎて逆に落ち着くと言うある意味貴重な経験をしたのだった。
「はい、お疲れ様でした」
レイに笑顔で差し出された貴腐ワインをようやく解放されたマークとキムが笑顔で受け取る。
「二人のこれからに乾杯」
笑顔のレイの言葉に、マークとキムも笑顔になる。
「俺達の大切な友であるレイルズのこれからに乾杯」
マークとキムの声が揃う。
目を見開いたレイは、もうこれ以上ないくらいの笑顔になり、頷き合った三人は互いのグラスを高く掲げたのだった。
「うわ、何だよこのワイン、甘いけどすげえ美味い」
「本当だ。こんなワインは初めて飲むよ。これは美味い」
マークとキムが一口飲むなり揃って感激の声を上げる。
嬉しくなったレイは大喜びで今飲んだ貴腐ワインの説明を始め、話には聞いた事があったが桁違いの値段の為に、貴腐ワインを飲むのは当然生まれて初めての一般人である二人を大感激させたのだった。
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