自慢の友達

「うああ。やっぱりそうなりますよね!」

「だな。やっぱりこうなったか!」

 ディアーノ少佐の執務室へ本部に戻るなり呼び出された二人は、今夜の城で行われる夜会に参加するように言われて揃って顔を覆った。

「あの……俺達が参加するのは、中庭側ですよね?」

 去年も中庭での夜会に参加している二人はそれを願ってそう言ったのだが、にんまりと笑った少佐は首を振った。

「いや、その予定だったんだがな。君達二人が招待されたのは城の大広間で行われる方だよ。陛下も改めて君達から話を聞きたいとの仰せだ。しっかり説明してきなさい」

 前回の、オリヴェル王子を招いての夜会の際の事を思い出して、本気で気が遠くなる二人だった。

「これからは、君達もこういった公式の場に招かれる機会も増えるだろう。ルーク様から報告は聞いているが、定期的に、派遣される執事からマナーや貴族達の関係などについて詳しい説明と指導を受けなさい。今後はこれも仕事の一環として組み込んでおく事だな」

「ちょっと倒れても良いですか?」

 顔を覆ったキムの言葉をディアーノ少佐は鼻で笑った。

「ここで倒れられたら仕事に支障をきたすので、倒れるのは部屋に戻ってからにしなさい」

 からかうようなディアーノ少佐の言葉に、マークとキムはこれ以上ないくらいのため息を吐いてから顔を上げた。

「かしこまりました。では準備をして参ります。第一級礼装でよろしいでしょうか?」

「もちろんだ。では時間になったらここへ来なさい」

「はい、ではよろしくお願い致します!」

 揃って改まって直立して敬礼すると、一礼してから少佐の執務室を後にした。




「はああ、やっぱりこうなったか」

 キムの言葉に、マークも言葉もなく頷く。

「しかも今年は、大広間だって」

「何かもう、失礼して叩き出される未来しか見えないよ」

「お互い気をつけようぜ。はあ、胃が痛くなってきた」

 執務室を出た途端に二人揃ってそう言ってしゃがみ込む。

「確かこんな展開、前にもあったな」

「だな。とにかく戻って着替えの準備だ。それと、早めに夕食も食って来ないとな」

「だな、多分会場ではまた何も食べられない展開だろうしな」

 顔を見合わせて乾いた笑いをこぼした二人は、もう一度揃ってため息を吐いてからとにかく部屋に戻った。



 まずは大急ぎで第一級礼装の準備をする。装飾品などの細かな飾りも一つずつ取り出して確認する。

 レイルズから貰ったカフリンクスをそっと撫でたマークは、一度深呼吸をしてから顔を上げた。

「じゃあ、先に夕食を食べて来よう。戻ったら着替えないとな」

「了解、はあ、それにしても気が重いよ」

 キムも装飾品の入った小箱を確認しながら大きなため息を吐く。

「言うな。それは俺も一緒だよ」

 もう一度顔を見合わせて大きなため息を吐いた。



 どう考えても自分達如きが参加するには分不相応な夜会だと思うが、招待されている以上は出ないと言う選択肢は無い。

「とにかく、竜騎士隊の皆様が来て下さるまで頑張ろう」

「だけど、ディアーノ少佐ならいざ知らず、ディレント公爵閣下やゲルハルト公爵閣下が側でお相手してくださるもの、ありがたいんだけど畏れ多すぎてさあ、正直言ってちょっと本気で気が遠くなるんだけどなあ」

「確かにそうだな。ここはレイルズかルーク様辺りに来てくださるように精霊王にお願いしておくか」

 もう一度顔を見合わせて乾いた笑いをこぼす二人だった。



『ほら、早く食事に行かんか。食べる時間が無くなっても知らんぞ』

 目の前に現れた大きなシルフが、ブルーの声で笑いながらそう言ってマークの鼻先を軽く叩いた。

「ラピス様ですね。はい、今から行きます」

『レイが其方達の事を大層自慢していたぞ』

「ええ、誰にですか?」

 驚くマークの言葉に、同じくキムも驚いてブルーのシルフを見つめた。

『竜騎士隊の皆と一緒に城へ戻った後、何人かの軍関係者達に話しかけられていたからな。皆、其方達二人の話を聞きたがっていて、レイは大喜びで自慢気に合成魔法の再合成がいかに難しいかを話していたぞ』

「うわあ、嬉しいけど……ちょっと恥ずかしい」

 顔を覆って叫ぶマークに、ブルーのシルフは笑っている。

『良かったな。二人はレイの自慢の友達だと言ってくれていたぞ』

「そ、それは素直に嬉しいですね」

 横で聞いているキムも、嬉しそうに笑顔で何度も頷いていたのだった。

『では食事に行ってきなさい。後ほど会おう』

 手を振って消えるブルーのシルフを見送り、顔を見合わせた二人は互いの頬を思い切りつねった。

「痛いって!」

「痛い痛い!」

 同時にそう叫び、それから同時に笑い出す。

「なあ、自慢の友達だって!」

「そう言ってくれたって!」

「やったなあ!」

「ああ、やったよ!」

 互いの肩を叩き合って大喜びしている二人は、実はある事を二人で密かに誓い合っていたのだ。



 お互いにとにかく頑張り出来る事を増やし、いつかレイルズに、自慢の友達だと言ってもらえるように頑張るのだと。

 思わぬ形で叶ったその誓いに、しかし二人は決意を新たにしていた。

 もっともっと頑張って、もっと自分に自信を持って、いつかレイルズの隣に胸を張って立てるくらいに立派になるのだと。

 嬉しそうに笑い合う二人を、部屋に集まったシルフ達が嬉しそうに揃って見つめていたのだった。

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