合成魔法の再合成の披露
編隊を組んで飛んで来た竜達が、兵士達が整列している花祭り広場の上空にピタリと留まる。
見事な鎧を装備した竜達の姿に、感嘆の声があちこちから聞こえた。
「全員抜刀!」
拡声の技により大きくなったアルス皇子の声が広場一杯に響きわたり、竜騎士隊の皆が一斉に剣を抜く。
レイも、自分が装備しているミスリルの剣を抜いた。
紛う事なきミスリルの輝きが、太陽の光に反射して眩ゆいばかりの煌めきを放つ。
呼びもしないのに集まってきたシルフ達が大喜びで風を起こし、竜達の鎧にこの日のためだけに取り付けられたミスリルの鈴をかき鳴らし始める。
軽やかなミスリルの鈴の音が、広場いっぱいに降り注ぐ。
アルス皇子の号令に、広場に整列していた兵士達も全員が抜刀する。
午後の太陽に照らされた抜き身の鋼の剣が乱反射して、いく筋もの輝きが乱舞するのが上空から見えてレイは目を輝かせた。
「剣を捧げよ!」
再びアルス皇子の号令が聞こえ、兵士達が手にした剣を一斉に頭上に向かって高々と掲げた。
竜騎士隊も声を上げ、一斉に抜いた剣をよく晴れた空に向かって掲げた。
剣を突き上げた兵士達が一斉に鬨の声を上げ、それから揃って足を踏み鳴らし始めた。
去年も見た光景だ。
音楽隊が奏でる演奏に合わせて抜刀した兵士達が揃って足を踏み鳴らす。
上空の竜達からはミスリルの鈴の音が音楽に合わせるかのようにかき鳴らされて、なんとも不思議な合奏になった。
音楽が止んで足踏みが止まるまで、レイは一生懸命頭上に向かって剣を掲げ続けた。
「全員、納刀!」
これもアルス皇子の号令に合わせて一斉に剣を収めて直立する兵士達。
頭上から見ていても、その一体感は見事だった。
ここで上空にいた竜騎士隊は四つに分かれて広がり、会場の頭上で東西南北を守る位置に着く。
いよいよ次は、第四部隊を代表しての実演となる。
改めて手綱を握りしめたレイは、落ち着かせるように目を閉じて深呼吸をしたのだった。
「全員、納刀!」
上空の竜からアルス皇子の声がまるですぐ近くにいるかのように聞こえる。
シルフ達が伝えてくれる拡声の技だと分かっていても、鮮明なその声に何度聞いても感心する。
剣を収めたマークは、緊張のあまり喉がカラカラになってしまい、必死になって唾を飲み込んだ。
隣ではキムも似たような感じだ。いや、緊張の度合いは彼の方が上かもしれない。
「いよいよだぞ」
短い言葉に、キムが黙って頷く。
そのまま二人は揃ってゆっくりと三歩だけ前に進み出た。
指揮官の合図で、整列していた兵士達が一斉にゆっくりと後ろに下がっていく。
マークとキムの二人だけを残して、かなりの距離が開いたところで兵士達が止まり改めて整列し直す。
それを見て、レイの乗るブルーがゆっくりと広場に降りてきた。
レイがブルーの背から飛び降りて広場に立つのを見てから、ブルーはゆっくりと上昇してそのまま先ほどまでいた上空の元の位置に戻る。
それを見て、ルークの乗るオパールが広場にゆっくりと降りてきて、同じくルークを広場に残して上空に戻った。
頷き合った四人が、ちょうど二人ずつになるように並んで広がりそれぞれに向かい合った。
レイとルークが陛下に背中を向ける位置で並んで止まり、レイの前にはマークが、キムの前にはルークが立つ。並んで立つお互いの間の距離は、ちょうど10メルトくらいは離れている。
今までの観兵式での実演とは違うそれらに、見学している観客席からは驚きと戸惑いの声が聞こえた。
兵士達は、整列している全員が何が起こるのかと固唾を飲んで見守っている。
「行くぞ」
ルークの掛け声に合わせて、四人が一斉に手を広げて大きく上げる。
レイの手に炎が渦巻く盾が現れ、隣に立つルークが作り出した風の盾と合わせる。
二つの盾は消える事なく重なり合い、ひとまわり大きくなってレイの手の中でさらに大きく燃え上がった。
それを見て、あちこちから驚きの声が上がる。
二人から離れて立つマークは、あえてその場で一度しゃがみ込み、地面に近い位置に広げた手を差し出してノームに砂の盾を作り出してもらう。隣に立つキムが、その砂の盾を受け取り水で包み込む。
キムの手の上には、水で包まれた砂の盾が見事な形を保って大きく広がっている。
そして、ルークとマークが揃って光の盾を作り出して広げる。
レイとルーク、キムとマークがそれぞれ左右に大きく動き、四人は丁度正方形になる位置で立ち止まった。
それぞれの手にある光の盾と合成された二種類の盾。
「まさか……」
誰かの呟きが聞こえた直後、ルークが口を開いた。
「よし、行け!」
その瞬間、四人の手にあった盾が、一斉にそれぞれの手を離れて正方形の中心へ向かって飛んだ。
中心で四つの盾が重なった瞬間、物凄い光が輝き巨大な盾となって大きく広がってその場で輝いた。
その瞬間、その場にいた全員が一斉に驚きの声を上げる、
光り輝く盾はしばらくその場に留まり、その後不意に消えてしまった。
物凄い大歓声と共に、割れんばかりの大きな拍手が沸き起こる。
陛下も立ち上がって大きく拍手をした。
「見事であった!」
陛下の言葉に、四人は改めて整列して直立して敬礼をした。
またブルーとパティがゆっくりと降りてきて、二人を背に乗せて上空へ戻る。
それを見送ってから一礼したマークとキムが列に戻っても、会場の拍手は鳴り止む事が無かった。
「上手くいったな」
「ああ、何とかなったな。今更ながらに足が震えてきたよ」
苦笑いするマークとキムの言葉に、周りの同僚の第四部隊の兵士達は大喜びで拍手をしたり彼らの背中や肩を叩いて笑っていた。
それから竜騎士達が飛び去るのを見送ってから、軍楽隊の音に合わせて再び行進して駐屯地まで戻った。
一の郭の一部の地域は今日は特別に一般にも開放されている。
兵士達の行進を見ようと集まってきた人達からの大歓声を受けて、行きとは違ってすっかり緊張の解れた二人も、胸を張って駐屯地へ戻って行ったのだった。
そしてこの後、マークとキムの二人は当然のように城の中庭で開催される夜会への参加をディアーノ少佐から命令され、二人揃って顔を覆って悲鳴をあげる事になるのだった。
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