様々な思惑と皇族側の意思

「えっと、じゃあその……舞いを楽しみにしてるね。どうか頑張って」

 あまり舞台裏ではゆっくり話しは出来ない。

 クラウディア達は執事の案内で一旦元の控室へ下がり、レイも竪琴を担当の執事に預けてティア妃殿下とアルス皇子と一緒にそのまま会場へ戻った。



 出て来た三人を見て、ルークとカウリが駆け寄って来て冷やかすようにレイの肩や背中を叩く。

 笑顔で言葉を交わす彼らを、何とも言えない顔で遠巻きに見る一団があった。

 今回のレイの舞台には、彼は気付いていないが実は皇族側のある強い意思表示が込められていたのだ。

 通常、竜騎士や竜騎士見習いと皇族の方々が共演するのは珍しい事ではない。しかし、そこに貴族以外の第三者が一緒に参加するというのは滅多にない。

 しかも、共演したのは女神の神殿の低い身分の巫女達で、そのうちの一人はレイが好意を隠していない相手だ。

 その二人との共演を認め同席したという事はつまり、レイとクラウディアの二人の恋を竜騎士隊だけでなく、ティア妃殿下をはじめとする皇族が認めて応援しているという事実を示した事に他ならない。

 そしてそれと同時に、いつまでも彼女の恋を認めるわけでも否定するわけでもなく、ダンマリを決め込んでいる神殿側への強烈なメッセージでもあったのだ。いい加減にそっちの立場を明確にしろ、と。



 しかし血統至上主義の貴族達は、表向きは暖かく見守っている風だが、内心では当然クラウディアの事を思い切り目障りだと思っている。

 また、神殿内部にコネや繋がりのある神殿寄りな立場の貴族の中には、正式な巫女である彼女をもしもレイルズが将来還俗させて結婚する事にでもなれば、タドラと同じく竜騎士が個人的に神殿との強い繋がりを持つ事になるのでこのままで良し、と考えている者も多い。

 皆、当然だが自分の立場や価値観でレイとクラウディアを見ていて、今後自分に有利になるように願っている。

 どちらの立場の人達も、レイルズ達自身の幸せや将来などは一切考えてもいないのは残念なところだろう。




「お疲れ様。見事な演奏だったよ」

 オリヴェル王子殿下やイクセル副隊長、それからマイリーにまで声を掛けられて、レイは照れたように笑って小さく頷いた。

「ありがとうございます。でも実を言うと、まさか彼女が出てくるなんて思ってもいなかったから、本当にびっくりしたんです」

「なんだお前。巫女達と共演出来ると知らなかったのか?」

 態とらしく驚くマイリーの言葉に、聞き耳を立てていた周りの人達がこっそり振り返る。

「はい、今回はティア妃殿下が彼女達にお声を掛けてくださったみたいですね。どうやら神殿でのおこもりの間に、担当だった巫女様達ととても仲良くなられていたみたいです」

「ああ、それは聞いてるよ。元々人見知りのあるお方なのに、神殿内では最初からかなり寛いで巫女達と話をされていたらしいからな」

「彼女と仲良くしてくださって僕も嬉しいです」

 無邪気なその言葉に、マイリーは内心で苦笑いしつつもレイのふわふわな赤毛をそっと突いた。

「今回は、夜会の最後に巫女達の歌と舞いが披露されるそうだからな。楽しみにしているといい」

「はい、ディーディーもそう言ってました」

「あ、一応彼女と話す時間ぐらいはあったんだ」

 聞いていたルークのからかうようなその言葉に、レイは唐突に耳まで真っ赤になったのだった。



 その後は、他の倶楽部の方々の演奏や歌、あるいは踊りを見ながら他の方々との会話も楽しみ、ゆっくりとお菓子をつまみつつ過ごした。

 今回は夜会の最後に竜騎士隊全員での演奏はあるが、それほど大規模なものではない。

 しかも歌はなく曲のみの演奏なので、レイも今回はそれほど気負わずに済んでいる。

 曲目は、精霊王に捧げる歌と、英雄行進曲の二曲の予定だ。

 しかし、また最後にアンコールがあるかもしれないので、もしもあるなら何を弾こうかと密かに必死になって考えているレイだった。

 ニコスのシルフ達は、そんな彼の周りで面白そうにその様子を見守っているのだった。

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