夜会での一幕

 離宮での勉強会から戻ったレイは、翌日から聞いていた予定通りにほぼ毎日のように夜会や懇親会に参加させられ、ひたすら愛想笑いとダンスの毎日を送ったのだった。



 今月は精霊魔法訓練所へ行けるのは数日程度だと聞かされていたので、それはもう諦めている。

 ルークに言われた通りにせっせと夜会に参加しては、何とか話題を見つけて無理のない範囲で会話も楽しんだり、時にはダンスだけではなく竪琴や歌の演奏を披露したりもした。



 他の竜騎士達と一緒に全員で参加した夜会では、例の血統至上主義のご婦人方と会って笑顔で挨拶をした際に、驚いた事に向こうからマークやキムの話題を振ってくれた。なので、レイは合成魔法がいかに難しく安定しないか、そんな中で彼らがオリヴェル王子の歓迎式典で見せた技がいかに優れていたかを嬉々として説明した。

 すると何故か他のご婦人方だけでなく多くの男性達が話を聞きに集まってきたおかげで、途中からラフカ夫人達はどこかへ行ってしまって見失ってしまったのだった。

 せっかく彼らの良いところを少しでも分かって欲しくて頑張って説明したのに、ラフカ夫人から感想を聞けなくて残念に思っていると背中を叩かれた。

「ご苦労さん、見事だったな」

 何故か笑顔のルークにそう言って褒められたが、レイには何の事だか何故かさっぱり分からなくて首を傾げる。

「いいよ、お前はそのままでいてくれ」

 笑ったルークにそう言われて、レイはもう一度首を傾げた。

「気にするなって。あ、ほら、行ってこいよ。新しいお菓子が出たみたいだぞ」

 ルークの言葉に目を輝かせて振り返ると、確かに奥のお菓子が置かれたテーブルに新しいお菓子が並べられているところだった。ルークが頷いてくれたのでレイは大喜びで見に行ったのだった。




「あらあら、そんなに食べて大丈夫ですか?」

「本当ね。お腹がはち切れたらどうしますの?」

 初めて食べる、ふわふわのケーキを嬉しそうに食べていると、からかうような声がして驚いて振り返る。

 そこにいたのは、ロベリオの婚約者のフェリシア様と、ユージンの婚約者のサスキア様のお二人だったのだ。

「フェリシア様。サスキア様。お久しぶりです。大丈夫です、甘いものは別腹なんです」

 当然のように空になったお皿を見せながら胸を張るレイの言葉に、二人が楽しそうに笑う。

「まあまあ、聞いていたけれど本当に甘いものがお好きなのね」

 小柄なサスキア様は、レイの正面に立つと完全に見上げないと顔が見えないほど背の高さに違いがある。

「それから貴方、もうユージンどころかヴィゴ様よりも大きいのではなくて?」

 真顔でそう言われて、レイは笑って首を振った。

「竜騎士隊の中では確かにマイリーよりも大きくなりましたね。でも残念ながら、まだヴィゴには届いていないんです。目標はヴィゴだから、正直なところもう少し伸びて欲しいんだけど、そろそろ成長が止まってきたみたいなんです」

 悔しそうなレイの様子にお二人が笑う。

「おやおや、それは大変だな。だけど、貴方はまだ十六でしょう? もう少しは伸びるのではなくて?」

 そう言ってレイの頭を撫でてくれる大柄なフェリシア様は、レイよりは小さいが一般のご婦人方に比べれば視線の位置はかなり高い。

 現に、手を伸ばしてレイの頭に触れるのだから、女性としてはかなりの高身長なのだろう。

「でも、ロッカはそろそろ僕のためのミスリルの鎧を作り始めてくれているって聞きましたよ」

「ああ、それはそうでしょうね。そろそろ用意しないと間に合わないだろうからね。それにしても成長期の青年の防具を作るのは大変そうだね」

 面白そうにそう言って笑うと、フェリシア様は笑ってレイに手を差し出した。

「ロベリオは今、爺様方のお相手で手を離せないんだって。退屈で死にそうなので一曲お相手をお願いしても?」

「それは大変ですね。もちろん喜んで」

 笑顔で手を取ったものの、そうするとサスキア様を置いて行ってしまう。

 慌てて振り返ると、丁度来てくれたカウリが彼女に手を差し出すところだった。

「一曲お相手願えますでしょうか?」

 笑顔で差し出されたカウリの腕を、サスキア様がにっこり笑って取る。

 ゆっくりと中央に出ていく二組を見て、あちこちから拍手が聞こえた。




「おやおや、思ったよりもお上手だ事」

 身長が近いせいでいつもよりも踊りやすいなあ、などとぼんやり考えていると、踊りながらフェリシア様が笑顔でレイを見ながらそんな事を言う。

「フェリシア様こそお上手です。実を言うと、僕は足を踏まないようにするのが精一杯なんです」

「あらそうなのかい? じゃあこういうのは知らない?」

 笑ってそう言うと、いきなり少し体を離してレイを振り回すように早い動きで二人一緒にくるくると回転し始めたのだ。

「ええ、ちょっと待ってください。目が回ります!」

 慌てて腕を伸ばしてフェリシア様の身体を引き寄せる。

「これはオルベラートではよく踊られている踊りでね。こんな風にしてクルクル回るのよ」

 慌てて捕まえようとしたが、軽く身体を捻ってレイの腕から逃れたフェリシア様は、またしても勢いをつけて回り始める。

 転ばないように慌てて足を運ばせながら、何とか踏ん張ろうとするが軽くいなされてまた回されてしまう。

 曲が終わった時には正直言って心の底から安堵していた。最後に気力で一礼したが、その時には本気で目が回っていた。

 そしてレイの隣では、彼以上に振り回されて完全に目を回したカウリが、一礼した後にその場に膝から崩れ落ちて周りの笑いを取っていたのだった。



「全く、二人して完全に遊ばれてたな。でも、俺達が手を離せない時に相手をしてくれてありがとうな」

「ごめんね、でもおかげで彼女の機嫌は直ったみたいだ。ありがとうね」

 ロベリオとユージンは、口では謝ってくれているが完全に面白がっている風だ。

 どうやら二人が年配の方々のお相手をしている事に拗ねた二人が、新人達をからかって遊んでいたらしい。

「踊るのは構いませんが、あの回転ダンスはご勘弁ください!」

 レイの叫びに、完全に面白がって見ていた周りの人達までが、揃って吹き出し大笑いになったのだった。


『主様は完全に遊ばれていたね』

『でも皆笑顔だったよ』

『じゃあ良いよね』

『良い良い』


 笑っているシルフ達の横では、ブルーのシルフとカウリの竜であるカルサイトの使いのシルフが並んで座り、まだクラクラする頭を振って、何とか復活しようと悪戦苦闘しているそれぞれの主を楽しそうに眺めていたのだった。

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