実技の訓練と正式な夕食
「ええ、すごいわ。ジャスミンは光の精霊魔法の実技であんなに苦労していたのに、こんなに簡単に出来るなんて」
クラウディアが嬉しそうにそう言ってレイと手を叩き合った。
少し離れて見ていたガンディも、感心したように頷いている。
そして、手を取り合って大喜びしていたジャスミンとマークは、不意に我に返って二人揃ってまた耳まで真っ赤になるのだった。
「凄いわ。ねえ、もう一度やってみても良いかしら」
真っ赤になった顔を軽く振って深呼吸をしたジャスミンが、目を輝かせてそう言ってマークを振り返る。
「もちろん。じゃあ今度は見ててあげるから一人でやってごらん」
何か言いかけたが真剣な顔で頷いたジャスミンは、今度は目を開いたままもう一度深呼吸をした。
「光の精霊。来てください」
その声に呼ばれて、先ほどの光の精霊がまた右の掌の上に座る。
それを見たジャスミンは、真剣な顔でゆっくりと左手を右手に添えた。
「ライト!」
そう呟いた瞬間、先ほどよりも更に大きく光った光の精霊は、嬉しそうにふわりと浮き上がってからまた右の手に座った。
「出来たわ!」
満面の笑みでマークを振り返る。
「じゃあもう出来るよ。今度はフラッシュをやってごらん。一気に強く光らせるだけだからね」
マークの言葉に真剣に頷き、右手で輝きを放つ光の精霊を見つめる。
「フラッシュよ、光って!」
やや声に力を込めてそういうと、次の瞬間、光が一気に強くなって庭を照らした。
竜達の影が後ろに流れるほどの強い光に、レイ達は慌てて顔の前に手をやりながら歓声を上げた。
「凄い凄い。完璧だよ」
レイの言葉に、見学していた全員が揃って拍手をしたのだった。
「じゃあ次は、少し難しいフラッシュの点滅だね」
マークの言葉にジャスミンも頷く。
フラッシュにはもう一つ、先程のように一瞬だけ強い光を放つのとは別に、一定間隔で光を点滅をさせる技がある。こちらの方が難しいので、これが出来るようになるにはある程度は訓練が必要なのだ。そしてこれが出来れば、光の精霊魔法を扱えるようになったと言っていい。
「じゃあ、また目を閉じてくれるかい。光の精霊はそのままでいいよ」
右掌には、まだ淡い光を放ったままの光の精霊が座っている。
「光っている光の精霊を自分に同調させるんだ。光を感じながらゆっくり息を吸って、吐く。もう一度、吸って、吐く」
ゆっくりと一定の間隔で言い続けるマークの声に合わせて目を閉じたジャスミンが、言われた通りに軽い深呼吸を繰り返す。
「良いよ。その調子だ」
嬉しそうなマークが、彼女の肩のあたりを軽く一定のリズムで叩き続ける。
それに合わせて呼吸をしているジャスミンだったが、その掌の上で座っている光の精霊が、次第に彼女の呼吸に合わせて光を強めたり弱めたりし始めたのだ。
それを見たマークが嬉しそうに笑う。
「うん、出来ているよ。呼吸はそのまま続けていいから、ゆっくり目を開いてごらん」
小さく頷いたジャスミンが目を開く。
ゆっくりと自分の掌の上で点滅している光の精霊を見て目を見開く。
しかし、呼吸が乱れたせいで点滅が止まってしまった。
「ああ、残念。だけど解っただろう? あんなふうにして、まずは呼吸に同調させて光の強弱をつける感覚を理解するんだ。そこまで出来ればあとは簡単だよ。もう、一度出来てるからあとは慣れだね。時間のある時に、ゆっくり練習すれば良いよ」
「ありがとうございます。すごいわ、あんなに苦労していたのに、こんなに簡単に出来るなんて」
満面の笑みで嬉しそうにそう言うジャスミンに、マークも笑顔で頷き、それから互いの顔を見てまた真っ赤になった。
「おうおう。若いのう」
面白がるようなガンディの呟きに、ターシャ夫人とロッシェ僧侶は、互いの顔を見合わせて小さく頷き合った。
そのままジャスミンに火と風の合成魔法を教え始めたマークを見て、満足そうに頷いたガンディも参加して教え始める。そこからは全員が参加しての合成魔法の訓練が始まった。
やはり一番上手なのはマークで、キムとレイがそれに続く。クラウディアとニーカはようやく合成魔法が安定して発動出来るようになったばかりで、それを再合成するところまではなかなか上手くいかなくて苦労していた。
ジャスミンは意外な事に、数回失敗しただけで火と風の合成魔法をやって見せ、それをマークが作った水と土の合成魔法と再合成する事に成功したのだった。
まだまだ安定性は低かったが、初めての合成魔法と再合成の成功に、すっかり大喜びではしゃぎ回っていたジャスミンだった。
実技の訓練は日が暮れるまで続けられ、最後はガンディが、レイが初めてここへ来た時にロベリオとユージンと一緒に習った光の精霊魔法の一つである写しの術をクラウディアとジャスミン、それからマークに教えて終了した。
「ただし、これは安易に使うような術ではない事を言うておく。決して悪用してはならんぞ。場合によっては処罰の対象となり得るのでな」
それぞれの手の中で転がっている小石が変化した小さな小瓶を見ながら大喜びしていた三人は、ガンディの厳しい言葉にその場に直立して、マークは敬礼を、クラウディアとジャスミンはその場に跪いて両手を握って額に当てて深々と頭を下げたのだった。
夕食までの時間は、また書斎にこもって過ごし、夕食の準備が出来たと執事が呼びに来るまで好きに本を読んだり構築式をノートに描き散らかしたりして過ごしたのだった。
そして案内された夕食は、ガンディを主賓とした正式な会食の席で、それを見たマークとキムが声なき悲鳴を上げて膝から崩れ落ちて執事を慌てさせていた。
「なんじゃ、面倒くさいのう。まあこれも勉強なら仕方あるまい」
改まった席に苦笑いして文句を言いつつも平然と主賓の席に座ったガンディは、完璧なマナーで夕食を食べ、戸惑うマークとキムに一生懸命シルフを飛ばして教えるレイと、同じく戸惑うクラウディアとニーカに教えるジャスミンを眺めては、ひとり楽しんでいたのだった。
ブルーのシルフをはじめとしたルチルとクロサイトの使いのシルフ達も、机に飾られた大きな燭台に座って、楽しそうに食事をする自分の愛しい主を見つめていたのだった。
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