シルフ達の三つ編み

 翌朝、いつものようにシルフ達に起こされたレイは、自分の頭を撫でて小さく笑った。

「よし、絨毯作戦は上手くいったみたいだ。これくらいの寝癖だったらすぐに戻るよ」

 クシャクシャになった髪をかき上げて、嬉しそうにそう呟いて大きな欠伸をした。

『おはよう。吸い込まれそうな大きな欠伸だな』

 笑ったブルーのシルフが右肩に現れて座り、頬にキスをくれる。

『ところでその三つ編み、なかなか可愛いではないか。無理に解かずそのままでも良いのではないか?』

 そう言ってレイの耳の前側部分、こめかみの辺りに作られたごく細い三つ編みを引っ張った。

 左右の同じ箇所に一本づつ編まれたそれは、見事に細かい三つ編みになっていて、かなりきつく編んである為に全く解ける様子が無い。

「そう? ちょっと見てくるね」

 そう言って起き上がると、大きく伸びをしてから立ち上がって洗面所へ向かった。



「あ、本当だね。えっと、三つ編みの下のところを色の綺麗なひもをもらってくくっておけば解けてこないよね」

 そう言いながら顔を洗い、手で髪を濡らしてくしゃくしゃになった部分を戻していく。

 今朝は簡単に綺麗に戻った髪を梳いていると、ノックの音が聞こえてラスティの声が聞こえた。

「おはようございます。朝練に行かれるのなら、そろそろ起きてください」

「はあい、もう起きてます」

 洗面所から元気に返事をすると、しばらくしてラスティが洗面所に顔を出した。

「おや、今日は悪戯されなかったんですか。絨毯身代わり作戦は上手くいったみたいですね」

 笑って手を叩き合い、後頭部の寝癖を見てもらって改めて鏡を見る。

「あ、そうだラスティ。えっと、これをくくれる様な紐か何かありませんか?」

 こめかみからぶら下がる細い三つ編みを引っ張りながら笑顔になる。

「シルフ達が編んでくれたんだよ。可愛いからこのままにしておこうかと思って。寝る時に解せばいいでしょう?」

 ふわふわのレイルズの髪からぶら下がるしっかり編まれた三つ編みは、まるで房飾りみたいで確かにとても可愛い。

 頷いたラスティは、少し考えて戸棚から色のついた細い紐が何色も入った木箱を取り出して持って来てくれた。

「タドラ様がいつも髪を括っておられる色紐です。何色になさいますか?」

 細いその紐は細やかな組み紐細工で出来ていて、二色の色糸が螺旋状になるように模様が浮き出ていてとても綺麗だ。

「えっと、どれがいいと思う?」

 ブルーのシルフと一緒にいるニコスのシルフ達に箱ごと見せる。


『これが良い』

『これが可愛い』

『明るくて良いと思うよ』


 ニコスのシルフ達が揃って指差したのは、明るい黄色と白の組み合わせの紐だ。


『ふむ、確かにレイの赤毛にその色は映えそうだ』


 ブルーのシルフもそう言ってくれたので、レイはその紐を手に取った。

「括って差し上げます、じっとしていてくださいね」

 手を差し出すラスティに、レイは笑顔で手にした黄色の組み紐を渡した。

「ちょっと失礼します」

 椅子に座ってもらって、ラスティは手早く三つ編みの尻尾の部分をしっかりと解けないように紐で括ってくれた。

「あ、可愛くなった」

 改めて鏡を覗き込み、振り返ったレイは嬉しそうに笑う。

「よく似合いですよ」

 ラスティも笑顔でそう言い、一緒に部屋へ戻った。



 ソファーでは、シルフ達がまだ新しい絨毯をせっせと編んで遊んでいる。

 顔を見合わせて笑い合い、急いで白服に着替えた。




「おおい、準備出来たら出て来いよ」

 ノックの音がして、ルークの声が聞こえる。レイは慌てて靴を履いてラスティと一緒に廊下へ出た。

「おはようございます!」

「おはよう。相変わらず元気だな」

 笑ってそう言い、後ろにいたタドラとカウリも挨拶をしてくれる。

「おはようさん、相変わらず元気だなあお前は」

「あれ、可愛いねその三つ編み。どうしたの?」

 タドラがすぐに気付いてレイの三つ編みを突っつく。

「毎朝シルフ達が悪戯して僕の髪をくしゃくしゃにされて困ってたから、毛足の長い絨毯を買ってそれなら遊んで良い事にしたんです。でも、シルフ達は僕の髪も大好きだって言ってくれるから、左右に一本ずつだけなら編んでも良いって言っておいたんです。そうしたら、今朝起きたらこんなに綺麗にしっかり編んでくれていたので、勿体無いからこのままにしておく事にしたんです。房飾りみたいで可愛いでしょう?」

「確かに、房飾りっぽいな。良いんじゃないか」

 笑ったカウリが手を伸ばして三つ編みを引っ張る。

「引っ張ったら駄目です!」

 口を尖らせてそう言い、三つ編みを取り返す。

「ええ、減るもんじゃなし、良いじゃないか」

「引っ張ると痛いから駄目です!」

「あ、そうなんだ、悪い悪い」

 胸を張ってそう言われて、思わず素直に謝るカウリだった。



 朝練にはマークもキムも来ていなくて、残念に思いつつもしっかり準備体操をしてから、いつもの棒で、三人に交代でしっかりと手合わせしてもらった。

 朝食も四人で一緒に行き、朝から山盛りの料理を取ってきたレイはしっかりお祈りをしてからご機嫌で食べ始めた。

「今日は叩きのめされなかったです!」

 嬉しそうにそう言い、燻製肉を口に放り込む。

「そうだね。だけどここへ来た時から考えたら、レイルズは本当に腕を上げたよね。僕はもうそろそろ勝てるのは限界かなって思ってるよ」

 苦笑いしたタドラの言葉に、レイは必死になって首を振った。

「全然、まだまだ敵いません!」

「俺からは一度、一本取ったよな」

 笑ったカウリを振り返る。

「でもあの時だけで、あれ以降は全然勝てません」

 悔しそうに口を尖らせるレイを見て、カウリとタドラは顔を見合わせて肩を竦めた。

「まあ、一応年上なんだからさ。ちょとは良い格好させてくれって」

「そんな事言ってたら、いつまでたっても勝てません」

 口を尖らせるだけで無く、眉まで寄せるレイを見て三人がまた笑う。

「だからお前、その顔はやめろって」

 カウリに額を突かれて後ろに大きく仰け反る。

「おお、さすがに体は柔らかいな」

 脇腹を横から突っつかれて、レイは悲鳴を上げて椅子から転がり落ちてカウリを慌てさせた。

 手を引かれて立ち上がった後、四人揃って顔を見合わせて同時に吹き出し大爆笑になった。



 ブルーのシルフとニコスのシルフ達は、机の端に並んで座って仲良くじゃれ合う彼らを笑顔で眺めていたのだった。

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