再現実験と今後の予定

「これは驚いた。我々は再合成された巨大な盾が再現出来ただけで満足したのに、彼らはもうその次の段階に進んでいるのだな」

 感心したような陛下の呟きに、ブルーは面白そうに喉を鳴らした。

「この二日間で、彼らの知識も技術も大いに上がっておるぞ。出来ればあと数日、このままここで勉強させてやりたいのだがな」

「許可しよう。レイルズはアルスの結婚式には出てもらわねばならんが、それまではここで好きなだけ研究するが良い」

「では、式の前日には我々竜騎士が勤める役目がありますので、それまでは好きにさせましょう。確かに、これは夜会よりもこちらを優先すべきだ」

 後ろでマイリーが苦笑いしながらそう言って、カウリと顔を見合わせて頷き合っていた。



 夢中になって話をしていた三人だったが、他にも人がいるのをほぼ同時に思い出し、慌てたように揃って直立した。

「し、失礼いたしました!」

 しかし、そんな彼らを見て陛下は満足そうに笑った。

「構わんよ、存分に研究するが良い。では其方もやってみるといい。残念だが私は見学役らしいのでな」

 目を輝かせて進み出たオリヴェル王子に向かって、陛下が悔しそうにそう言って下がる。

「では、私はレイルズがやった光と風の盾の合成魔法をやるよ」

 オリヴェル王子が嬉しそうにブルーに少し近づいて立ち止まる。

「じゃあ、俺はマーク軍曹がやった光と風の盾の合成魔法を」

 ルークがそう言い、オリヴェル王子から少し離れた位置に立った。

「では私は、キム軍曹がやった火と風の盾の合成魔法を担当しよう」

 マイリーがそう言ってルークから少し離れた位置に立つ。

「僕の役目は誰かしますか?」

 ブルーの尻尾の横で、クロサイトが顔を上げて離れて見ているカウリ達を見る。

「じゃあ俺がやっても良いですかね?」

 カウリが進み出てクロサイトの横に立った。

「風の盾の発動は、少しだけ緩めにね」

「そうなんですか。了解っす」

 クロサイトにそう言われて、真剣な顔でカウリが頷く。



 全員が定位置についたところで、イクセル副隊長とダスティン少佐がオリヴェル王子の少し前の左右に分かれて立ち、ガンディがオリヴェル王子のすぐ隣に立つ。

 万一何かあった際に、殿下を絶対にお守りするためだ。

 それを見たマークとキムが、一礼して陛下の前、左右に同じように分かれて立つ。レイもそれを見て陛下のすぐ隣に立った。



「では、各々やって見なさい」

 ブルーの声にオリヴェル王子をはじめ進み出た全員が、それぞれの精霊魔法の盾を発動する。

 全員の手に、見事に合成された盾が発動した。

 ブルーの手に、再び光の盾が発動する。

 深呼吸をしたカウリが、ゆっくりと風の盾を発動してブルーの持つ光の盾に飛ばす。それは消える事なくブルーの光の盾に綺麗に重なった。



「よし来い!」



 その声を合図にそれぞれの手から合成された盾が飛ぶ。

 全ての盾がブルーの手の中でゆっくりと重なり合う。

 物凄い光が満ちた後、ブルーの手には先ほどよりも少し小さな、それでも巨大な盾が光り輝いていた。

「おお、出来たぞ!」

 固唾を飲んで見守っていた陛下の口から呟きが漏れる。



「ふむ、やはり安定度は低いな」

 しかし、手にした盾を見たブルーはため息とともにそう言って陛下に輝く盾を向けた。

 頷いた陛下が、先ほどのように小石を拾って盾に向かって投げつける。

「あ、消えた!」

 オリヴェル王子の呟いた通り、小石は光の盾を貫通して地面に落ち、その瞬間に光の盾は消滅してしまった。

「ふむ、残念ながらこれは最初に発動した程度の安定性しか出なかったな」

「再合成された盾を発動する事は簡単に出来るが。安定性を上げるのが至難の業というわけか」

 腕組みをしたオリヴェル王子の言葉に、全員がため息と共に頷く。



 その後は、それぞれに思いつくままに様々な構築式を確認したり、また何度も手分けして再現実験を行った。

 しかし、結局何度やっても小石が跳ね返る程度までしか安定度を強化する事は出来なかった




「ふむ、やはり簡単な事ではないな」

 執事に持って来させた椅子に座って、様々な構築式を描き散らかしていた陛下の言葉に全員が悔しそうに頷く。

 確かに再合成された盾の発動自体は出来るようになったが、安定度があれ以上上がらないのだ。

「あの見かけは、確かにこけ脅しにはなるだろうが、小石を跳ね返す程度の強度しかないのでは残念だが実戦には使えん」

 マイリーの言葉にマーク達も悔しそうにしている。



 その時、午後の六点鐘を告げる鐘の音が聞こえてきた。



「有意義な時間だったが我々はそろそろ時間切れだな。残念だが戻るとしよう。ほらオリー、其方も戻るぞ」

 文句を言おうとしたオリヴェル王子を捕まえた陛下は、振り返って自分を見ているマークとキムに笑いかけた。

「其方達のこれからに大いに期待しておるぞ。もしも何か必要なものがあれば遠慮無く言いなさい。すぐに届けさせるからな」

 直立して揃って敬礼する二人に大きく頷き、そのまま執事が連れてきたラプトルに乗ってマイリー達と一緒に城へ戻って行ってしまった。

 離宮に残ったのは、レイ達三人以外はルークとガンディ、そしてダスティン少佐だ。




「ふむ、なかなかに興味深い現象だったな。これは後ほどゆっくりと検証するとしよう」

 ダスティン少佐の言葉に、マークとキムが頷くと同時にため息を吐いてその場に座り込んだ。

「はあ、緊張しました」

「大きな問題もなく再現実験をやり遂げられて、ほっとしましたよ」

 そんな二人を、レイは不思議そうに見ている。

「だってお前。陛下とオリヴェル王子殿下がご一緒におられる場所で、万一にも精霊魔法を暴走させるような事は、この国に仕える兵士として絶対にあってはならない事なんだって」

「ご本人がたとえ構わないと仰ったとしても、もしもお二人にそれが原因で怪我でもさせようものなら、俺達だけじゃなく竜騎士隊の皆様にだって咎めがいくかもしれないんだぞ」

 驚きに目を見開くレイに、ルークは苦笑いして座り込んでいる二人の肩を叩いた。

「ちゃんと自分の立場を理解してて結構。だけど一応ここへ来る前に、万一お二人がお怪我をなさっても君達を咎めない、とのお言葉は頂いているよ」

「いや、ですからご本人がそう仰ったとしてもですね……」

 それでも困ったようにルークを見るキムに、ルークは笑って手を貸して立たせた。

「まあ、ラピスがいてくれる以上、万一にもそんな事態にはならないだろうと俺は思ってるけどね」

 マークも立たせて、からかうようにそう言ってブルーを見上げる。

「当然だ。あの程度の合成魔法如き、何があろうとも我が一瞬で消してやるさ」

 当然のようにそう言ったブルーを、ルークは見上げて肩を竦めた。

「頼りにしていますよ」

「ねえルーク、僕達ももう帰るの?」

 その時、後ろからレイの声が聞こえてルークは振り返った。マークとキムもレイと並んで自分を見つめている。

「ああ、まだ言ってなかったな。陛下から直々の許可を貰ったから、お前達三人は殿下の式の前日まで、ここでこのまま泊まり込みで勉強会を続けてくれて良いよ。俺達やガンディも交代で顔を出すからな」

 目を見開いてその言葉を聞いていた三人は、揃って歓声を上げて手を叩き合って大喜びしていた。

 彼らの周りでは、勝手に集まってきたシルフ達が同じように手を叩き合って大はしゃぎしている。



 ブルーは、肩を抱き合って大喜びする彼らとシルフ達を見て、満足そうに低く喉を鳴らしていたのだった。

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