特別勉強会と再現実験

「成る程なあ。初めて論文を読ませてもらった時は、正直言って机上の空論だと思っていたが、これは素晴らしい。ここまで構築式や魔法陣が展開出来ているのなら、もう他の兵士達にも出来るのではないか?」

 腕を組んだ陛下の言葉に、キムは先ほどから赤くなったり青くなったり顔色がコロコロ変わっていた。

「あの……」

 何とか意を決して口を開こうとした彼を見て、陛下は大きく頷いた。

「なんだ、構わんから言いなさい」

「その件ですが、後日改めて報告させていただくつもりでした。第四部隊の実働兵でも、恐らくこれが出来る兵士はかなり限られると思います」

 やや言いにくそうなキムの言葉に、陛下が目を瞬く。

「あの、この精霊魔法の合成に関しては、蒼竜様とお話をさせていただいて判りましたが、まず第一に最低でも二つ以上の上位の精霊魔法への適性がある事、そして、本人が持つ適性がかなり重要なんです。精霊魔法を使いこなすのが上手い兵士であっても、そもそも合成魔法が出来るとは限りません」

「そうか、重要なのは本人の持つ適正か」

 陛下だけでなく、その場にいた全員が大きく頷く。

 確かに精霊魔法を学び使いこなす事において、本人が持つ生まれ持った適性は大きい。

 高い適正があれば、人間であってもマークのように光の精霊魔法を使いこなす事が出来る者もいる。しかし適性があって精霊が見えても、マティルダ様やティア姫様のように精霊魔法は使えない人も多くいるのだ。第四部隊の後方支援の者達は、精霊は見えても実際に精霊魔法が使えない者なのだ。

 しかもこれらは持って生まれた部分なので、本人の努力や技術でどうにかなるものでは無い。

「もちろん、理論として知ってもらう事にも大きな意味はあります。考える頭は多い方がいい。ですので、基礎の考え方や構築式の展開部分に関しては、第四部隊の兵士達だけでなく、精霊魔法訓練所とある年齢以上の精霊特殊学院の生徒達にも教えていくつもりです。その後、本人の適性を見極めた上で実技に移れる兵士と生徒を選抜する予定です」



 これは、ここへ来る前にディアーノ少佐から言われた今後の彼らの役割について、この二日間、三人とブルーのシルフも加えて何度も相談して決めた事だ。

 他の兵士達に基礎を理解してもらうのは、この合成魔法を理解して実践してもらうための最初の一歩になる。

 しかしまだ、この合成魔法に関してマークやキム自身も完全に理解して使いこなしているわけではない。

 だが、命令された以上やらないわけにはいかない。

 それでレイやブルーのシルフも一緒に考えて、まずは全員に基礎の講義をする事にしたのだ。その中で順番に実技に移り、出来る出来ないの線引きはある程度した方が良いと言うことで意見の一致を見たのだ。

「成る程、では講義を受けさせる順番もある程度は考えるべきだな」

 一番後ろの席で黙って聞いていたダスティン少佐は、腕組みをしながら頭の中で、早速最初に講義を受けさせるべき人の選抜を始めていた。




「では、庭に出て実際にやってみるとしよう」

 目を輝かせた陛下の言葉に、全員揃って慌てる。

「お待ちください陛下。直接話を聞くのは構いませんが、実際の実技は他の者にやらせると申し上げたはずです」

 やや拗ねたようにマイリーを振り返った陛下だったが、真顔のマイリーに黙って首を振られて眉を寄せた。

「アルスから聞いて、合成魔法の練習をしたのだぞ」

「それであっても危険です。なりません」

 真顔のマイリーにそう言われて、陛下は大きなため息を吐いた。

「ああ、分かったよ。では私は後ろで見学していよう。オリーはやる気満々のようだがな」

 言外に「彼だけ狡い」という声が聞こえたが、マイリーは気づかなかった振りをして立ち上がった。

「では、まずは我々が実践します」

 マークとキム、レイルズの三人が名乗り出て、全員揃って庭に出て行った。

 庭で待っていたブルーとクロサイトが、出て来た一同を見て顔を上げる。



「うわあ、何だかすごい顔ぶれだね」

「そうだな。おそらく今この国でこれ以上の精霊使い達はいないであろうな。どうする、実際にやってみるのか?」

 ブルーの言葉に、走って来たレイが大きく頷いた。

「昨日僕達がやった再現実験をもう一度やってみようよ」

「そうだな。ではやってみるとしようか」

 ゆっくりと起き上がり座り直す。クロサイトもブルーの隣で小さな体を起こして座り直した。



「では、お願いします」

 マークとキムも進み出てブルーのすぐ側に来て並んだ。

「僕は、光と風の盾を合成します」

 レイルズがそう言って右手に光の盾と風の盾を易々と合成させた。

「俺も、光と風の盾を合成します」

 マークがそう言い、レイルズと同じくらいの光と風の盾を合成する。

「私は火と風の盾を合成します」

 キムがそう言い、火と風の盾を合成して見せた。

「我は光の盾を」

 ブルーがそう行って、自分の右手に光の盾を作り出した。

「僕は風の盾を飛ばすね」

 クロサイトがそう言い、自分のすぐ目の前に風の盾を作り、ブルーの光の盾に飛ばして重ねた。

 ブルーが持つ光の盾は消える事なくクロサイトの風の盾に重なった。



「よし来い!」



 ブルーの大声に、返事をした三人の手から同時にそれぞれの合成された盾が飛んでいく。

 全員が固唾を飲んでそれを見つめている。



 受け止めたブルーの手の中で、ゆっくりとそれぞれの三つの合成魔法が重なっていく。

 全ての盾が重なった瞬間、ものすごい光が輝き一瞬で消える。

 しかし、ブルーの手の中で重なった盾は消える事なく巨大な盾に姿を変えて輝いていた。

「おお……」

「これはすごい」

 無意識のような呟きがあちこちからもれる。


「ふむ、前回よりはマシだが、まだ安定しているというには程遠いな」

「ええ、上手くいったと思ったけどやっぱり駄目?」

 口を尖らせるレイの言葉に喉の奥で笑ったブルーは、まだ消える事なく輝いている巨大な盾をレイに向けた。

「では、石を投げてみなさい」

 レイがしゃがんで石を拾うと、目を輝かせている陛下と目が合った。

「ではどうぞ。投げてみてください」

 その目を見れば、レイルズでも言いたい事が分かって、拾った石を陛下に渡す。

 嬉々として石を受け取る陛下を見て、後ろでオリヴェル王子が吹き出す音が聞こえてレイも吹き出しそうになるのを必死で堪えた。

「では、失礼して投げさせてもらおう」

 嬉しそうな陛下の言葉に、ブルーが頷き彼に盾を向ける。

 投げられた小石は盾に当たり跳ね返ったが、その瞬間に巨大な光の盾は消えてしまった。

「ああ、消えてしまったぞ」

 驚く陛下だったが、レイ達の反応は違っていた。

「あ、跳ね返ったね」

「本当だ。前回は当たった瞬間に消滅したから、そのまま通り抜けたんだったよな」

「って事は、安定度は増してるんだ。じゃあ、後はどこをいじるべきだ?」

 巨大な光の盾を簡単に再現して見せた三人に驚きに言葉もない一同を置いて、当の三人は顔を突き合わせて真剣に今の再現方法について話を始めていた。

 そんな彼らを、ブルーは満足そうに喉を鳴らして見つめていたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る