二日目の朝の大騒ぎ
翌朝、いつもの時間に三人を起こそうとしたシルフ達だったが、すっかり熟睡している三人は全く起きる気配が無かった。
『おはようおはよう」
『起きてくださ〜い』
『時間ですよ!』
『おはようおはよう』
何度声を掛けても、力一杯前髪を引っ張っても全く反応の無い三人を見たシルフ達は、顔を見合わせてコロコロと笑い合った。
『眠いの眠いの』
『朝だけどお休みなの』
『お休みなの〜!』
楽しそうにそう言うと、三人の胸元や前髪の隙間に潜り込んで一緒に眠る振りをして遊び始めた。また別のシルフ達は、揃って楽しそうにふわふわなレイの赤毛を引っ張って絡ませて遊び始めた。
「うう……」
寝返りを打ったキムが、眉間にシワを寄せて唸り声を上げる。
胸元にいたシルフ達が慌てたようにふわりと浮き上がって逃げて、そのまま枕にしがみついて眠ってしまったキムの胸元にまたいそいそと潜り込んだ。
しばらくして目を覚まして横になったまま大きな欠伸をしたレイは、何度か瞬きをしてからゆっくりと起き上がった、
「おはようシルフ、鐘は幾つ鳴ってた?」
『九回鳴ってたよ』
「そっか、じゃあもう起きないとね」
笑ったレイは、自分の両横で熟睡している二人を見た。二人とも枕にしがみつくようにしてうつ伏せで熟睡している。
マークの額に張ったままになっている湿布は、端っこの部分が少しめくれて剥がれそうになっている。
「起きてくださいよ〜」
笑って二人を突っつくが、全く起きる気配が無い。
ため息を吐いたレイは、マークの脇腹に手を伸ばすといきなりくすぐり始めた。
「起きろ〜!」
「うわあ! 何だ何だ?」
その瞬間、部屋に鈍い音が響き、面白そうに見ていたシルフ達が揃って顔を覆った。
いきなり起き上がったマークの後頭部にレイは見事に吹っ飛ばされて、熟睡しているキムの上に倒れ込んだ。
「うわあ! 何だ何だ?」
さっきのマークと全く同じ声を上げて飛び起きたキムだったが、彼の上に倒れ込んだレイの重みでもう一度潰れたような悲鳴を上げた。
「おい、この赤毛はレイルズだな。重いって、潰れるよ」
額を押さえて無言で悶絶しているレイは、その声に唸り声で答えて横に転がった。
大きく深呼吸をしてから手をついて起き上がったキムが見たのは、額を押さえて転がるレイルズと、後頭部を押さえて枕に突っ伏しているマークだった。
「シルフ……何があったか聞いて良い?」
『主様が最初に起きたの』
『彼を起こそうとしたの』
『だけど起き上がった彼に』
『見事に頭突きされたんだよ』
『痛い痛い』
『痛い痛い』
『石頭対石頭の対決〜!』
それを聞いたキムは堪える間も無く吹き出し、まだ額と後頭部を押さえて悶絶していた二人は見事に揃った呻き声で抗議したのだった。
「貴方達は、頭突きが趣味なんですか?」
レイの額に湿布を貼りながら、ハン先生は先ほどからずっと笑っている。
ぶつけたマークの左後頭部はやや腫れていたので、ハン先生の指示で冷やした布で患部を冷やしていて、キムが呼んだウィンディーネ達が、先ほどから彼の指示で氷を作って布の上からずっと冷やしてくれている。
「だって、いきなりマークが飛び起きたんだもの」
湿布の貼られた額を押さえてレイが笑いながらそう言うと、横になったままのマークは唸り声で抗議した。
『全く、お前達は朝から何をしておる』
レイに肩にブルーのシルフが現れて、呆れたようにそう言って笑っている。
「あ、おはようブルー。ええ、今朝の僕は被害者だよ」
『自業自得って言葉を知っているか?』
大真面目なブルーのシルフの言葉に、三人は揃って吹き出したのだった。
「何だよ。今度はレイルズが湿布してるぞ」
すっかり身支度を整えてレイの部屋にやって来たルークは、レイの額に貼られた湿布を見て笑っている。
「何があったんだ?」
唯一無事なキムにそう話しかけ、彼から聞いた朝の一幕の話にルークも堪らずに吹き出してしまい、全員揃って声を上げて笑った。
「ほら、その豪快な寝癖を早く直してこいよ」
まだ笑っているレイの額を突っついて、ルークが洗面所を指差す。
「はあい、行って来ます」
三人が慌てたように洗面所へ駆け込むのを見て、また笑ったルークは床に転がっていた枕をベッドに戻した。
「でもまあ、楽しそうで何よりだよ」
「そうですね。こんな馬鹿は今しか出来ませんよ」
治療に使った道具を片付けながら、ハン先生も笑っている。
「ええ、別に幾つになっても俺は遊べますよ」
笑ったルークの抗議に、ハン先生はため息を吐いた。
「まあ、あなた達にはヴィゴとマイリーって先輩がいますからね」
その言葉に、またルークが笑う。
「足の怪我の時、二人で楽しそうに戯れ合ってたものなあ。あれは意外だったけど本当に楽しそうだった」
「そんな事もありましたね。でもまあ彼らも色々とありましたからねえ」
何やら含みのある言い方に、洗面所の方を見ていたルークが不思議そうにハン先生を振り返る。
「何かあるんですか?」
「まあ私の口からは言いませんよ。ヴィゴが竜騎士になってすぐの頃、本部で皆で飲んでいた時に、振り返った拍子に思いっきり頭をぶつけたヴィゴとマイリーが息をしていないって大騒ぎになって、酔っ払っていた全員が、誰が人工呼吸をするかで散々盛り上がって、私がマイリーの担当になったなんてね。それで、いざやろうとした瞬間に彼が目を開いて、そのままゼロ距離で無言で見つめ合った事があるなんて言いませんよ」
それを聞いたルークは、思いっきり吹き出して膝から崩れ落ちた。
「ちょっと待って! 今の話詳しく聞かせてください!」
部屋に響いたレイの大声にルークはまた思い切り吹き出し、しゃがみ込んで大笑いしているハン先生とすがるように互いの肩に手をやって、笑い転げていたのだった。
同じく洗面所から出て来て今の話を聞いてしまったマークとキムは、彼らに背中を向けて必死になって笑いを堪えていたのだった。
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