再現実験と石頭攻撃

「えっと、砂の盾を作ってもらえる?」

 手の上に座って自分を見ていたノームに、レイはまず二人と同じ事をお願いした。

 ノームは嬉しそうに頷くと、手を突き出してその手から吹き出した砂を使って、あっという間に大きな盾を作り出してくれた。

「うわあ、デカい」

 直径1メルト近くあるその大きな砂の盾は、渡されたレイの左手で綺麗な形を保っている。

 ノームが消えるのを見送ったレイは、小さく深呼吸をして開いた右の手を差し出して口を開いた。

「水の精霊の姫、来てください」

 呼ばれた大きなウィンディーネが現れてレイの手に座る。


『何?』


「えっと姫、この砂の盾に水の盾を合成出来ますか?」

 その言葉に、マークとキムが目を見開いて頷く。

「あ、そっか!」

「蒼竜様がやった方法だな」

 小さく呟いた二人は、また真剣な顔でレイの手元を見つめている。


『重ねればいいんだね』


 レイの言葉に頷いたウィンディーネは、手を伸ばして砂の盾に触れると、ブルーがしたように一瞬で砂の盾を丸ごと水で包み込んでしまった。

 しかし、砂の盾は崩壊する事なく見事に形を保っている。

「ありがとうね。姫」

 笑顔でお礼を言うと、ウィンディーネは笑って手を振りそのままレイの指輪の中に入ってしまった。

「あ、入ってくれるんだね。ありがとう姫」

 指輪に入ってくれた水の精霊は初めてだ。

 嬉しくなってもう一度お礼を言い、手にした土と水の合成魔法で作り出した盾を見つめる。

「強度はどうかな?」

 指で叩いて見ても、壊れる様子はない。もう少し力を入れて叩いた後、マーク達を振り返った。

「ねえ、これに石を投げてみてよ」

「お、おう。了解だ」

 左手の盾を差し出して嬉しそうにそう言うレイを見て、返事をしたマークは足元から小さな小石を拾った。

「じゃあ投げるぞ」

 間違っても彼に当てないように、下から弧を描くようにして軽く投げる。

 羽根打ちのポームのように、その投げられた小石に向かってレイが盾を突き出す。

 硬い音がして、見事に盾に当たった石が跳ね返った。だが、手にした砂と水の盾はびくともしない。

「じゃあ今度はそれで斬りつけてみてよ」

 腰の剣を指差すレイの言葉に、さすがに二人が慌てる。

「いやいや、それはいくら何でも危ないって!」

 二人揃って顔の前で手を振って、必死になって首も振る。

 二人の装備している剣は、以前竜騎士隊の皆から贈られた金剛石の嵌ったミスリルの中剣で、形は一般的な鋼の剣とそれほど変わらないが、切れ味は桁違いだ。

「ええ、大丈夫なのに。それじゃあ鞘ごとでいいからさ」

「まあ、それなら……」

 顔を見合わせて無言の譲り合いの後、諦めたマークが腰の剣を鞘ごと取り外した。

「言っておくけど、俺の剣の腕前はレイルズには遠く及ばないからな。そこは加減してくれよ」

 満面の笑みで頷くレイに小さく笑って正面で構えたマークは、まずは軽くレイの盾と鞘ごとの剣先を打ち合わせた。

「おお、金属の盾より革の盾の感覚に近いな。硬いんだけど、柔らかく押し返す感じがする」

 軽く当てて問題ない事を確認した二人は、鞘付きの剣と土と水の合成魔法で作った盾で嬉々として撃ち合いを始めた。

 とは言え、レイはマークが打ち込んでくるのを受けるだけだ。

「だけど、盾にだって戦い方はあるんだよ!」

 しばらく受ける一方だったレイが突然そう叫んで、一気に前に進み出たのだ。そのまま剣を構えるマークに突撃する。

 これは主に重装歩兵が行う攻撃の一つで、構えた盾をそのまま相手に叩きつけるものだ。



「うわあ。だから俺の腕前は〜!」

「あ、これは死んだな」

 マークは叫びながらあっけなく吹っ飛ばされて地面に転がる。それを見たキムは呆れたように呟いた。

「……って言ったのに」

 最後にそう呟いたマークの顔の前に、今更ながら光の盾が一瞬だけ現れてすぐに消える。

 それを見て、堪え切れずに吹き出すキムの音が庭に響いた。



「ご、ごめんね! 大丈夫!」

 慌てたレイが、地面に転がったまま起き上がって来ないマークに駆け寄る。しかし左手に持ったまま消える事もなくある土と水の盾を見て、ため息を吐いた。

「えっとブルー。これ、ちょっと持っててくれる」

 顔を伸ばしてマークの上から覗き込んでいたブルーの顔に、レイは持っていた盾を押し付ける。

 喉の奥で笑ったブルーの鼻先に、ウィンディーネが現れて合成魔法の盾を受け取ってくれた。

「ごめんねマーク。まさかそこまで吹っ飛ぶとは思わなかったんだよ」

 上から覗き込むようにして謝るレイに、転がったまま見上げたマークは必死になって笑いを堪えて死んだふりをした。

「ねえ、マークってば!」

 閉じたままの目蓋が、時折ひくひく動いているのに気が付き、レイは笑ってマークの脇腹を擽った。

「起きろ〜!」

「うわあ、それはやめてくれって!」

 腹筋だけで勢いよく起き上がったマークの額とレイの額が、朝の光景を再現するかのように大きな音を立てて当たった。



「あ、これは二人とも死んだな」



 堪えきれずに吹き出したキムの言葉に、地面に転がって揃って悶絶している二人が呻き声で仲良く抗議の声を上げ、三人同時に吹き出して大爆笑になったのだった。




「何をしているんですか。貴方達は」

 その時、呆れたような声が聞こえて地面に転がって額を押さえたまま笑っていたレイとマークは慌てて顔を上げ、立ち上がろうとして揃って呻き声と共にまた仲良く地面に転がった。

 そこには、ラプトルに乗ったまま呆れたように自分達を見下ろしているハン先生とルークの姿があったのだ。

「うわあ、石頭攻撃直後に駆けつけて来てくださるなんて、さすがだな」

 キムの呟きに、状況を理解したルークが堪えきれずに吹き出し、笑ったハン先生もラプトルから降りてマークの顔を覗き込んだ。

 彼は今朝もレイの石頭攻撃を受けている。

「それで、今度はどこをぶつけたんですか?」

 マークの顔を覗き込みながら質問する。

「今度はこっち側をやられました」

 今朝被害を受けて湿布を当てている額の左側ではなく、同じ額でも右の生え際に近い箇所を指差す。

「ちゃんと怪我した箇所は避けているなんて、素晴らしい気遣いだな」

 キムの呟きに、今度は全員揃って吹き出してその場はまたしても大爆笑になったのだった。



 鼻先に砂と水の盾を持ったウィンディーネを乗せたまま、ブルーは横で同じく笑って見ているクロサイトと一緒になって、目を細めて面白そうにずっと笑っていたのだった。

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