再現実験の再開

「では始めるとしようか」

 ブルーの声に、三人も真剣な顔で頷く。

「レイは風と光の盾の合成を、其方も同じく光と風の盾を、そっちは火と風の盾だ。良いな」

 ブルーの指示に三人が頷いて深呼吸をしてから、それぞれの合成術を発動させた。

 それを見たブルーは頷いて小さな光の盾を作り出した。クロサイトがそっとその横に風の盾を飛ばして重ねる。



「よし来い!」



 ブルーの合図で、三人の手からそれぞれの合成された盾が飛んでくる。



 受け止めたブルーの左手で三つの合成魔法がゆっくりと重なっていく。

 無言で三人が見つめる中をブルー右手で持っていた光と風の合成された盾を重ねた。

 物凄い光が輝き、次の瞬間ブルーの手の中で重ねられた盾は一つの巨大な輝く盾に姿を変えていた。

「やった!」

 拳を握ったレイの呟きに、しかしブルーは首を傾げている。

「ふむ、成功かと言われると微妙だな。これではまだまだ完全な状態には程遠い」

「ええ、どうしてだよ。完全に再現できていると思うけどなあ」

 口を尖らせるレイの言葉に、ブルーは優しく笑って首を振った。

「ではそこにある石を、この光の盾に向かって投げてみると良い」

 ブルーの手の中で輝く巨大な光の盾に向かって、レイは言われた通りに砂利を一つ拾い、軽くブルーに向かって投げつけた。



「ああ、消えた!」



 見ていたマークとキムの悲鳴のような声が庭に響く。

 レイの投げた小石が当たっただけで、巨大な光の盾は呆気なく消えてしまったのだ。

「ええ、どう言う事? 石が当たっただけで消えちゃったよ!」

 レイの悲鳴のような声に、ブルーは大きなため息を吐いた。

「だから不完全だと言ったのだ。石が当たっただけで消えてしまったであろう。まだ術の安定度は限りなくゼロに近い。しかし、これで再現方法は分かったな」

 ブルーの説明に満面の笑みのレイが頷き、マークとキムも揃って大きく頷く。

「確かにその通りですね。今回の再現実験で、属性の異なる術を合成する事により、術が発動する際の構築式そのものが変化する事。そして変化した構築式により発動した合成術は、再合成が可能であることも証明されました。これは今回の勉強会最大の収穫とも言える事実です。どうしますか? もう一度やってみますか?」

 興奮したマークが、早口でブルーに向かって話しかける。

「落ち着きなさい。ではまずは其方達三人には再合成したそれぞれの術の構築式の確認をしてもらいたい。今回使った、火と風、そして火と風と光、それが終われば水と土もだ」

 何度も頷いた三人は、実験はここまでにしてもう一度書斎へ戻る事にした。



「あ、そうだ!」

 しかし、離宮へ入りかけた時に、マークがいきなりそう叫んで庭に走って戻って行ったのだ。

「あれ、どうしたの? 何か忘れ物でもした?」

 執事が開いてくれた扉に入りかけたレイが、マークが走って戻って行ったのに気付いて驚いて振り返る。キムも立ち止まって不思議そうに振り返った。

「あの、蒼竜様にお尋ねしたい事があります!」

 ブルーの前で直立するマークを見て、レイとキムも大急ぎで走って戻って来る。

「ふむ、シルフを通じてでは無く、今ここでか?」

 話をするだけなら書斎でも出来るのに、わざわざ戻って来たという事は、何か実技に関する事なのだろう。レイとキムも、後ろで興味津々でマークを見ている。

「あの、蒼竜様が皆を離宮に避難させて行われた実験ですが、どうしても教えていただきたい事があって戻って参りました!」

「ふむ。我に分かる事であれば教えてやる故、言ってみなさい」

 優しいブルーの言葉に、レイは笑顔になる。

 蒼の森にいた頃は、人間への不信感を隠さなかったブルーが、人間である竜騎士隊の皆やマークやキムを気に入ってくれ、自分が持つ知識を与える事を躊躇う事なく当然のように考えてくれている。

 もうそれだけで、レイの胸はいっぱいになっていた。




「あの、水と土の盾を合成なさった際、ノームを掌に乗せたまま持ち上げられました。普通は地面から離した瞬間にノームは消えてしまう筈です。一体どうやってノームを持ち上げられたのですか?」

 マークの言葉を聞いた瞬間、目を見張ったキムも大慌ててマークの隣に並んだ。

「あの、俺も同じ事を思っておりました! よろしければご教示頂けませんでしょうか!」

「僕もお願いします!」

 慌ててレイもそう叫んでマークの隣に並ぶ。

 真剣な顔で直立する三人を見て、ゆっくりと低い声でブルーが笑う。

「成る程。そうか、人の子はそんな事も忘れてしまったのだな」

 静かなため息と共に言われた言葉を三人が理解するのにしばらくかかった。



 沈黙がその場を支配する。



「あの、それはどう言う意味でしょうか?」

「あの、忘れたとは如何なる意味なのでしょうか?」

「ええ、それってどう言う意味だよ。勿体ぶらずに教えてよブルー」

 三人が同時に口を開き、顔を見合わせて同時に吹き出した。

「珍しく全員同じ意味の事を言ったのにシンクロしなかったな」

 キムが腕を組んでそう言い、レイとマークはもう一度仲良く同時に吹き出した。

「だけど、レイルズの言った言葉が、俺達全員の今の気持ちを見事に全部代弁してくれていたな」

 しみじみと言ったキムの言葉に全員揃って笑い出し、そのまましばらく笑いは止まらなかった。

 最後にはしゃがみ込んで涙を拭きながら大笑いしている三人を、ブルーとクロサイトは楽しそうに上からのんびりと眺めていたのだった。

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