特別研究会の終了とそれぞれの時間

「よし、じゃあまずはこれでやってみよう」

 班分けが終わり、マイリーの言葉に全員が目を輝かせて頷いた。

 相談の結果、三つに班分けされる事となった。

 最初の第一班はレイとマイリーとヴィゴ、タドラの四人。

 次の第二班はアルス皇子とルーク、カウリとマークの四人。

 そして第三班がオリヴェル王子とイクセル副隊長、ロベリオとユージン、そしてキムの五人だ。

 精霊魔法を使えないハン先生は、もう大丈夫だと見ていったん本部へ戻り、念のため残ったガンディは、今回は参加はせずに見学する事にした。

 万一、誰かの精霊魔法が暴走して怪我をした際に備える意味もある。

 本当ならキムはレイかマークと一緒の班になりたかったのだが、目を輝かせたオリヴェル王子に、合成魔法の詳しい話を聞きたいと腕を掴まれてしまい断り切れなかったのだ。

 その為キムは、オリヴェル王子に精霊魔法の合成術を一から実技で指導すると言う、ある意味とんでもない重責を担うことになってしまった。




 まずは班に分かれて、それぞれ二つの精霊魔法の合成を行う。

 オリヴェル王子は初めての事に最初は戸惑っていたのだが、キムから詳しい説明を聞きとにかくまずは実践あるのみ、との言葉に頷き真剣に取り組んだ。

 その結果、キムが驚くほど早く合成魔法の感覚を掴み、一刻ほどの訓練で光と風の精霊魔法を合成に成功したのだった。

 イクセル副隊長も、最初は戸惑っていたが最後には火と風の合成魔法を成功させた。

 竜騎士達は、以前マークやキムから精霊魔法の合成魔法を見せてもらって以来、それぞれが得意な精霊魔法を中心にして合成魔法の練習を行なっていたので、それほど苦労せずに合成魔法を成功させた。



 次にやったのが、マークとキムが歓迎式典で行った合成魔法を投げ合う方法だ。

 光と風、土と水、火と風のうち、それぞれに得意な精霊魔法と相性の良い精霊魔法を合成して、二人づつ向き合って出来上がった炎や水球、光の球を投げ合ったのだ。

 手を離れても消えない光の球を見て、オリヴェル王子は目を輝かせて大喜びしていた。

 キムは最初のうちこそ緊張して時に言葉が詰まるほどだったが、あまりにも人懐っこくオリヴェル王子が話しかけてくるので次第に打ち解け、オリヴェル王子とコンビを組んで合成魔法の投げ合いをしたほどだった。

 しかし、ここまでやった時点で残念ながら両王子は時間切れになってしまった。

 次の予定はどうしても行かなければならないとアルス皇子とマイリーに諭され、納得はしたものの最後までオリヴェル王子は残念がっていた。

 後日改めて時間を取るとの約束を取り付けて安心したオリヴェル王子は、竜騎士達の皆と一緒に離宮を引き上げて行った。

 ガンディもまだいくつか仕事が残っているらしく、名残惜しそうにしながら白の塔に戻って行った。





「いやあ、突然の大嵐だったな」

「全くだ。まさかオリヴェル王子殿下やイクセル副隊長。それにアルス殿下を始めとした竜騎士隊の皆様と一緒に合成魔法の練習をする日がこようとはな」

 全員がラプトルに乗って帰っていくのを見送った後、マークの呟きにキムも腕組みをしながらしみじみと頷いて呟く。

「それにしても、オリヴェル王子殿下にずいぶんと気に入られていたじゃないか」

「確かにな。だけど、人と話をして今日ほど緊張した事は無いよ。俺、何か失礼や無礼をしなかったかな?」

 急に不安そうにそう呟いて考えだすキムを見て、レイは小さく笑った。

「大丈夫だよ、心配無いって。シルフ達もそう言ってるって」

 ニコスのシルフは、先ほどからキムを見てずっと笑っている。

 彼女達にすれば、あれほどに大喜びで無理を言ってまでここに来て、直接彼から話を聞きたがっていたオリヴェル王子がその程度の事を気にするわけはないと分かっている。

 それなのに今更、何か失礼があったんじゃないかと心配しているキムがおかしかったのだ。

「優しいお方で良かったね。それよりどうする? もう言ってる間に日が暮れるけど、まだ練習する?」

 結局元の三人だけに戻ったので、出来ればもう一度、巨大な光の盾である再合成された合成魔法を再現してみたかったのだ。今ならば役者は揃っている。

 しかし、黙って見ていたブルーが、三人の側まで首を伸ばして来てレイを止めた。

「もう今日はやめておけ。かなりの精霊魔法を使ったであろう。人の子には休息が必要だ」

 しかし、レイはブルーを見上げて口を尖らせた。

「ええ、だってせっかくクロサイトが来てくれているのに」

 明日、合成魔法の再合成を再現しようと思ったらクロサイトも必要になる。それならまた皇王様に許可をもらいに行かなければならないと思って文句を言ったのだが、レイを見下ろすブルーは面白そうに喉の奥で笑った。

「安心しなさい。明日も其方達がここにいる間はクロサイトを借りる許可を既に皇王にもらっておる。クロサイトも水の属性を持つから今夜は湖で休ませる。ここの水もかなり良き水となってきておる故、一晩ここで休ませれば、クロサイトの精霊魔法の制御もさらに良くなるだろう」

「うわあさすがだね。ありがとうブルー。じゃあ僕達は書斎に戻って夕食までもうちょっと本を読む事にするね」

「ふむ、そうしなさい。中にいる間はシルフを寄越す故、何か質問があれば遠慮なく聞きなさい」

「僕も一緒にシルフを寄越すから、一緒にお話聞かせてくださいね」

 ブルーとクロサイトの言葉に、三人は笑顔で揃って頷くのだった。




「ああ、そうだった。本を全部片付けちゃったんだった!」

 書斎に戻った三人は、揃ってそう叫んで顔を覆った。

 机の上に置かれたマークのノートはそのままだし、構築式やそこから展開した魔法陣の下書きなどが書かれた黒板もそのまま置かれているのだが、読んでいた本の山は、皆が書斎に来た時に置いておく場所が無かった為に返却用の箱に入れた為、庭に出ている間に全て綺麗に片付けて本棚に戻されてしまっていたのだ。

「仕方がないって、このまま残しておいてくれって言わなかった俺達が悪い。もう一度探す楽しみが出来たと思えばいいさ」

 苦笑いしたマークがそう言い、レイとキムも笑って頷き合った。

「って事で、もう一回本を漁るぞ!」

 満面の笑みでそう叫んだマークが、移動階段を引っ張って来て一気に駆け上がる。

「ああ待って待って、僕も見る!」

 レイがそう叫んで後ろから階段を駆け上がる。

「俺も見る!」

 そう叫んだキムが、本棚の端に置かれていたもう一台の移動階段を引っ張って来て階段を駆け上がった。

 三人はそれぞれ好きなだけ本を取って来て、執事が夕食の準備が出来ましたと呼びに来るまで、夢中になって山積みになった本を読み漁っていたのだった。



 ブルーのシルフとクロサイトのシルフは、積み上がった本の上に並んで座りながら、そんな三人の様子を愛おし気に見つめていたのだった。

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