精霊魔法の合成実験とその結果

「全員建物に入ったな。よし、では一度やってみよう」

 念の為、建物全体を結界で包み込み、それからこの離宮全体も庭を含めて丸ごと結界で包み込んだ。

 万一にでも、今から行う実験で被害を出さぬようにする為だ。

「シルフ。我が良いというまで、結界の外から中には何人たりとも入れるな。良いな」


『了解了解』

『ここは閉じるよ』


 口々にシルフ達がそう言って頷く。

 ブルーは満足気に頷くと、もう一度大きく翼を広げて首を空に向かって伸ばした。

 そして、ずっと考えていて今日の出来事で確信を持った実験を始めた。




「では始めようか」

 そう呟いたブルーの目の前に巨大な火の玉が現れる。みるみるうちにその炎は輝きを増し、巨大な炎の盾に変化した。見ていたマークとキムは息を飲んだ。これは、いとも簡単に火と風の精霊魔法を合成したのだ。

「さすがは古竜だな……」

 窓の外を食い入るようにして見ていた観客達から驚きの声が漏れる。

 ブルーはその炎と風の盾に、自らの右手に出現させた光の盾をそっと重ねた。

 今度はどちらも消滅せずに、さらに大きな輝く炎の盾が出現した。

「ふむ、火と風と光はやはり相性が良い。問題はここからだな。クロサイト、ちょっとこれを持っていてくれ」

 まるで手にした本を渡すかのような気軽さで、隣で見ているクロサイトにその合成した巨大な炎の盾を渡した。

「持っていれば良いんだね」

 小さな手を差し出し、巨大な炎の盾を受け取る。

 クロサイトから少し離れた位置で、渡された巨大な盾は消える事なく光り輝いている。

「うわあ、あの巨大な盾をそのまま渡したよ。すっげえ」

 キムの、半ば無意識の呟きに、これまた全員が無意識で頷いている。

 ガンディまでもが、目はブルーの手元に釘付けだ。



「ノーム、しばし我と共にあれ」

 地面に向かってブルーがそう言うと、大きなノームが現れてブルーの差し出した手の上に乗った。そのまま持ち上げるブルーを見て、また全員が驚きの声を上げる。

 通常、ノームは地面から離れた瞬間に消えてしまう。しかしブルーの手の上のノームは消える事なくそこに存在している。

「すっげえ。あれ、どうやってるんだ?」

 今度はマークが呟いたが、残念ながらここにそれに答えられる人はいなかった。



 ノームが手を差し出すと、突然出現した砂が渦を巻いてこれまた巨大な盾を作り出した。やがて流れるように渦巻いていた砂は完全に固まって、一枚の巨大なお皿のような丸い盾になった。

 それはブルーから少し離れた空中に留まっている。

「ご苦労だった」

 ブルーの言葉に、一礼したノームが一瞬で消える。

「ウィンディーネ来い」

 ブルーの言葉に、大きな古代種のウィンディーネが何人も現れた。

 すると、彼女達は砂で出来た丸い盾に手を当て一瞬でその盾を水で包み込んだ。

 しかし、砂の盾は崩壊する事なく水の中で原型を留めている。

「ふむ、土と水もやはり相性が良いな」

 土の精霊魔法で盾を作り出すなんで考えたことさえなかったマークは、思わず自分の両手を見つめる。

「これは後ほど蒼竜様にお願いしてやり方を教わろう。あれも覚えておいて損は無いぞ」

 小さく呟いて拳を握りしめた。



「クロサイト、それをここへ」

 振り返って自分の足の上に座っていたクロサイトを呼ぶ。

 クロサイトが持っている巨大な光と炎の盾にブルーは自分が持っている土と水の精霊魔法を合成した盾をゆっくりと近付けて行った。

「まさか、あれは絶対無理だろう?」

「だよな、火と水だぞ。普通は当たった瞬間に消える……よな?」

 キムの呟きに、マークも前を向いたまま呟く。

 しかし、ブルーが手にした土と水の盾と、クロサイトが手にした光と火の盾は消える事なく瞬時に重なり合った。

 その瞬間、重なり合った盾がものすごい光を放った。

 全員が悲鳴を上げて目を覆う。

 しかし、全員が手で顔を隠しつつも、指の隙間から必死になって何が起こっているのか見ようとしていた。

「ふむ、予想通りになったな。これで四大精霊魔法と光の精霊魔法は完全に重なり合い合成された。なかなか上手くいったな」

 その言葉と当時に光が消える。

 満足気なブルーの言葉に、全員言葉もなく光の消えた庭を見つめていた。



『ねえブルー、今何をしたのか教えてくれる?』

 ブルーの手元に、レイの声を伝えるシルフが座る。

 離宮の部屋では、レイを含めた全員が窓に張り付いているのが見えて、喉の奥で笑ったブルーは、愛しい主が寄越したシルフに向かって口を開いた。



「火と風、土と水。これらはそれぞれにとても相性が良い。なのでまずはそれぞれ二つの精霊魔法を合成した。今回は分かりやすくするために力は均等に使った。まず最初に火と風を合成した盾に光の盾を合成した。そして別に作り出した土と水の精霊魔法を合成した盾、まあこれは砂の皿に水を染み込ませただけだ。だが、それぞれが崩れる事なく存在している時点で合成は完了している。その二つを再び合成したのだよ。相性が良いもの同士の方が、合成は容易い」

『ですが普通なら水と火が重なった時点で両方とも消滅します!』

『一体どうやってそれらを重ねたのですか?』

 マークの言葉を新たに現れたシルフが伝える。

 精霊魔法使いであれば当然の指摘であるその言葉に、ブルーは面白そうに喉の奥で笑った。

「そこがこの合成魔法の要なのだよ。それぞれに一旦別の精霊魔法と合成されている。この時点で全く別の性質を有している。つまり、水をかけても消えぬ炎。そして、火に触れても蒸発せぬ水」

 そのブルーの言葉に、シルフ達が息を飲む。

「それからもう一つある。火と風に光、これらは全て形の無いものだ。それに対して、土と水、これらは精霊魔法を一切使えぬただの人であっても触れる事が出来る実体のある存在だ。これは分かるな?」

 シルフ達だけでなく、部屋で聞いている全員が一斉に頷く。

「形を持たない無のものと実態を持つものは通常互いに相入れぬ存在だ。だがここでも合成という言葉が意味を持つ」

『つまり……それもまた別の性質を持つのだと』

『そうおっしゃるのですか!』

 再びマークが叫ぶ言葉をシルフが伝える。

「まさにその通りだ。やはり其方は理解が早いな」

 満足そうなブルーの言葉に、レイが感心したようなため息を吐く。

『ブルー凄い。でもすごくよく分かった。じゃあ僕達でも再現出来るかな?』

「ふむ、どうであろうな。我は四大精霊全てに高い適性を持っておる。もちろん光の精霊もな。なので一人で合成を行ったが、人の子の場合は四大精霊全てに適性を持つものは稀だ。故に複数人数でまずはやって見るのが良かろうな。今離宮の結界を全て解いた。今なら何があろうとも我が抑えてやる。各自の適性を確認して、四大精霊と光の精霊、これらすべてに高い適性があるように班に分かれてやってみるが良い」



 ブルーの言葉に、部屋にいた全員が一斉に口を開いて自分の得意なものを言う。

「待て待て、一斉に喋るな」

 笑ったアルス皇子の言葉に、苦笑いした竜騎士達とマーク達が肩を竦める。

「マイリー、確認して班分けを頼めるか」

 頷いて手帳を取り出したマイリーが各自の精霊魔法の適正を改めて本人に確認するのを、窓の外からブルーは面白そうに眺めていたのだった。

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