昼食と発動実験の開始

「ううん。貴族の人達って、いつもこんな美味いもん食ってるのか。前回ここに来た時にも思ったけども、食べ物に関しては正直言って貴族が羨ましい」

 燻製肉を食べてまた感動しながら、マークがしみじみとそう呟く。

 隣では、大きなお椀にあふれんばかりにビーフシチューを取ってきて食べているキムが、これまた感動しながら何度も頷いている。

 前回の勉強会の時も、こんな風にして好きに料理を取れる様にしてくれていたが、今回の料理は、品数も料理の質もかなり上がっている様に思う。

 そんな二人を見て、レイは先ほど執事が出て行った扉を振り返った。

「ええ、確かに美味しいけど、普段の食事はこんな自由じゃないんだよ」

 その言葉に、二人が同時に振り返る。

「だって普通なら僕は座ってるだけで、専任の執事さんが給仕、つまりお料理を一つ一つ持って来てくれたりするんだよ。使うカトラリーは一つずつ全部決まってるし、食べ方だっていくつも決まりがあって、骨つき肉とかお魚なんかが出ると、綺麗に食べるのは大変なんだよ」

 レイの言葉に、二人はまだまだ山盛りに盛られている自分のお皿を見つめる。はっきり言って盛り付けなど一切考えていないので、かなりごちゃごちゃだ。

「ええと、これはつまり、特別?」

「うん、多分マークやキムがそういった食事のマナーなんかを知らないと思って、こんな風に準備してくれたんだと思うよ。でも、正直に言うと僕もこっちの方が良いです」

 嬉しそうにそう言うと、レイは分厚く切った燻製肉にフォークを突き刺して行儀悪く齧り付いた。

 普段だったらそれこそグラントリーに即座に叱られるような行為だが、今なら誰にも叱られない。レイは密かに、この自由な食事を大喜びで満喫していた。

「じゃあ、俺はこれ! 見た時からやりたかったんだ!」

 キムが嬉しそうにそう言うと、取ってきていた柔らかな丸パンを半分に手で千切って、真ん中にオムレツと燻製肉の両方を挟んだ。

「美味いものを美味いもので挟むんだから、絶対美味いに決まってる」

 そのまま、大きく口を開けて一気に齧り付く。

 満面の笑みで親指を立てるキムを見て、こちらも満面の笑みになったレイとマークも先を争うようにして、それぞれ好きなものを挟んで食べ始めた。

 笑顔と笑い声は絶えず、お行儀悪くあちこち散らかしながら大喜びでご馳走を満喫した三人だった。



「はあ、もう食えない。腹一杯です」

「俺ももう限界です。美味かったです!」

 カナエ草のお茶を飲みながら、大満足の二人が笑う。

 レイも、カスタードタルトを齧りながら嬉しそうに何度も頷いていた。

「美味しかったね。じゃ少し休憩したら、さっきの構築式を元にして一度発動実験をしてみようよ」

 レイの言葉に、真剣な顔に戻った二人が頷く。

 その後は、残りのお茶を飲みながら構築式の展開についての話をしていた。




「前回もそうでしたが、本当に仲がよろしいですね」

「レイルズ様もとても楽しそうです」

「あのお行儀は、正直申し上げてどうかと思いますが、まあ今回だけと言う事で何も見なかったことにしておきます」

 衝立の奥では、追加のお菓子とお茶の準備をしながら三人の様子を伺っている執事達が、嬉しそうに話をしている。

 市井の出身であるマークとキムは、改まった席での礼儀作法など全く知らない。それを考えて前回の勉強会での昼食同様にあのような方式にしたのだが、どうやら正解だったようだ。

 しかもラスティの指示で、今回は料理の質も内容も前回よりも上がっている。

 厨房では、既に夕食用の肉料理などの準備を始めてくれているが、どうやらあの二人もかなり食べるようなのでしっかり準備しておいても問題無いだろう。

 一人の執事が厨房に昼食での食べっぷりを報告に行くのを見ながら、執事達は満足気に頷き合っていたのだった。




「さて、それじゃあ行こうよ」

 残りのカナエ草のお茶と一緒に薬を飲み干したレイの言葉に、マークとキムも頷き、残っていたお茶を薬と一緒に飲み干した。

 食べ終えた食器は簡単に並べて片付けてそのままにしておき、三人はブルーが待っている庭に早足で出て行った。

「来たな。見ていてやる故、好きにやってみるといい」

 起き上がって座り直したブルーを見上げて、真剣な顔で頷いた三人が、庭に広がる。

 発動の中心は一番制御に長けているマークが行う。

 真ん中で、マークは合図と同時に自分の5メルト前に立てた目印の棒に、光と風の合成魔法の盾を飛ばす。

 レイは、合図と同時に光と風の合成魔法の盾を作り出してマークの前の棒に飛ばす。

 そしてキムは、同じく合図と同時に火と風の合成魔法の盾を作ってマークの前の棒に飛ばす。

 上手くいけば、これでさっきの構築式の通りに三つの合成魔法が合わさって発動する筈なのだが……。

 残念ながら三つの合成魔法は、それぞれにぶつかり合った瞬間に消えてしまった。



 それを見た三人が無言になる。



 しばらく後、三人が一斉に口を開いた。

「もう一回やろう!」

 見事に声が重なる。

 そのままもう一度発動させようとする三人を見て、ブルーが止めに入った。

「待ちなさい。ただがむしゃらにやっても上手く行く訳があるまい。まずは、何故失敗したのかを考えなさい」

 諭す様なブルーの言葉に三人が顔を見合わせる。大きく頷いてその場に座った三人は、ブルーも交えながらそれぞれの考えを話し、時折実際にやってみながらかなりの時間を使って飽きもせずに何度も何度も合成魔法を発動しては失敗をして、原因究明の為の話し合いを続けていたのだった。

 しかし、幾らやっても合成魔法同士が重なった瞬間に全て消えてしまい、全く進展がないままに時間だけが過ぎて行ったのだった。

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