今後の予定と段取り
翌日、いつものようにシルフ達に起こされたレイは、ブルーのシルフから、マークとキムの評判が一晩でとんでもなく上がり、第四部隊では既に大騒ぎになっていると聞かされて驚く事になったのだった。
『まあ当然だろう。精霊魔法を使える者があの二人の合成魔法を見れば、間違い無く自分もやってみたいと思うだろうからな』
「だけど、キムの論文には、これには適性もあるって書いてあったね」
起き上がって伸びをしながら、レイが彼の論文を読んだ時の事を思い出してそう言う。
『ふむ、その通りだ。誰にでも出来る事ではないだろう。光の精霊魔法と同じで、本人の持つ元の適性が大きく影響するだろうな。理論の勉強は多くの者達にやらせるべきだろうが、光の精霊魔法ほどではないにせよ、実技に関しては恐らく、実際に合成魔法を作り出す事が出来るのはごく少人数になるだろうな』
「あ、やっぱりそうなんだね。じゃあこれからはマークとキムも忙しくなるんだろうね」
最近、マークやキムとゆっくり話す時間があまりなかったのだが、それならば、これからはもっと会えなくなりそうでなんだか寂しくなってきた。
「えっと、あ、そうだ! この前言ってたけど、瑠璃の館と離宮でまた勉強会をやればいいんだよね。それなら遠慮なくゆっくり話せるもの」
窓に駆け寄り、カーテンを一気に開いてよく晴れた空を眺めながらふと思いついた考えを声に出す。
二人もまた離宮の本を読みたがっていたし、今度瑠璃の館にも呼ぶ約束をした。なのでそれはとてもいい考えに思えて嬉しくなった。
だが瑠璃の館は、まだ内部の改装が全部終わっていないので、呼ぶのならまずは離宮だろう。
『ああ、良いのではないか? 彼らもこれからとんでもなく忙しくなるだろうから、いっそすぐにでも呼んでやるべきかもしれんな』
笑ったブルーのシルフの言葉に驚いて振り返る。
「ええ、どう言う事!」
丁度その時、ノックの音がしてラスティが入って来たところだった。
「どうなさいましたか?」
大声に驚き、慌てたように駆け寄って来てくれる。
「ああ、ごめんなさい。ちょっとブルーとお話ししていただけです」
慌てて謝り、マークとキムを離宮に招待して、勉強会をまたやりたいと考えている話をした。
「ああ、それは彼らにも良い事かもしれませんね。ですが今その勉強会をやれば、両殿下や、竜騎士隊の皆様も揃って離宮に押しかける事は確実でしょうね」
苦笑いするラスティに、レイは不思議そうに首を傾げる。
「昨夜、夜会から戻られたあと、オリヴェル殿下直々の御命令で、キム伍長の論文の写しを全てお届けしたそうです。そうすると殿下は徹夜なさってあの論文を一晩で全て読んでしまわれたそうですよ。彼らからゆっくりと話を聞きたいとの仰せでしたから、そんな勉強会をするのだと聞けば、間違いなく嬉々としてお越しになるでしょうね」
三人だけでのんびり夜更かしをして、好きにお喋りしながら本を読むつもりだったのだが、そこまで本格的にして良いのだろうか? 戸惑っていると、白服を渡された。
「それなら一度、ルーク様に相談なさってみてはいかがですか。今日は、ルーク様も朝練に参加なさるそうですからね」
「分かりました、後で聞いてみます。じゃあまずは顔を洗って来ますね」
ベッドに白服を置いて、レイは大急ぎで洗面所へ走って行った。
「レイルズ様。後頭部の下側、大きな寝癖がありますよ」
笑いながらそう言うと、悲鳴まじりの返事が聞こえて来た直後に賑やかな水音が聞こえて来てラスティは小さく笑って寝乱れたシーツを剥がした。
「どう、これでもう大丈夫?」
ラスティの前でくるりと回って見せたレイの髪は、寝癖が取れて綺麗ないつものふわふわに戻っている。
「ええ、大丈夫ですよ」
豪快に着ていた寝巻きを脱ぐレイに白服を渡してやり、ラスティは受け取った脱いだ寝巻きを簡単にたたんで洗濯用の籠に放り込んだ。
「おはよう。今朝は朝練の参加は俺達だけみたいだぞ」
廊下には、白服のルークが待っていてくれたので、お礼を言って一緒に朝練に向かい、まずはいつもの準備運動と柔軟体操の後に走り込みを行った。
「さすがに今日は二人ともお休みみたいだね」
マークとキムの姿が見当たらずちょと残念に思ったが、きっと心底疲れ切っているであろう二人が少し心配になって来た。
「ねえ、ブルー。マークとキムは大丈夫かな?」
『大丈夫かなとは、どう言う意味だね?』
優しい声に、一般兵達が並んで走っているのを横目で見て肩を竦めた。
「ほら、昨日は大活躍だったでしょう? それに慣れない夜会にも出て、殿下といっぱい話をしたりしたもの。だからきっと今頃、疲れ切ってばったり倒れてるんじゃないかと思ってさ」
『まあ昨夜は確かにほぼそんな感じだったな。今朝は通常業務だったのだが遅番に交代してもらったらしく、二人揃ってまだ休んでいるぞ』
面白がるようなブルーのシルフの説明に、レイは大きく伸びをしながら笑った。
「そっか。やっぱりお疲れだよね。でも休めてるんなら良かった」
笑って軽く飛び跳ねてからルークを振り返った。
「それじゃあお願いします!」
笑ったルークがレイの棒を投げてくれたので、受け止めてまっすぐに構えた。
「よし、打ってこい!」
ルークの声に大声で応えて、上段から力一杯打ち込みにいった。
途中、来てくれたキルートとも手合わせをしてもらい、しっかり汗を流して部屋に戻る途中に今朝の事を思い出してルークに相談してみた。
「ああ、それは喜ばれるんじゃないかな。良いと思うぞ。月末まで夜会の予定がいくつか入ってるけど毎晩じゃないし昼間は特にないから大丈夫だぞ。彼らの予定を聞いて早めに呼んでやれ。きっと今頃二人揃ってパニックになってるだろうから、落ち着かせる意味も込めてな。なんなら今回は周りには内緒にしておいてやるから、お前らだけでゆっくり話をすれば良いよ。次回は俺達も参加させてもらうからさ」
ルークの提案に嬉しそうに満面の笑みで頷いたレイは、後でマーク達に連絡を取って彼らの予定を聞いてみようと考え嬉しくなって飛び跳ねてしまい、ルークに叱られてしまった。
「こら、廊下で跳ねない!」
「はい、すみませんでした!」
慌てて直立するレイと顔を見合わせて、二人同時に笑い合うのだった。
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