歓迎式典の始まり

 用意されていた大きなラプトルに乗り、先導してくれる第二部隊の兵士達と共に、綺麗な隊列を組んだ一行は、一の郭の広い道を通って花祭り広場へ向かった。

 途中、殆どの道沿いの屋敷から大勢の人々が出て来て、それぞれに花を撒き拍手で一行を見送った。

「あれって、お屋敷に連絡が入ってるんですか?」

 小さな声で、隣にいるルークに質問する。

「まさか。ただ今日歓迎式典が行われる事は準備を見ていれば分かるからね。なので、花祭り広場へ続く道沿いの屋敷にいる主人だけでなく、その屋敷の使用人達も殆どが出て来ているんだ」

 感心してよく見ていると、確かに明らかに使用人だとわかる服装の人も多い。

「ようこそって歓迎の意味を込めて皆で花を撒くんだ。だけど、花祭り広場へ行く道も幾つかあって、直前までどの道を通るか分からない。だから、出て花を撒く準備をしていても来なかった家も多いだろうな」

「そっか、せっかく準備してくれた人達には申し訳ないけど、安全を考えたら事前に連絡は出来ないよね」

「そうそう、分かってるじゃないか」

 笑ってそう言われて言い返そうとした時、今、どの道を通っているか気付いて目を瞬いた。

 このまま進めば瑠璃の館の前を通る。慌てて胸を張りしっかりと背筋を伸ばした。



 瑠璃の館の前を通ると、アルベルトをはじめ大勢の使用人達が出て来て整列していた。皆、手に籠を持っていて、一行が近付くと笑顔でその籠から花びらを撒いた。

 全て青と白の花びらだ。

 拍手の中、屋敷の前を通り過ぎる。

「……あの屋敷に、あんなに人がいたんだ」

 思わず感心したように呟く。

 レイは、使用人の人達と言っても、せいぜい十人くらいかと思っていたのだが、今のを見る限り三十人以上は確実にいた。全員出て来ているという事は無いだろうから、総数で言えば、間違いなくあれ以上いると考えて間違いないだろう。

「一度には会えないって言った意味がわかったや。へえ、すごいね」

 彼らが一体どんな仕事をして家を支えていてくれるのか、ちょっと気になったレイだった。




 拍手と花びらに見送られてようやく花祭り会場に到着した。

 会場には既に大勢の兵士達が整列して待機している。

 会場に入った所でラプトルから降り、その後は歩いて指定の場所へ向かった。

 そこには、花祭りの時ほどでは無いが大きな物見台が作られていて、オリヴェル王子と共に、竜騎士達は全員揃ってその台に上がったのだった。

 一番上の段にアルスとオリヴェル王子が並ぶ。その下の段に竜騎士隊が整列した。レイは一番左の端の位置だ。

 高くなったその場所からは、広場全体を見渡す事が出来る。

 彼らが台に登ると大歓声が湧き上がった。



「総員、敬礼!」



 広場に声が響き渡り、整列していた兵士が一斉に直立して敬礼をする。

 両王子と竜騎士隊も敬礼を返した。



 整列した兵士達とレイ達が立っている台の間には、とても広い間がある。多分、会場の半分近く空いているだろう。どうしてあんなに兵士達が遠いのかと不思議に思って見ていると、その空間に軍楽隊が進み出て来た。

 一糸乱れぬ動きで行進をして、空いていたその空間いっぱいに広がる。

「そっか、ここで何か見せてくれるんだね」

 という事は、マークやキムの技の披露もここれしてくれるのだろう。ここなら近いから前回と違ってよく見えそうだ。

 嬉しくなって身を乗り出すようにして広がる軍楽隊を見ていた。



 指揮棒を持った兵士が一番前へ進み出て直立して、こちらに向かって敬礼する。

 それから手を戻すと、綺麗に一動作で後ろを向きこちらに背を向けて兵士達の方を向いた。

 指揮に合わせて演奏が始まる。

 しかし、彼らは楽器を演奏しつつ、一列になったり円になって回転するように行進したりと、見事な演技を見せてくれた。

 列は乱れる事なくまるで生きているかのように右に左に動き回り、それでも演奏が途切れる事はない。

 時に、楽器を振り仰ぐようにして片膝をついたり、背中合わせになって前に後ろに歩いたりもする。

「へえ、これは見事だ。相当練習しないとここまで見事には合わないよ。絶対どこかがずれて齟齬が出るよな」

 感心したようなルークの呟きに、レイも何度も頷いていた。

 演奏が終わると、オリヴェル王子は大喜びで顔でいつまでも拍手をしていた。




 次に進み出たのは、第二部隊の弓兵達だ。

 会場の右隅に整列した彼らの反対側、左隅に小さな的が置かれる。

「ええ、遠当てだとしても、この距離は難しいでしょう?」

 恐らく150メルトはあるだろう距離を見て驚く。

 進み出た一人の兵士が持っている弓は、レイが普段使っている弓よりもかなり大きい。当然そこに張ってある弦も長い。その大きな弓を大きく振りかぶって矢を構えたその兵士は、しばし沈黙した後、一気に矢を放った。

 風を切る音が響き、小さな的のほぼ真ん中に見事に突き刺さった。

 息を止めて見ていた会場からどよめきが起こる。



 オリヴェル王子が拍手をするのを見て、会場が拍手に包まれる。



 敬礼して下がった弓兵に次に進み出て来たのは、クロスボウと呼ばれる引き台のついた仕掛け弓を持った兵士だ。これも大きい。

 膝をついて、水平になったその弓に矢をつがえて構える。しばしの沈黙の後、金属音がして一気に矢が放たれる。

 これも見事に的を貫いた。また大歓声が上がる。



 次に進み出たのは、レイも使っている普通サイズの弓を持った兵士達で、全部で五人。その後ろにももう五人が並ぶ。前列の兵士の間に後列の兵士が立っているので交互に前後して立っているようにも見える。

 全員が弓を持っているが、少し前に進んで100メルトほどの距離に新たに置かれた的は一つだけだ。

 指揮官らしき人が進み出て、彼らの横に立ち手を挙げる。

 前列が片膝をついて構え、後列は立ったままそれぞれ弓に矢をつがえた。



「放て!」



 大声と共に手が振り下ろされた瞬間、全員が同時に矢を放った。

 大きく風を切る音と共に、全部で十本の矢が真ん中の中心部分に音を立てて水平に並んで当たったのだ。

 また会場からどよめきが起こる。

 一人の兵士が的を外して正面の王子達のいる台に向かって矢の刺さった的を見せる。

 真ん中部分に綺麗な一列になって当たっている。多少のズレはあるものの、見事という他はない腕だ。

「見事であった!」

 オリヴェル王子が立ち上がってそう言い、大きく拍手をする。

 大歓声の中、頬を紅潮させた弓兵達が揃って敬礼した。



 レイも手が痛くなるくらいに、大きく拍手をした。

「すごいね。僕ならシルフの助け無しには絶対出来ないよ。彼らは一切シルフの助けを借りていないのに」

 思わず呟くレイの言葉に、ルーク達も苦笑いしながら頷く。

 彼らの腕は、実は軍隊内でも有名なのだ。




「次は誰が出てくるんだろう?」

 ワクワクしながら見ていると、今度はマークとキム達が進み出て来るのが見えてレイは嬉しくなった。

 他に出て来ているのは全員が竜人の兵士達で、人間はマークとキムの二人だけだ。

 はっきり言って目立っている。

 緊張しているのだろう、若干二人の歩き方がぎこちない。

「大丈夫、出来るよ。出来るって」

 両手を握りしめて、進み出る彼らをレイは必死になって見つめていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る