精霊魔法の合成と発動についての研究室

「そろそろ時間だな。じゃあ、移動するよ」

 ルークに声をかけられて返事をしたレイは、ずっと一緒にいてくれたクッキーに手を振ってからルークの後に続いた。

「この後は一の郭にある花祭り広場でオリヴェル王子の歓迎式典なんですよね。楽しみだなあ」

「マークとキムの二人も、今頃はそれこそ緊張しすぎて倒れてるかもな」

「ええ、そんなの駄目だよ。えっとシルフ、マークとキムは今どうしてる?」

 面白がるようなルークの言葉に、レイは慌てて目の前のシルフに尋ねた。


『緊張してるよ』

『二人揃ってカチカチ』

『広場へ向かってるよ』

『ラプトルに乗ってるよ』


 次々に答えてくれるシルフ達に笑いかけて、レイはこっそりマークを呼んでもらった。

『おおレイルズ』

「うん、聞いたよ。今日キムと一緒に歓迎式典で精霊魔法の技を披露するんだってね。期待してるから二人とも頑張ってね」

 無邪気なレイの言葉に、マークの渇いた笑い声が聞こえる。

『もちろん頑張るよ』

『だけどもう緊張し過ぎでさ』

『昼飯は味が分からなかったよ』

『頼むから失敗しないように祈っててくれ』

 あまりにも自信なさげなその声に、レイはだんだん心配になってきた。

「大丈夫だよ。マークもキムも凄いんだからさ。絶対出来るよ。応援してるからね!」

『あははありがとうな』

『ご期待に添えるように頑張るよ』

「うん、それじゃあ頑張ってね」

 苦笑いした二人が手を振る様子まで、律儀にシルフが再現してくれる。

「まあ予想通りだったな。だけど、ちゃんと味がしなくても昼飯食ってるんだから大したもんだよ」

 横で一緒に聞いていたルークが笑いながらも感心したように頷いている。

「それじゃあ行こうか」

 ルークの案内で向かった部屋には、すでに竜騎士隊全員が揃っていた。



「ああ、お待たせしてしまって申し訳ありません」

 マーク達と話していた為、一人だけ遅くなったレイが慌てて謝る。

「気にしてねえよ。二人に経験者からいろいろと話していた所だよ」

 笑って手を振るカウリとヴィゴの両横に、ロベリオとユージンが座っている。その向かい側にはタドラとアルス皇子も座っていて、マイリーが一人、苦笑いしながら少し離れて座っている。

「あはは、なんだかどういう状況か分かる配置ですね」

 小さく吹き出したルークが、マイリーの隣に座る。

「さあ、レイルズ君は何処に座るかな?」

 ルークの面白がるような言葉に、全員揃って吹き出す。

「ルーク、僕で遊ばないでください!」

 口を尖らせたレイが、笑って文句を言いタドラの横に座る。

「僕はまだ結婚の予定は無いけど、べつび独身主義ってわけじゃあ無いからこっちに座りま〜す」

「あ、その分類でくるか」

 また笑ったルークの言葉に、隣のマイリーまで口を押さえて吹き出している。

「でも確かにその分類も間違ってはいないな。今回はレイルズの勝ちだぞ」

「ですね、もうちょっと修行してから出直します」

 大真面目にそう言うルークに、また全員揃って笑うのだった。




「君の友人のマーク伍長とキム伍長が、第四部隊の代表として精霊魔法の技をお見せするんだけど、聞いているかい?」

「はい、さっきシルフに呼んでもらったんですけど、すごく緊張してるみたいです。大丈夫か、ちょっと心配です」

「そりゃあ緊張もするよな」

 カウリが面白そうにそう言って笑っている。

「しかし、精霊魔法の合成と発動の理論については、キム伍長が先駆者だからな。オリヴェル王子に紹介する意味もあるのだろうさ」

「例の研究室の件もありますからね」

「例の研究室?」

 マイリーとルークが話す内容が分からなくて、レイが首を傾げる。



「ああ、まだ話していなかったな」

 マイリーがそう言ってレイを手招きするのを見て、呼ばれたレイが素直にマイリーの隣に座る。

「以前女神の分所で、参拝者同士で刃傷沙汰になって騒ぎが起こって、お前が巻き込まれた彼女を庇って飛び出した事件があっただろう」

 もちろん覚えていたので頷く。

「その時に、とんでもなく巨大な光の盾が出たのを覚えているか?」

 それももちろん覚えている。突然の発動で本当に驚いたのだから。

「あれはラピスも言っていたが、お前とマーク伍長とキム伍長、それからクラウディア、さらにはニーカに頼まれたクロサイトまでがそれぞれに守りの術を同時に発動し、完全に共鳴して合成された結果らしい。今回のこれは偶然だったが、もしもこれを安定して発動することが出来れば戦力的には相当強化される。分かるか、人員を増やすことなく戦力を大幅に増やせる可能性があるんだ。研究しない手は無かろう?」

 目を輝かせて頷くレイに、マイリーは笑顔になる。

「って事で、正式に研究室を発足した。竜騎士隊は全員参加、マーク伍長とキム伍長にも参加してもらっている。殿下の結婚式が終わるまでは、ティア姫様担当の彼女達は無理だろうが、来月以降に声をかけて彼女達にも参加してもらう。もちろんジャスミンにもな」

「他には、第四部隊からも光の精霊魔法が出来る兵士を中心に、交代で順次参加してもらう予定だ。ああ、ラピスを始め、竜達も今回の件に関しては興味津々なのでね。シルフを通じてではあるが、竜達にも参加してもらうよ」

 マイリーの説明に続くアルス皇子の言葉に、レイは目を輝かせる。

「あれは確かに、すごかったです。もしもあんな事が意識して発動出来れば、確かに凄いと思います」

 身を乗り出すようにして、何度も頷くレイに、皆も大きく頷く。

「大変だろうけれど、研究する価値のある事だよ」

「すごいですね。僕、あれは単なる偶然だと思って、もう気にしていませんでした」

 無邪気なその言葉に、マイリー達は苦笑いしている。



「さて、それじゃあそろそろ時間のようだな。我々はオリヴェル王子と一緒にラプトルで行くからね。しっかり胸を張って前を向いていなさい」

 立ち上がったマイリーの言葉に、元気に返事をしてレイも立ち上がるのだった。

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