おしゃべりと様々な裏事情
「まあまあ、なんて素敵なのかしらね。まるで物語の一幕のようだわ」
少女のように目を輝かせて、サマンサ様が話の先をねだる。
だがもう、タドラは出涸らしのお茶の葉みたいにしおしおになってる。
それに
今ならもしかして勝てるかもしれない。などと、若干不届きな考えを思い浮かべたレイは、慌ててその考えを打ち消した。
そんなタドラを見て、ルークはもうさっきからずっと笑っている。
今日は観客に徹していられそうで安心したレイも、猫のレイを膝に乗せたままで、せっせと最後のお菓子を平らげていた。
「ところでレイルズは? 彼女とはその後どうなの?」
しかし、突然のサマンサ様の言葉にレイは咄嗟に
「まあまあ、大丈夫?」
笑いながら背中をさすってくれるマティルダ様になんとかお礼を言って、執事がすぐに渡してくれた布で口元を拭った。
「その……実は今年は、竜騎士の花束を取り損なっちゃいました」
「まあ、駄目だったの?」
「はい、指先に当たって跳ね飛んでしまったんです。それで拾おうとしたら……第二部隊の人に拾われちゃったんです」
またあの時の気持ちを思い出してしまい、眉を寄せて情けない顔になる。
「まあまあ、それは残念だったわね。でもそれなら、拾ったその方は幸せになれたんだから、貴方の頑張りは無意味じゃ無いわよ」
慰めるようにそう言ってくれたサマンサ様に、レイはなんとか頷いてお礼を言った。
「まあ、花束は取れなかったけど、その後はこっちも大騒ぎだったもんな」
完全に面白がっている口調のルークの言葉に、その後を詳しく聞いている若竜三人組が揃って吹き出す。
「あらあら、なにがあったのかしら?」
三日月みたいな目になった女性陣にルークが、花束を取れなかったレイに対して彼女が言った言葉と、それからその後のなんとも無邪気で無警戒な騒動を、嬉々として詳しく説明した。
それを横で聞いていて真っ赤になったレイは、膝の上に丸くなって寝ている猫のレイの背中に突然突っ伏して悲鳴を上げ、飛び起きた猫のレイから盛大に文句を言われていたのだった。
「まあ、それは素敵な彼女ね。一度私も会ってみたいわ」
良い事思いついた、と言わんばかりのサマンサ様の言葉に、レイはもうさっきから必死になって首を振り続けている。
もちろん、ただの巫女であるクラウディアが、王妃や皇后様とそう簡単に会える訳もない。
これはそんな事は百も承知な上での、会いたい、との言葉だ。
その場にいたレイ以外の全員は、その言葉を当然のようにそう理解して聞き流したが、当のレイはどうしたらサマンサ様にそのお考えを変えてもらえるかと、必死になって考えていたのだった。
『大丈夫だから落ち着いて』
『これは会えないって分かってるけど言ってみただけだよ』
『だから気にしないで聞き流して』
『皆分かってるからね』
目の前に現れて教えてくれたニコスのシルフの言葉に、ようやく納得したレイは、安心してお茶を口にした。
その後は、ロベリオとユージンの婚約者の女性達の話が中心となり、今度は二人が女性陣から集中攻撃を浴びていて、もう最後には二人揃ってこちらも干涸びたお茶の葉みたいになっていたのだった。
何とか自分の話から女性陣の気を逸らせる事が出来てレイは密かに安心していた。
当然だが、ここにいる女性陣も全員が二人の婚約者の事を知っているらしく、今回のレイはひたすら聞き役に徹して、今日だけでもそのお二人についてかなり詳しく知る事が出来たのだった。
マイリー達も言っていた通り、かなり活発な方々のようで、しかもかなり優秀らしい。
なので結婚した後も、他のご婦人方のように屋敷に留まって家を守るのではなく、恐らく貴族院の議員である父の補助に入って城の会議にも参加する事になるだろうと聞かされ、レイは驚きに目を見張った。
女性で王宮の会議に参加している人は、主人を亡くした婦人が、子供が成人するための間の繋ぎとして代理で務める事がある程度で、はっきり言ってそれもごく少数だ。
何らかの社会奉仕活動をしている婦人が、時に議会で何らかの発言をする事もあるが、それはあくまで一時的な事だ。
城の議会には、貴族院と呼ばれる人達と、元老院と呼ばれる人達がいる。
貴族院の議員は、文字通りそれぞれの貴族の当主もしくは長男が務めている。
彼らの主な仕事は、各地からの問題の陳情や、様々な諸問題への対処と計画の立案と提案などだ。
当然それぞれに担当があり、土木関係や治水、農作物を始めとした生産品の管理や物流など、仕事は多岐にわたる。
それらが抱える問題点を王立議会の会議の場で提案して、直接皇王に届けて差配してもらうために活動する人たちの事だ。
当然それぞれが、国の何処かに自分の領地を持っている。その為、それぞれの立場や考え方があり、時には利権も絡むので、議会への提案ひとつとってみても色々と大変だ。
この辺りは、グラントリーやマイリーから少しだけだが裏事情を教えてもらい、もうそれだけで嫌になってしまったレイだった。
もう一つの元老院の議員は、主に隠居した元当主や、ある年齢以上と地位のある次男以降の人が務めている。
マイリーが若造扱いされるくらいで、議員の平均年齢はかなり高い。
彼らの主な仕事は、貴族院の議員達から上がってきた提案や計画を陛下と共に検討して実際に指示を出して差配する事だ。
勿論、最終的な決定権は陛下にあるのだが、元老院の意見は、皇王であろうとも無視出来ないものがある。
その元老院自体も、テシオスとバルドのお父上が失脚して以降、かなり内部の改革が進んでいて、議会内部での軋轢はかなり軽減されていると聞く。
この辺りは、レイにとっては正直言ってさっぱり解らないものの代表格なのだが、これも勉強だから知っておきなさいと言われて、定期的にマイリーやルーク、それからグラントリーから色々と教わっているところだ。
それ以外には、竜騎士隊も所属する軍部からも大勢の幹部達が参加している。
場合によっては各ギルドの代表が参加する事もある。
そんな所に、まだ若いであろう女性達が入って大丈夫なんだろうか?
「えっと、それじゃあ、そのお二人も貴族院の議員になるのですか?」
「どうなるかは、陛下や元老院で調整中よ。でも、何らかの形で意見を聴ける立場には置かれるでしょうね」
カナシア様の言葉に、レイはまた驚く。
「えっと、すごい方を奥様にするんだね」
ロベリオとユージンを見てそう言うと、二人だけでなくルークとタドラまでが揃って吹き出し、その場は大爆笑になった。
マティルダ様を始め女性陣も笑っている。
「そうね、きっと彼女達は貴方の事を気にいると思うわ。どうぞ仲良くしてやってね」
満面の笑みのマティルダ様の言葉に、レイは無邪気に返事をして、また皆を笑わせているのだった。
『何やら面白そうな女性達のようだな』
苦笑いするブルーのシルフの言葉に、若竜三人組の竜の使いのシルフと、ルークの竜であるオパールのお使いのシルフも揃って笑って頷いている。
その周りでは、彼らに惹かれて集まってきたシルフ達が、大喜びで手を叩いたりくるくると回って踊ったりして、大はしゃぎしているのだった。
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