少年達との交流と明日の予定

「あはは、言っただろう? 興奮した子供は本気で蹴りに来るって」

 肩車していたフィリスが暴れた為、うっかりかかとで胸をまともに蹴られてしまい、しゃがみ込んで悶絶しているレイを見てルーク達は笑ってそんな事を言う。

「ご、ごめんなさい。お兄様」

「大丈夫ですか? しっかりしてください」

「うん……大丈夫。ちょっと、意表を突かれただけ」

 慌てふためく少年達の言葉に苦笑いしながら立ち上がったレイは、いきなりフィリスを捕まえて脇腹をくすぐった。

「こら、暴れる悪い子は誰だ?」

 悲鳴を上げて大はしゃぎで逃げようとするフィリスを、笑ったマシューとティミーが捕まえてさらに擽る。

 擽り合って大喜びの子供達を見て、大人達は大笑いしていたのだった。



「ほら、これでも飲んで落ち着きなさい」

 アルジェント卿が護衛の人と一緒に果物を絞ったジュースを買ってきてくれたので、お礼を言って受け取り大人しく飲み始めた。

 どれも味が違っていて、皆で大喜びで交換しながら飲み合った。ルーク達は、串焼きを買って来て好きに食べ始めている。

「ああ、ずるい。それ僕も食べたいのに!」

 それに気付いたレイがそう叫び、少年達も手を挙げて食べたい食べたいと言いながら跳ねまわるのを見て、苦笑いしたアルジェント卿が新しい串焼きを人数分買ってくれた。

 すっかり大人しくなって貰った串焼きを頬張る彼らに、大人達はもう笑うしかなかった。

 その後、去年も買ったどんぐりの煎餅を大きな袋で買い、皆で摘みながら残りの少し小さな花の鳥を見て回った。



「ああ、ほら、去年も出ていた女神像の花の鳥があるよ」

 レイが見つけたそれは、花で長い髪や服を作り、両肩に花の鳥を留まらせた女神像で、足元には同じく頭に花の鳥を留まらせたマルコット様のいる母子像だったのだ。

 女神が差し出す手を、マルコット様が取る寸前で止められたその姿は、花である事を忘れそうなくらいに丁寧な作りで仕上げられていた。

 少年達も笑顔になり、我先にと分厚い束を取り出して何枚もの投票券を千切って押し合いっこをしながら投票箱に入れていたのだった。

 途中ではしゃぎすぎたフィリスが寝落ちしてしまい、笑ったレイが背負って会場を見て回ったのだった。




「すまなかったな。すっかり世話を任せてしまって」

 少し早めに会場を後にした一行は、空いた花馬車に乗り込んで、帰路についた。

 空いたベンチにフィリスを寝かせながら嬉しそうにしているレイに、アルジェント卿が申し訳なさそうにそう言って頭を下げる。

「いえ、すごく楽しかったです。僕一人っ子だったから、弟が欲しいってずっと思っていたんです。だから、お兄様って呼んでもらえてすごく嬉しかったです」

 それを聞いたマシューとティミーが目を輝かせてレイの腕に縋った。

「お兄様! すっごく楽しかったです」

「お兄様! また遊んでくださいね」

「もちろんだよ。僕の方こそよろしくね」

 笑顔で手を叩き合う彼らを見て若竜三人組とルークは顔を見合わせて笑い合っている。

「僕も弟が欲しかったから、レイルズが来てくれて嬉しかったんだよ」

 タドラの言葉にレイは目を輝かせた。

「タドラお兄様!」

 笑顔のレイの言葉にタドラが吹き出し、二人は笑って抱き合い背中を叩き合っていた。



 お城の花馬車の停留所でアルジェント卿と少年達と別れて、レイ達は本部へ戻って来た。そのまま休憩室で買ってきた屋台のお菓子を食べながら陣取り盤を挟んで対戦して時間を過ごした。

 今回は善戦したのだが、最後は端に追いやられて逃げ場が無くなる囲みと呼ばれる状態に追い込まれてしまい、呆気なく勝負はついてしまった。



「ああ、また負けた!」

「悔しい、良いところまで攻められたのに!」

 頭を抱えて悔しがるレイとタドラに、ロベリオとユージンは笑って手を叩き合っていた。

「よし、まだ負けないぞ」

 レイとタドラの合同チームは、ロベリオとユージンの合同チームに負け続けている。今のところ、レイはまだ一度も自力で竜騎士隊の人に勝った事が無い。

「悔しい。頑張ってもっとこれも強くなるんだい」

 小さく呟いて、攻略本を片手にしたルークの説明をタドラと一緒に必死になって聞いていたのだった。




「まあそんなところかな。最初の頃に比べたら、かなり攻め方も上手くなってきているから、大丈夫だよ。これも棒術訓練と同じで、毎回同じ人とばかり手合わせしていると、無意識に攻め方や守り方に癖がついたりするから、出来るだけ多くの人と手合わせしてもらうのが良いんだよ。今度、お相手してくれそうな方を探して時間をとってやるよ」

「お願いします。確かに、これもいろんな人と手合わせした方が良いのはわかるね」

 目を輝かせるレイに、ルークも笑って攻略本を本棚に片付けた。

「あ、それと明日の予定だけどな」

 振り返ったルークの言葉に、ビスケットを口に入れたところだったレイは慌てて口を押さえた。

「ああ、構わないからそのまま聞いてくれて良いよ」

 ルークも椅子に座って入れてあったカナエ草のお茶を一口飲んだ。

「明日、花撒き担当になってるのは聞いてるだろう?」

 口をモゴモゴさせながら頷くのを見て、置いてあった資料を手にする。

「明日の花撒きの後は、ヴァイデン侯爵の奥方のミレー夫人がお茶会にご招待くださったからな。城へ戻ったらレイルズとカウリ、それからタドラの三人で参加だ。いってらっしゃい」

 にんまりと笑うルークに、レイとタドラが声無き悲鳴を上げて突っ伏す。

「久々の魔女集会だからな。まあ頑張って行ってきてくれ」

「僕達だけ参加なんてずるい! ルークは? ロベリオやユージンは何してるの?」

 口を尖らせるレイに、ルークはさっき以上の満面の笑みになった。

「じゃあ俺の役と交代してやろうか? 俺は別に構わないぞ」

「えっと、ルークはどこに行くの?」

 嫌な予感に若干逃げ腰になりながら質問する。

「こいつら二人と一緒に、リューベント侯爵邸へ行くんだ。ラフカ夫人からのご招待でね。夫人が息子と一緒に作った花の鳥の見物に行ってくるんだよ」 

「取り巻き連中も、間違いなく来ているだろうからね」

 ロベリオの嫌そうな声に、レイは一瞬誰の事か分からなくて考える。


『初めての婦人会の夜会で、農作業の話をした貴方を馬鹿にしたご婦人方だよ』

『覚えているでしょう?」


 ニコスのシルフ達に教えられて納得した。

 それは、明日参加する予定の魔女集会程度の話では無いだろう。

「ごめんなさい、僕が悪かったです。ミレー夫人のお茶会に喜んで参加します!」

 隣ではタドラも必死になって頷いている。

「なんだ、残念。代わってもらえるかと期待したのに」

「ごめんなさい!ぼくがわるかったですう!」

 必死になって顔の前でばつ印を作るレイに、休憩室は笑いに包まれたのだった。

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